上 下
882 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-109 契約解除

しおりを挟む







「ルーシーさんは今どこなの!?」



ルーシーの契約精霊であるフランムが現れ、離脱するための作業は中止となっていた。
壁の向こうの状況も……突破されることもなさそうな状況だったためイナたちも落ち着いてフランムの言葉を聞いた。




「はい……ハルナ様たちと別れて自室を出た後ルーシーは、モイス様討伐のため精霊使いたちの指揮をとっておりました。ですがその途中で、騎士団の者たちがルーシーを取り囲み”反逆罪”で連行しようとしたのです!!」








「ルーシー様……ゴホン……いえ、王宮精霊使い長、ルーシー・セイラム。あなたに国家反逆罪の疑いがかけられております。無駄な抵抗をせず、おとなしく我々と一緒に来ていただきたい」



精霊使いたちを指揮するルーシーの元に、騎士団が一分隊を引き連れ現れた。
驚きのあまりにルーシーが指揮する精霊使いたちは、一斉にモイスへの攻撃を止めた。

ルーシーの身の拘束を命じられた分隊長も、ルーシーの下に付く者たちの動揺が手に取るように判った。


ルーシーは、王宮精霊使いの長となってからここまでわずかな期間ではあったが、この隊長が知る限りでは今までにこれほど配下の者を大切にし気に掛けた長の存在を知らない。
それは精霊使いだけでなく、王宮の中で勤めている者たちを取りまとめている長たちの中でも、いままでに見たことがない。
その対応は、時には厳しいものもあった。
もちろんその厳しさの裏に、ルーシーの愛情が注がれていることを、配下の者たちは充分に知っていた。
だからこそ、その下にいる者たちは不満もなく王国……いや、ルーシーのためにその力を発揮しようと努力をしていた。



しかし、隊長は国からの命令に逆らうことは出来ない……例えその対象が、この殺伐とした王宮の中において、唯一人間的に尊敬できる人物であったとしても。
この場にいる者たちの願いは、この状況が”嘘”であって欲しいということと、その罪が軽くなって欲しいということだった。


――次の瞬間、この場にいるほとんどの者の思いとは反対の行動をルーシーは選んだ。




「る……ルーシー!!」




緊張感から、姿を見せていたフランムはルーシーの名を叫んだ。


ルーシーは囲まれた人を押しのけて、この場から逃走した。
信じられないという思いから、一瞬警備兵も取り押さえるための動作が遅れてしまった。
ルーシーは包囲網の一番薄い場所を選び、そこから抜け出した。
精霊の力を使わずに。




「ルーシー!無駄なことはやめろ!!今すぐそこから降りてきなさい!」





逃げたルーシーは、城の横に用意された使用人が寝泊まりする塔の上の階の窓から姿を現す。
そしてそこから飛び降りようと、窓の縁に腰かけてその機会を伺っていた。



「ルーシー!やめてよ!一人にしないで!」


「ごめんなさい、フランム。あの方たちに手を貸した時から考えていたの……アナタとはここで契約はお終い、もう自由に……」


「何言ってるんだ、ルーシー!そんなこと許されるわけ……!?」


――バン!!




ルーシーがいる部屋のドアが突き破られ、警備兵は流れ込んできた。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

処理中です...