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第六章 【二つの世界】
6-95 違い
しおりを挟む重い扉は、再び中から押されて元の通りに閉まっていく。
先ほどと違うのは、扉の脇に立っていた二人の兵がいなくなっただけだった。
騎士団が常時見張っていたのは、この国の最上位の地位にいる王の部屋。
その部屋はこの城内で最上階にあり、この階は王や王族だけに用意された空間しかない。
メイドや一般警備兵も滅多に足を踏み入れることがなく、必要最低限の人材だけがこの階に配置されていた。
そのためこの階を行き来する者は少なく、この状況の発見は次の警備の交代までは猶予があるとフランムは説明した。
「さて……っと。これでゆっくりと探し物ができるってもんだよね!」
サヤは歩き疲れたのか、部屋の中にある高級ソファーの上に勢いよく腰を下ろした。
「……ハルナ、なにそんなとこで突っ立ってんの?アンタもこっち来て座りなよ」
ハルナは閉まった扉の前に立ち、この部屋の豪華な装飾品に視線を奪われていた。
そんな呆けている姿を見たサヤは、現実の戻すためハルナに声をかけた。
「ちょっとサヤちゃん、そんなにのんびりもしてられないんじゃないの!?パッと見たところ……あの”盾”はなさそうだし」
「そうです、サヤ様。早くお探し物を探さなければ、異変を感じ追手が来てしまいますので」
そんなハルナとフランムの心配を他所に、サヤは目を閉じてソファーの心地を確かめるように背もたれたまま目を閉じていた。
「サヤさ……ま?」
「……サヤちゃん?」
二人の言葉に、ようやくサヤは閉じていた目を開ける。
「……ん、あったよ。隠し扉」
「「――え?」」
その言葉に対し、サヤ以外のこと二人の言葉は簡単な言葉しか出ない。
サヤが何をしていたのかすら、あの行動からは誰も読み取ることができなかった
サヤはフカフカのソファーから未練もなく腰を上げ、王が執務をこなすための机の奥に見える扉を目指して歩いていく。
そして、扉の取っ手に手をかけて押し開いた。
――カ……チャ
サヤはゆっくりと、鍵の外れたその扉を奥へと押し開ける。
「……!?」
「どうしたのサヤちゃん!何か見つけたの!?……あ」
ハルナは、サヤの後ろから扉の向こうの景色を確認する。
だが、その部屋はいたって普通の”書庫”だった。
古書もあるのだろうか、開けた扉の奥から空気が流れ、そこには古い紙のカビのような匂いがハルナの鼻に入ってくる。
「本がいっぱい……だけど、それ以外は何もないよね」
サヤはこの部屋の感想を述べるハルナの言葉を他所に、部屋の中をグルグルと見まわしている。
「……サヤ様?」
フランムはそのサヤの様子が気になったのか、邪魔をしない程度に優しく背中から声をかけた。
「……違う」
「え?ちがう?って、何が??」
ハルナの質問にも答えず、サヤは開けた扉を勢いよく閉めた。
その行動は大きな音もたてずに、何事もなかったように静かに扉は閉まっていく。
これも、王の部屋における特別な素材や造りによるものだった。
サヤは扉の表面を指先で撫でていく、それは何か一つ小さな傷でも見つけようとしているかのような動きだった。
「あ、これか……」
サヤはそう呟くと、その見つけた場所に指先を当てて、じっと目を閉じている。
「……」
ハルナはその姿を見て、きっと自分にはわからない重要なことをやっているのだろうと、静かに邪魔をせずに見守っていた。
「……よし。開いた」
そう呟くとサヤは、再び目の前の扉を開いた。
「――あ!」
ハルナが思わず声を出したのは、開いた扉の先の景色が先ほどとは全く異なっているためだった。
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