831 / 1,278
第六章 【二つの世界】
6-58 案内人
しおりを挟む――時は少し遡る
場所は山の麓で、ようやく人間と亜人との緊張が解かれた直後のこと。
「よかったじゃないのさ……誰も怪我しなくって」
「ホント……あの槍が飛んできた時はどうしようかと思ったけど、ステイビルさんの言う通り近くにいてよかったわね」
森の影から見守っていたハルナとサヤは、お互いの感想を言った。
王国側の警戒も解け、ステイビルとドイルが町の奥に入っていくのが見えた。
「それじゃあ、そろそろ次の行動に移ろうか?」
サヤはそう告げて、ハルナの肩を叩き行動を促す。
ハルナもそれに頷いて、サヤの後を追っていった。
「あー、ナルメルさん。ちょっといい?」
警戒を解いたナルメルが、ドワーフの長老と町の中に入ろうとした時にサヤに呼び止められた。
「あ、サヤ様!……なんでございましょう?」
ナルメルの言葉も、最初に合った頃より親しみが込められている。
案外サヤの言葉もきついが、その裏に隠れた感情を読み取ってくれていたのだろう。
そのナルメルの応答を見て、ハルナは少し嬉しく思った。
「あのさ……あたし達これからグラキース山に登ってくるんだけど、道案内一人お願いできない?あ、できれば足の速いやつがいいかな?」
「えっ!?いまから……ですか!?」
驚くナルメルを他所に、サヤは当たり前のように自分の意見が正しいと伝えた。
「そう、今からよ。……足の速いヤツ、誰かいる?」
ナルメルは短い間だが、サヤの性格を理解していた……サヤの言葉に、三度目はないことを。
「……ジン、こちらへ」
名を呼ばれたエルフは、その言葉に従い自分の行動を中断し、ナルメルの傍に近寄る。
「ナルメル様、なんでしょうか?」
「ジン……これから、サヤ様とハルナ様の道案内をお願いします。グラキース山の頂まで」
「か、かしこまりました。ですが、なぜ私に?」
ジンはエルフの中でも、最速に行動ができる能力を持つ。
主に隠密行動による情報収集やその伝達による役目が多く与えられた。
エルフの庭のようなグラキース山の登山の道案内など、自分でなくとも問題ないと考えたジンはその疑問をナルメルに投げかける。
その瞬間、誰よりも早くナルメルが不快感を示してジンに対して緊張感のある言葉を告げる。
「ジン……今はあなたの意見を聞いていません。私は、貴方に指示をしましたね?それでこの”命令”を受けるのですか?それとも拒否をするのですか?」
その緊張感が伝わったのか、ナルメルから指示されたエルフは片膝を地面に付き頭を下げた。
「……その命、お受けいたします!」
こうして、ジンはサヤとハルナにこれからの行動の指示を仰いた。
サヤは、そのあとすぐに山に向かい満足気に歩きだした。
麓の近くから離れた場所に移動し、サヤは近くにあった石を手に取る。
そして、聞こえるような聞こえないような音量で医師に向かって何かをつぶやく。
「……よし。それじゃあ、後でこの石を頂上まで一度置いてきてくれない?」
「は?お二人は……一緒に行かれないのですか?」
「あんたは……警戒ってものをしないのか?始めていく場所にノコノコと行くわけないだろ?」
「で、ですが……その石は」
「アタシたちの国の秘術で、様子を探る術をかけたのよ。そうすれば、危険があるかどうか見れるからね。その後にゆっくりと登ればいいってこと……わかんない?」
「か、かしこまりました。で、では早速……」
「ちょっと待った!」
「な、何か!?」
「最後の仕上げがあるんだけど、これは他の国の人に見せちゃダメだからさ。アンタ少し離れてて」
「……?わ、わかりました」
「その後、術が発動するから姿を隠すけど、アンタはこの石をもって頂上まで持っていくんだよ。いいね?」
サヤの言葉を信じ、ジンは一旦この場所を離れた。
そして再び戻ってきた時には二人の姿見えず、任務の石が地面に置いてあるだけだった。
0
あなたにおすすめの小説
勝手にサインしろと仰いましたので、廃嫡書類に国璽を押して差し上げました
鷹 綾
恋愛
「確認? 面倒だ。適当にサインして国璽を押しておけ」
そう言ったのは、王太子アレス。
そう言われたのは、公爵令嬢レイナ・アルヴェルト。
外交も財政も軍備も――
すべてを裏で処理してきたのは彼女だった。
けれど功績はすべて王太子のもの。
感謝も敬意も、ただの一度もない。
そして迎えた舞踏会の夜。
「便利だったが、飾りには向かん」
公開婚約破棄。
それならば、とレイナは微笑む。
「では業務も終了でよろしいですね?」
王太子が望んだ通り、
彼女は“確認”をやめた。
保証を外し、責任を返し、
そして最後に――
「ご確認を」と差し出した書類に、
彼は何も読まずに署名した。
国は契約で成り立っている。
確認しない者に、王の資格はない。
働きたくない公爵令嬢と、
責任を理解しなかった王太子。
静かな契約ざまぁ劇、開幕。
---
(完結)醜くなった花嫁の末路「どうぞ、お笑いください。元旦那様」
音爽(ネソウ)
ファンタジー
容姿が気に入らないと白い結婚を強いられた妻。
本邸から追い出されはしなかったが、夫は離れに愛人を囲い顔さえ見せない。
しかし、3年と待たず離縁が決定する事態に。そして元夫の家は……。
*6月18日HOTランキング入りしました、ありがとうございます。
つまらなかった乙女ゲームに転生しちゃったので、サクッと終わらすことにしました
蒼羽咲
ファンタジー
つまらなかった乙女ゲームに転生⁈
絵に惚れ込み、一目惚れキャラのためにハードまで買ったが内容が超つまらなかった残念な乙女ゲームに転生してしまった。
絵は超好みだ。内容はご都合主義の聖女なお花畑主人公。攻略イケメンも顔は良いがちょろい対象ばかり。てこたぁ逆にめちゃくちゃ住み心地のいい場所になるのでは⁈と気づき、テンションが一気に上がる!!
聖女など面倒な事はする気はない!サクッと攻略終わらせてぐーたら生活をGETするぞ!
ご都合主義ならチョロい!と、野望を胸に動き出す!!
+++++
・重複投稿・土曜配信 (たま~に水曜…不定期更新)
王女の中身は元自衛官だったので、継母に追放されたけど思い通りになりません
きぬがやあきら
恋愛
「妻はお妃様一人とお約束されたそうですが、今でもまだ同じことが言えますか?」
「正直なところ、不安を感じている」
久方ぶりに招かれた故郷、セレンティア城の月光満ちる庭園で、アシュレイは信じ難い光景を目撃するーー
激闘の末、王座に就いたアルダシールと結ばれた、元セレンティア王国の王女アシュレイ。
アラウァリア国では、新政権を勝ち取ったアシュレイを国母と崇めてくれる国民も多い。だが、結婚から2年、未だ後継ぎに恵まれないアルダシールに側室を推す声も上がり始める。そんな頃、弟シュナイゼルから結婚式の招待が舞い込んだ。
第2幕、連載開始しました!
お気に入り登録してくださった皆様、ありがとうございます! 心より御礼申し上げます。
以下、1章のあらすじです。
アシュレイは前世の記憶を持つ、セレンティア王国の皇女だった。後ろ盾もなく、継母である王妃に体よく追い出されてしまう。
表向きは外交の駒として、アラウァリア王国へ嫁ぐ形だが、国王は御年50歳で既に18人もの妃を持っている。
常に不遇の扱いを受けて、我慢の限界だったアシュレイは、大胆な計画を企てた。
それは輿入れの道中を、自ら雇った盗賊に襲撃させるもの。
サバイバルの知識もあるし、宝飾品を処分して生き抜けば、残りの人生を自由に謳歌できると踏んでいた。
しかし、輿入れ当日アシュレイを攫い出したのは、アラウァリアの第一王子・アルダシール。
盗賊団と共謀し、晴れて自由の身を望んでいたのに、アルダシールはアシュレイを手放してはくれず……。
アシュレイは自由と幸福を手に入れられるのか?
五年後、元夫の後悔が遅すぎる。~娘が「パパ」と呼びそうで困ってます~
放浪人
恋愛
「君との婚姻は無効だ。実家へ帰るがいい」
大聖堂の冷たい石畳の上で、辺境伯ロルフから突然「婚姻は最初から無かった」と宣告された子爵家次女のエリシア。実家にも見放され、身重の体で王都の旧市街へ追放された彼女は、絶望のどん底で愛娘クララを出産する。
生き抜くために針と糸を握ったエリシアは、持ち前の技術で不思議な力を持つ「祝布(しゅくふ)」を織り上げる職人として立ち上がる。施しではなく「仕事」として正当な対価を払い、決して土足で踏み込んでこない救恤院の監督官リュシアンの温かい優しさに触れエリシアは少しずつ人間らしい心と笑顔を取り戻していった。
しかし五年後。辺境を襲った疫病を救うための緊急要請を通じ、エリシアは冷酷だった元夫ロルフと再会してしまう。しかも隣にいる娘の青い瞳は彼と瓜二つだった。
「すまない。私は父としての責任を果たす」
かつての合理主義の塊だった元夫は、自らの過ちを深く悔い、家の権益を捨ててでも母子を守る「強固な盾」になろうとする。娘のクララもまた、危機から救ってくれた彼を「パパ」と呼び始めてしまい……。
だが、どんなに後悔されても、どんなに身を挺して守られても、一度完全に壊された関係が元に戻ることは絶対にない。エリシアが真の伴侶として選ぶのは、凍えた心を溶かし、温かい日常を共に歩んでくれたリュシアンただ一人だった。
これは、全てを奪われた一人の女性が母として力強く成長し誰にも脅かされることのない「本物の家族」と「静かで確かな幸福」を自分の手で選び取るまでの物語。
お兄様、冷血貴公子じゃなかったんですか?~7歳から始める第二の聖女人生~
みつまめ つぼみ
ファンタジー
17歳で偽りの聖女として処刑された記憶を持つ7歳の女の子が、今度こそ世界を救うためにエルメーテ公爵家に引き取られて人生をやり直します。
記憶では冷血貴公子と呼ばれていた公爵令息は、義妹である主人公一筋。
そんな義兄に戸惑いながらも甘える日々。
「お兄様? シスコンもほどほどにしてくださいね?」
恋愛ポンコツと冷血貴公子の、コミカルでシリアスな救世物語開幕!
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる