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第六章 【二つの世界】
6-45 妙案
しおりを挟む「……は?」
「”……は?”じゃないよ、あんた何聞いてたんだ!?重要なこと話したんだよ?アンタ、それでも隊長かい!?」
「サヤちゃん……さっきのじゃ、重要なことって伝わらないよ?」
「え?そう?……結構、雰囲気出して話してたから伝わったと思ったんだけど……へへへ、ゴメンね?」
そう言ってサヤは、照れて頭を掻きながら隊長と呼んだ男に詫びた。
その裏でサヤは、今まで長い間誰も自分に逆らってこなかった環境の中で、久々に自分が悪いという意見……しかも同じ世界から来たハルナから指摘を受けたそのことに、懐かしくも嬉しく感じていた。
とはいえ、隊長は”政権奪還”という不穏なキーワードに対しそのことが当たり前のように扱う二人に対して、いまだに正気を取り戻せていなかった。
「ゴホン……いきなりこんな話をしてすまなかった……私の方から今の話を補足させてもらおう」
そう言って、ステイビルは結論から告げられた話の内容を継ぎ足していった。
ステイビルの話を聞くと、王国のいち隊長にとっては何もかもが受け入れられない話の内容だった。
「な……なるほど。亜人たちと手を組んで……現政権を……奪い取る……ですか?」
ようやく隊長の頭の中で理解が追い付き、持ち掛けられた話の内容が単なる希望を並べたものではなく、実現可能な物である道筋が出来上がった。
「ですが、このお話……本当に信頼できるものですか?」
「そのことに関しては問題ない。我らがドワーフとエルフを裏切り、その恨みの深さは……今の状況の通りだ。だがこのお二方は、その上でこの話を決めてくれたのだ。だが、この話が万が一にも嵌められたものだとしても、だ。どこかの種族が滅亡するか我らがこの土地を手放さなければ決着がつかない状況において、ここまで被害の少ない結果を用意してくれたのだ。私はこの問題を終息させるための、最後の機会だと考えている。元々はこの命を代償として投げ出すつもりだった……だが、その後のことまで考えてはいなかった。この国を豊かに、そして争いのない国にしてみせるというあの決意……忘れてしまっていた。許してほしい……」
「な、何をおっしゃいますか!?ステイビル王子、お顔を上げてくださいませ!!今の現状は決して、ステイビル王子だけが原因ではございません!確かに裏切り行為などもございましたが、あれは全てキャス……んンっ!?申し訳ございません、”あの”者たちの手が掛かってしまっていた所為でございます!」
サヤはこの隊長の言葉が、かなりステイビルを気遣っていることに気付いた。
結局裏切り者を引き入れてしまった、ステイビルに問題があるはずだ。
しかし、それを隠してまでステイビルに賛同しているということを見て、この者がステイビルのことを強く慕っているということは感じられた。
サヤは心のどこかで、そのことを羨ましく思う。
(……アタシも甘くなったのかねぇ)
サヤはふぅっと息を吐き、自分がひっかきまわしたことを棚に上げ、やれやれと自分が話を前に進めることにした。
「で、アンタがステイビルの味方だってことは判ったんだけど。今の話からまだ、”敵”も多いってことだよね?それはどうすんの?」
「それについては……今いま思いついた案がございます。それは……」
隊長は、今までにない真剣な表情でその案を語り始めた。
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