問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
上 下
809 / 1,278
第六章 【二つの世界】

6-36 危険な存在

しおりを挟む









イナたちがこの場からは離れ、ステイビルたちに簡単な食事と寝具とも呼べないやや厚みのある布が一枚ずつ鉄格子の向こうから渡された。
警備のドワーフは用事が終ると、早々にその場から離れていった。
自分の身に何かが起こらないうちに……


警備の間の中で、良からぬ噂が流れていた。

”あの人間の女の一人は危険だ”――と。

その噂は、先ほどのデイムに付いていた警備員から始まっていた。
一部の者しか知らない秘密を見ただけで暴く力……”魔眼”の持ち主であるという噂が、この短い間に広がっていた。



その噂の根幹は、最近ドワーフの警備兵の中で流行りつつあった小説の主人公がこの”魔眼”を使って様々な問題を解決していくという内容の物語だった。


そのことをデイムに告げると”創作の物語と現実を一緒にするな!!”と叱られたが、その警備兵は間近で見たことが信じられず完全に否定をすることができなかった。





警備兵が去った後、再び薄暗い空間が戻るとステイビルは先ほどのことをハルナに確認した。


まずは、イナが嘘を見抜く力があるのかということ。
これに関しては、ステイビルにもある程度納得のいくものがあった。
ドワーフとのやり取りの中で、ステイビルが口にしたことは答えられなかったものも含めて、嘘偽りのない返答だった。
そのことに対して、イナはステイビルに不快感を表すことはしなかった。
そして、その後のハルナの言葉に対しての驚き具合から見ても、イナが相手の嘘を見抜く力を持っているということは正しいのだという確信があった。



ハルナは、サヤが用意してくれた設定を有難く利用しながら誤魔化しながらステイビルの考えで間違ってはいないと説明する。
ハルナ自身も実際にどのような形でその見分けを付けているのか、魔法についての知識もないためその能力についての詳細は判らないというのが本音だった。



「……そうですか。しかし、ドワーフの方々との交渉ができる余地ができたのは幸いでした……サヤさん、ありがとうございます」


「……ん」





サヤは下に敷いた布の上で既に横向きになって目を瞑っていたが二人の話は聞いていたのだろう、片を上にしていた腕で手をあげてヒラヒラと振った。
冗談なのか本気なのかはわからなかったが、サヤがステイビルに政権を奪うことを提案したことによりイナたちも何か今までになかったものに新しい道が開けたようにも見えた。



「こればかりは、向こうの判断を待つ他はないな……」



ステイビルは、そう独り言のように呟く。
そして、もう一つの出来事に対して思考を切り替えた。


”水の大竜神――モイス”


ハルナは誤魔化していたが、その存在については知っているのだろう。
どこでどのようなつながりがあるのか、ステイビルはそのことを聞きたくなった。
自分が加護を受けていない神とのつながりを。



「ハルナさん……先ほどの……」



そう言いかけたところで奥から物音がし、ステイビルは言葉を止めた。

奥から、ニナとサナが警備兵に付き添われながら姿を見せる。
そして、結合子の前に立ちニナが中の者たちに告げた。




「サヤ……ハルナ。二人は出てきて、私たちに付いてきなさい」








しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?

みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。 ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる 色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫

むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。

王太子様に婚約破棄されましたので、辺境の地でモフモフな動物達と幸せなスローライフをいたします。

なつめ猫
ファンタジー
公爵令嬢のエリーゼは、婚約者であるレオン王太子に婚約破棄を言い渡されてしまう。 二人は、一年後に、国を挙げての結婚を控えていたが、それが全て無駄に終わってしまう。 失意の内にエリーゼは、公爵家が管理している辺境の地へ引き篭もるようにして王都を去ってしまうのであった。 ――そう、引き篭もるようにして……。 表向きは失意の内に辺境の地へ篭ったエリーゼは、多くの貴族から同情されていたが……。 じつは公爵令嬢のエリーゼは、本当は、貴族には向かない性格だった。 ギスギスしている貴族の社交の場が苦手だったエリーゼは、辺境の地で、モフモフな動物とスローライフを楽しむことにしたのだった。 ただ一つ、エリーゼには稀有な才能があり、それは王国で随一の回復魔法の使い手であり、唯一精霊に愛される存在であった。

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

魔法が使えない令嬢は住んでいた小屋が燃えたので家出します

怠惰るウェイブ
ファンタジー
グレイの世界は狭く暗く何よりも灰色だった。 本来なら領主令嬢となるはずの彼女は領主邸で住むことを許されず、ボロ小屋で暮らしていた。 彼女はある日、棚から落ちてきた一冊の本によって人生が変わることになる。 世界が色づき始めた頃、ある事件をきっかけに少女は旅をすることにした。 喋ることのできないグレイは旅を通して自身の世界を色付けていく。

積みかけアラフォーOL、公爵令嬢に転生したのでやりたいことをやって好きに生きる!

ぽらいと
ファンタジー
アラフォー、バツ2派遣OLが公爵令嬢に転生したので、やりたいことを好きなようにやって過ごす、というほのぼの系の話。 悪役等は一切出てこない、優しい世界のお話です。

処理中です...