836 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-63 忠誠
しおりを挟む「で……どうするの?アタシたちの下に付くの?それとも消える?」
先ほどの質問をしてから、三十秒も経っていない。
目の前の人間は、この世界の上位の存在に対し自分の要求を満足させるために回答を急かしてくる……異様なオーラを放ちながら。
モイスの頭の中には、土壇場である考えが浮かぶ。
(……このモノたちを利用するとするか)
うまく取り入って、この能力の使い方を教わりさらに強くなる自分の姿を思い描く。
悔しいが生き延びるために……強くなる必要がある。
「あ、変な気持ちで下に付くのはやめた方がいいよ。手の平返したり、技術や能力を奪うこと考えてるなら、その時点でアンタのこと消すからね」
『――!?』
モイスはサヤの突然の言葉に、思わず驚きの声をあげそうになった。
その漏らした声が、人間の言った言葉に対しての”答え”となってしまうことは、モイスにはわかっている。
『ち……忠誠を……ワシ……いえ、わたしはあなた様に、忠誠を誓います』
サヤは、無邪気な満足そうな顔で突きつけていた包みを背中に戻す。
その顔を見て、ハルナはサヤの考えていることが判った。
きっと、ずっと欲しかったペットを――以前とは違う形だが――手に入れたことへの喜びが大きいのだと。
場所は変わり、王宮の中。
二人一組で石によってできた見張り台の上で、背中合わせの状態で周囲を監視している。
今までも特に大きな出来事が起こったことはなく、これからも起こることはないと信じて疑わなかった。
もう一人の男は、そろそろ交代の時間ではないかと、気持ちがそわそわしている。
今日の任務はこの見張りで終了し、明日は非番の日で懇意にしている女性と久しぶりに会う約束を取り付けていた。
「……おい、ペイム。最後まで気を抜くなよ。背中越しにお前の心中が漏れて伝わってくるぞ」
ペイムと呼ばれた男の隣にいる警備兵が、視線と表情を崩さないまま口をほんの少しだけ動かしながら気がたるんできた友人に警告する。
「大丈夫さ、ロム。警戒は怠ってないって……俺だって隊長に絞られたくはくないからな」
「……あ!?」
「お、おい……ロム、声が大きいぞ。今日は早く帰りたいんだ……勘弁してくれよ」
ロムと呼ばれた男の視線は、一点を見つめて動いていない。
そのことに異変を感じたペイムは、自分の範囲以外の包囲にその視線を移動させた。
「どうした……ロム?一体何が……」
ペイムは、友人のロムの身体に異変が起きたのではないかと心配し心臓の鼓動が早くなる。
確認したロムの口はわずかながらに動いており、目を細めて自分の意思で動いていることが確認できホッとした。
ロムは友人の視線を感じられたため、同意を得るためにゆっくりと腕を上げて視線の先を指さした。
そのことを不思議に思ったペイムは、指示されたままその方向に視線を向ける。
「……ったく、一体どうしたって……あぁ!!!」
二人は見張り役に指名される程に視力が高く、洞察力にも優れている。
空に浮かぶシルエットが、徐々に大きくなっていきその姿の名が二人の脳裏に浮かんだ。
「「り……竜だ!!大竜神だ!!!!」」
見張り台の上から叫ばれた声によって、王宮の中の空気が一気に張り詰めていった。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
転生したら、実家が養鶏場から養コカトリス場にかわり、知らない牧場経営型乙女ゲームがはじまりました
空飛ぶひよこ
恋愛
実家の養鶏場を手伝いながら育ち、後継ぎになることを夢見ていていた梨花。
結局、できちゃった婚を果たした元ヤンの兄(改心済)が後を継ぐことになり、進路に迷っていた矢先、運悪く事故死してしまう。
転生した先は、ゲームのようなファンタジーな世界。
しかし、実家は養鶏場ならぬ、養コカトリス場だった……!
「やった! 今度こそ跡継ぎ……え? 姉さんが婿を取って、跡を継ぐ?」
農家の後継不足が心配される昨今。何故私の周りばかり、後継に恵まれているのか……。
「勤労意欲溢れる素敵なお嬢さん。そんな貴女に御朗報です。新規国営牧場のオーナーになってみませんか? ーー条件は、ただ一つ。牧場でドラゴンの卵も一緒に育てることです」
ーーそして謎の牧場経営型乙女ゲームが始まった。(解せない)
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる