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第六章 【二つの世界】
6-66 隠し扉
しおりを挟むここは王の部屋、寝室の奥には隠し扉が用意されている。
キャスメルは壁の前に立ち、壁の左右に付けられている燭台の軸を数回ほど回転させ、その隣にある床に置かれた棚にある本のいくつかを一定の手順で抜き差しすると”カチャッ”という音がして施錠が外れた。
燭台から蝋燭を手に取り、壁を押すときしんだ音を立てながら奥側へとその壁は開いた。
キャスメルは、手にした火が灯るろうそくを部屋の中にいれその様子を確認する。
大人の人間が三人程は入れる空間の中、奥側には水晶が乗せられた台座があり、その先の壁には一枚の盾が飾られてあった。
キャスメルはまず盾がこの部屋の中にあることを確認したのち、少し身をかがめ空間の中に身を入れた。
すると再び壁がきしむ音をたて、壁が閉じ部屋の入口の光も遮られてこの空間は元の暗闇に戻ろとしたがろうそくの明かりによって完全な暗闇からは免れた。
数歩進んで台座に近付き、水晶の横にある燭台の上にろうそくを刺した。
両手が自由になったキャスメルは、水晶を下からすくう様に抱え台座ごと手前に移動させた。
「ラファエル様……ラファエル様……聞こえておりますか?キャスメルです……ラファエル様」
その呼びかけに応じるかのように、水晶の中に緑色の渦が浮かび上がる。
『……しました……キャスメル』
「おぉ、ラファエル様。申し訳ございません、急ぎでご相談したいことがございまして」
『急ぎ?一体何が起きたのでしょうか?貴方ほどの”お方”が、対処できないことなんて』
「モイスが……反乱を宣言されました。これは一体どういうことですか?ラファエル”様”?」
キャスメルは大精霊のラファエルに対して遜った言葉を使っているが、その態度についてはその言葉とはかけ離れており徐々に言葉の方もキャスメルの態度に引きずられていった。
『モイスが……反乱?まさか……そんな!?』
「このことは嘘でも何でもありませんよ……これは一体どういうことですか?……まさか貴女がけしかけたとか……じゃないですよね!?」
キャスメルの言葉の中には、先ほどまでの人間を超越した存在に対する敬意は消え、反対に脅すかのような勢いが込められていた。
普通ならば、そんな弱小な人間からの態度に対して怒りを向けるところが、ラファエルはキャスメルの言葉に対して言葉を失っている。
確かにラファエルには、全く思い当たるところがない。
むしろ、誰かに嵌められたのではないかという思いが浮かんでくるが、それは決して口に出してはいけないとその浮かんだ思考を心の奥に沈めた。
『そ……そんなこと……私は……なんにも!?』
「……とりあえず、貴女からもモイスに考え直すように言ってください。王国の安寧を壊すことになりかねませんからね」
『わかりました……私から考え直すように伝えましょう……それと』
「あぁ……盾は、ここにあります。安心してください、誰にも渡さないように厳重に保管してありますから。それでは」
そう告げて、キャスメルはラファエルの言葉を遮るように水晶を持ち上げ元の台座に戻した。
その行動により水晶内の緑の渦は消え、透明な水晶の状態に戻っていった。
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