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第六章 【二つの世界】
6-125 突入
しおりを挟む次の瞬間、窓があった位置の方角から何かがぶつかる鈍い音がこの場にいる者たちの耳に伝わってきた。
……ドサ
その後に、意識なく人が倒れ込んだ音が聞こえてくる。
「……?」
状況は見えないが、ルーシーには何が起きたのかおおよその予測がついていた。
その予測が正しかったと、答え合わせのように玄関の扉が開いた。
開いた扉から、風が入ってくると同時に、巻き上げた粉が新鮮な空気と入れ替わるように外に漏れていく。
この白い粉自体には有毒性は無いが、喉に張り付くとヒリヒリするため布で口元を覆いながら家の中に入ってくる。
「やっぱりね……家の周りを防いでいて正解だったろ?」
「すごーい、良く分かったね。サヤちゃん」
その言葉を聞くよりも先に、部屋の中にいたエルフは片膝を付いてサヤの方を見て頭を下げる。
サヤはその姿を見て、手を向けて挨拶を返す。
「お疲れさん……問題なかった?」
「はい……サヤ様のお考えになられておりました通りに事が進んでおりました」
「あ……そう」
サヤはルーシーの家の者を救助に向かう際に、ナルメルに依頼をしていた。
空になったセイラム家をみてその行先を探るものがいるはずだとして、撤退した後の監視をお願いしていた。
エルフたちは、ルーシーの両親を救出し王都の警備を難なく逃れ、それらが一切怪しまれることなく脱出した。
その直後、一人のエルフは姿を消したままセイラム家の監視を開始する。
救出が終り、そこから一時間も経たないうちに警備兵と騎士団がセイラム家の門の前に並ぶ。
合図もなく門は開かれ、敷地内に入り込んだ一部の兵は、この場を仕切る隊長がとったわずかな無言の合図に従ってセイラム家の屋敷の周囲を取り囲んだ。
そこから誰一人逃がすことが無いように……
ドアや窓には鍵がかかっていることを確認した兵は、腰に下げた道具を持ち出し容易に解錠してみせた。
それと同時に、中から見つからないようにと身をかがめていた複数の兵が、開かれた扉から一気にその奥へと規則正しく突入していった。
先頭にいる兵は、左右背中合わせ盾と剣を構える。
周囲を見渡し、反撃が無いか警戒をする。
セイラム家の中で、自分たちよりも腕の立つ者がいないとは聞いているが、何か仕掛けをしていることも考慮しなければ自分や背中を預けている仲間の命は守れない。
その体勢のまま、二人は部屋な中を見まわすが、襲ってきたり誰かが出てくるような気配は感じられない。
男は、背中を預けている仲間に合図を送り警戒を解いた。
その動きを察してか、他の部屋に突入していた兵たちも警戒を解いていく。
後ろから軽装だが隠密行動に適した兵が数名入り、屋敷内の調査に入っていく。
扉の前で中の音を確かめ、扉を開ける際にトラップに注意しながら。
最終的にそのチームの一人が、隊長に報告をした。
「この屋敷には、誰一人おりません。隠し扉の類も調べてみましたが、何もありませんでした」
「なに!?ということは既に……いかがされますか?ソイ様」
「まぁ、こういうことは予測できていました。まずはこの家にある書類を全て回収してください……後でなんとでもできますから」
命令によって兵士たちは、セイラム家の家の中を盗賊のように荒らし始めた。
その様子を見ながらソイは、自分の行動が一歩遅かったことを後悔する。
(しかし……手が早いですね。ですが、それだからこそ誰が手配したのかわかりますけどね……)
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