問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
上 下
895 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-122 通り過ぎた嵐

しおりを挟む








「ふー……これからどうしようか?」



ルーシーは気持ちを落ち着かせるためと、この辺りの環境を把握するため、フランムと一緒に散策していた。
これほどまで急激に生活が変化を見せたのは、ルーシーが王選の精霊使いに選ばれた時以来だった。
だが、今回の王都から脱出した件については今まで以上に状況が変わってしまった。


「そうだねぇ……こうやって一緒にのんびり暮らすのはどう?ルーシーも”誰か”と一緒になって家族とか作ってみたら?」



「んもぉ!……フランムったら!?でも……さ。そういうのもいいわね、少しだけ憧れちゃうわ?」



ルーシーは耳を赤くしながら、相棒のフランムの言葉に返した。
お互いの気持ちが繋がっているため、それぞれが何を考えているのかある程度分かる。
フランムの言葉は本当にルーシーの幸せを願っての言葉だった。
ルーシーのお相手の対象が、誰のことを指しているのかも……


気持ちのいい風がグラキース山から山肌を降りてくる。
そんなに高くない草木が、その吹き降ろされた風に擦れながら心地の良い音を立てている。
しかし、その風はまだ乾いて寒さを感じるためルーシーは身を震わせた。



「ルーシー、そろそろ戻ろうか?食事の支度もあるし」


「そうね、家に戻りましょう」



ルーシーはこの数日、食事の時間が楽しみで仕方がなかった。
食べることによりも、その準備や家族で食事を共にすることがルーシーにとっては楽しかった。



家にいた頃は、食べきれない程の食事が並んでいた。
一度そのことを指摘すると、”それが貴族にとっては当然だ”と返された。
その頃セイラム家は、余裕のある家庭ではなかった。
使用人たちの人数も減っていき、王国から支給される貴族への給付がセイラム家の主な収入源だった。
給付額は、王国への貢献度によって異なる。
人材や資源など、王国に貢献する度合いによって給付額は増えていく。
貴族の中には、提供する物資の量を増やす手ために事業に手を出し、その資産を増やしていく者もいた。
だが、セイラム家は旧家のプライドもあるため、そういった商業的なことで資産を増やすことはしなかった。
だからこそ、ルーシーが精霊使いとなり王選に参加したことによって、セイラム家は再びその存在を王国の中に示せることに父親は喜びを感じていた。


そんな状況にルーシーは、ストレスを感じていた。
家のためにと精霊使いになったが、結局元の状態に戻ってしまっていた。
だが、この状況では家のプライドもなく、自分の命が助かったことへの喜びと、周りの者たちが自分たちの生活を損得勘定なく支えてくれていることに感謝の気持ちを持ちながら生活する両親の姿がルーシーにとって嬉しかった。



「……それじゃ、そろそろ帰ろうか?」


フランムと共に、心地よい風を頬に感じながらルーシーは家路につく。



「遅くなりました、今から食事の支度……!?」




ルーシーは扉を開けると、その違和感に気付いた。
狭い部屋の中で、父親の表情が依然と同じく険しいものに戻っていた。

そして、父親は心配しているルーシーに対して命令する。



「……ルーシー、支度をしなさい。王都に戻ります」





しおりを挟む
ツギクルバナー
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る

拓海のり
ファンタジー
 階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。  頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。  破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。  ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。  タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。 完結しました。ありがとうございました。

聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる

夕立悠理
恋愛
 ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。  しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。  しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。 ※小説家になろう様にも投稿しています ※感想をいただけると、とても嬉しいです ※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

【完結】内緒で死ぬことにした  〜いつかは思い出してくださいわたしがここにいた事を〜

たろ
恋愛
手術をしなければ助からないと言われました。 でもわたしは利用価値のない人間。 手術代など出してもらえるわけもなく……死ぬまで努力し続ければ、いつかわたしのことを、わたしの存在を思い出してくれるでしょうか? 少しでいいから誰かに愛されてみたい、死ぬまでに一度でいいから必要とされてみたい。 生きることを諦めた女の子の話です ★異世界のゆるい設定です

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜

白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」  即位したばかりの国王が、宣言した。  真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。  だが、そこには大きな秘密があった。  王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。  この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。  そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。 第一部 貴族学園編  私の名前はレティシア。 政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。  だから、いとこの双子の姉ってことになってる。  この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。  私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。 第二部 魔法学校編  失ってしまったかけがえのない人。  復讐のために精霊王と契約する。  魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。  毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。  修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。 前半は、ほのぼのゆっくり進みます。 後半は、どろどろさくさくです。 小説家になろう様にも投稿してます。

処理中です...