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第六章 【二つの世界】

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「よし、止まれ」


(……エストリオが、なぜこんなところに!?)


ステイビルは、この状況に疑問を感じる。
普段こんな周辺の警備を、エストリオ程の地位にある男がこんな仕事をするはずがない。
ステイビルの背中に、緊張感が走る。
今度はどんなことを言われるのか……せっかくハルナとサヤという不思議な力を持つ者たちの協力を得ることができた矢先に、次から次へと不安な気持ちがステイビルの心を暗くしていく。







「む……お前は確か……ソイ、だったか?」


「わたくしごときの名を覚えておいていただき、光栄です……エストリオ様」


「つまらぬ世辞などよせ……これからどこへ行くというのだ?」


「どこへ……ですか?材木屋が行くところなどに興味がおありなのですか?」


「貴様ぁ!!毎度毎度ふざけたことを言ってると……!?」


エストリオの後ろにいた本来の門番の警備兵が、自分たちの上の存在を馬鹿にされたと思いソイに対して感情を爆発させて威圧する。
しかしその感情をなだめたのは、馬鹿にされた対象となったエストリオ本人だった。


「よせ。落ち着け、いつもこいつはこういう態度でこちらのことを悪者にしようとしているのだ……さて、もう一度だけ聞こう。これからどこへ向かうのだ?」


二回目のソイに対するエストリオの質問は、明らかに重みが感じられこの場の空気が凍り付く。
ソイはその声にうっすらと額に汗をかき、心臓の鼓動を抑えな平常を装う。


「注文の荷物をソイランドまで届けに行くのです。どうやらあの町に新しい大臣が就任されたとのことで、建物を改装するために木材が必要とのことでうちの店に注文が入ったんですよ」

「……そうか」


ソイは、暗にエレーナのことを父親であるエストリオに吹っ掛けてみた。
だが、思いのほか動揺やそのことに対して反応も示さずに、ソイの顔を見つめその真偽だけを判断している。
ソイもそう持ち出してみたが、実際にエレーナの住む場所のリフォームのためにこの木材の注文が入ったのは間違いではなく、嘘は何一つ言っていない。


「……であれば、後ろの荷台を検査させてもらっても問題ないな?」


そういったのは、エストリオではなく先ほど感情を爆発させた警備兵だった。
いつもならば、全くそういうことをしないはずだった。
だが、今回はなぜか今までと違う対応をとってきた。

ここで動揺や拒否をすれば、もちろん怪しまれることだろう。
質問されてここまでわずか一秒足らず、これ以上返事を遅らせればよい方向には流れはしない。


「えぇ、どうぞ。怪しいものがないかどうぞお調べください」


「ふんっ!ここで待ってろ!!」


警備兵が馬車の後ろへ回ろとしたそのとき……


「わかった……もうよい。いけ」


そのエストリオの言葉に、警備兵は講義をする。



「エストリオ様!?何故調べないのですか!!」


「もし何かを隠していたとしても、大したものは隠されておらんよ。みろ、この馬車の重さからして相当の木材を積んでいるのだろう。これ以上どこに何を隠す隙間があるのだ」


「た……確かにそうですが……」


「後ろを見ろ、まだまだここの審査を受けたい者たちがあんなにいるのだ。早く通さなければ、夜になってこの者たちが盗賊に襲われるとお前たちの仕事が増えるだけだぞ」



「ぐぬぬぬぬ……よ、よし。ソイ、行け!」


悔しがる警備兵の顔を他所に、ソイはゆっくりと馬車を走らせ門を潜り抜けて外の街道へ出た。
エストリオは、再び詰所の奥へと姿を消した。









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