773 / 1,278
第五章 【魔神】
5-164 スーツ
しおりを挟む
5-164 スーツ
「倒し……たの?」
ハルナは目の前に起きたことを止められなかったことと、ヴェスティーユの命が尽きたことに対しての悲しみが入り混じる心で、振り絞るように言葉を発した。
「あぁ……そうだね」
ハルナはよくわからなかった。
この世界から元の世界に戻るという目的で、この世界を終わらせるということを。
この世界には、当たり前にこの世界で生きている人たちがいる。
エレーナ、アルベルト、ステイビル、ソフィーネ、マーホン、メイヤ……サナやブンデル。
それ以外にも、山で出会ったコボルトの長やあの森で出会ったギガスベアの群れも。
ハルナは、この世界で出会った人々に好意を持って接していた。
それが無に帰してしまうと考える……しかし、ハルナはその思考を即座に停止した。
(――そんなこと、考えられるはずがない!)
ハルナは頭を強く振って、その考えを頭からはじき出そうとした。
「なにやってんのアンタ……ほら、もう外に出るよ」
サヤは二人を刺した剣を手に戻し、ハルナの気持ちが切り替わるのを待たずにこの空間から強制的に排除した。
「……あ」
薄暗い空間の中にいたため、外の太陽の光はハルナの目には少し厳しく映る。
ハルナは手を挙げて、太陽の光を遮った。
次第に明るさに慣れてきて、ゆっくりと辺りを見回した。
「ふぅ……さて、これから世界の崩壊が始まるよ」
「あ、サヤちゃん。ユウタさんは?今どこに……」
そうするとサヤは首からぶら下げていた紐をひきあげ、胸の中にあった袋を取り出す。
その袋を開けて反対の掌の上で逆さまにすると、小さな石が掌の上に転がった。
「アイツはこの中にいるよ……オスロガルムとの戦いには何の役にも立たないからね。この中でのんびりとしてもらっているのさ」
「そうなんだ……サヤちゃん、なんでもできるんだね!」
「あんたが、何も知らなさすぎるんだよ……って今はそんなことどうでもいいんだよ。ほら、もうこの世界が変化を見せ始めてるよ」
そういうと、サヤは顎でハルナに後ろを見るように指示した。
それに従いハルナは、振り向くと普通の景色のように見えた……が、少し違う気がした。
「あ……れ?と、止まってる!?」
ハルナが見つけたのは、木が風にそよいだままの状態で時が止まっていることに気付いた。
「も……モイスさん!これ!?」
だが、ハルナの呼びかけにモイスは答えなかった。
「あれ?モイスさん!……モイスさん!?」
ハルナは周りをキョロキョロと見まわして、モイスの存在を探す。
そこには、あの判りやすい竜の姿はどこにもなかった。
「サヤちゃん!モイスさんがいないの!!……まさか、まだあの空間の中に!?」
「落ち着きなって、ハルナ!アタシはあのトカゲも含めてオスロガルムとヴェスティーユを除いた存在を排出したんだ……何かおかしいね。アタシの知っている”崩壊”の流れとはちょっと違うみたいだね」
「モイスさんがいなくなったのも……その関係で……!?あ、フーちゃん!フーちゃーん!?」
モイスがいなくなったことから、まさかと思いフウカの存在を確認しようとした。
だが、フウカもハルナの呼びかけに応えることはなかった。
「……魔素は、まだ使えるみたいだね。ハルナ、アンタも元素は使える?」
取り乱したハルナは、サヤの声をきっかけに無理やり気持ちを落ち着かせた。
ハルナは、左右の掌の上でそれぞれの属性を浮かび上がらせ、元素を扱うには問題がないことを確認した。
「これって……どうなってるの!?」
ハルナは、フウカとモイスのことが心配になり胃がキリキリと痛む。
その隣でサヤは、腕を組み何かを思い出すかのように目をつぶって考え込んでいる様子だった。
「ようやく……来たか」
そういうと、サヤは目を開けて組んでいた腕を解く。
その視線の先には、この世界にはない黒いスーツを着た男の姿があり、時が止まったこの世界の中を歩いて近付いてきた。
「倒し……たの?」
ハルナは目の前に起きたことを止められなかったことと、ヴェスティーユの命が尽きたことに対しての悲しみが入り混じる心で、振り絞るように言葉を発した。
「あぁ……そうだね」
ハルナはよくわからなかった。
この世界から元の世界に戻るという目的で、この世界を終わらせるということを。
この世界には、当たり前にこの世界で生きている人たちがいる。
エレーナ、アルベルト、ステイビル、ソフィーネ、マーホン、メイヤ……サナやブンデル。
それ以外にも、山で出会ったコボルトの長やあの森で出会ったギガスベアの群れも。
ハルナは、この世界で出会った人々に好意を持って接していた。
それが無に帰してしまうと考える……しかし、ハルナはその思考を即座に停止した。
(――そんなこと、考えられるはずがない!)
ハルナは頭を強く振って、その考えを頭からはじき出そうとした。
「なにやってんのアンタ……ほら、もう外に出るよ」
サヤは二人を刺した剣を手に戻し、ハルナの気持ちが切り替わるのを待たずにこの空間から強制的に排除した。
「……あ」
薄暗い空間の中にいたため、外の太陽の光はハルナの目には少し厳しく映る。
ハルナは手を挙げて、太陽の光を遮った。
次第に明るさに慣れてきて、ゆっくりと辺りを見回した。
「ふぅ……さて、これから世界の崩壊が始まるよ」
「あ、サヤちゃん。ユウタさんは?今どこに……」
そうするとサヤは首からぶら下げていた紐をひきあげ、胸の中にあった袋を取り出す。
その袋を開けて反対の掌の上で逆さまにすると、小さな石が掌の上に転がった。
「アイツはこの中にいるよ……オスロガルムとの戦いには何の役にも立たないからね。この中でのんびりとしてもらっているのさ」
「そうなんだ……サヤちゃん、なんでもできるんだね!」
「あんたが、何も知らなさすぎるんだよ……って今はそんなことどうでもいいんだよ。ほら、もうこの世界が変化を見せ始めてるよ」
そういうと、サヤは顎でハルナに後ろを見るように指示した。
それに従いハルナは、振り向くと普通の景色のように見えた……が、少し違う気がした。
「あ……れ?と、止まってる!?」
ハルナが見つけたのは、木が風にそよいだままの状態で時が止まっていることに気付いた。
「も……モイスさん!これ!?」
だが、ハルナの呼びかけにモイスは答えなかった。
「あれ?モイスさん!……モイスさん!?」
ハルナは周りをキョロキョロと見まわして、モイスの存在を探す。
そこには、あの判りやすい竜の姿はどこにもなかった。
「サヤちゃん!モイスさんがいないの!!……まさか、まだあの空間の中に!?」
「落ち着きなって、ハルナ!アタシはあのトカゲも含めてオスロガルムとヴェスティーユを除いた存在を排出したんだ……何かおかしいね。アタシの知っている”崩壊”の流れとはちょっと違うみたいだね」
「モイスさんがいなくなったのも……その関係で……!?あ、フーちゃん!フーちゃーん!?」
モイスがいなくなったことから、まさかと思いフウカの存在を確認しようとした。
だが、フウカもハルナの呼びかけに応えることはなかった。
「……魔素は、まだ使えるみたいだね。ハルナ、アンタも元素は使える?」
取り乱したハルナは、サヤの声をきっかけに無理やり気持ちを落ち着かせた。
ハルナは、左右の掌の上でそれぞれの属性を浮かび上がらせ、元素を扱うには問題がないことを確認した。
「これって……どうなってるの!?」
ハルナは、フウカとモイスのことが心配になり胃がキリキリと痛む。
その隣でサヤは、腕を組み何かを思い出すかのように目をつぶって考え込んでいる様子だった。
「ようやく……来たか」
そういうと、サヤは目を開けて組んでいた腕を解く。
その視線の先には、この世界にはない黒いスーツを着た男の姿があり、時が止まったこの世界の中を歩いて近付いてきた。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@2/28コミカライズ発売
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

婚約破棄され逃げ出した転生令嬢は、最強の安住の地を夢見る
拓海のり
ファンタジー
階段から落ちて死んだ私は、神様に【救急箱】を貰って異世界に転生したけれど、前世の記憶を思い出したのが婚約破棄の現場で、私が断罪される方だった。
頼みのギフト【救急箱】から出て来るのは、使うのを躊躇うような怖い物が沢山。出会う人々はみんな訳ありで兵士に追われているし、こんな世界で私は生きて行けるのだろうか。
破滅型の転生令嬢、腹黒陰謀型の年下少年、腕の立つ元冒険者の護衛騎士、ほんわり癒し系聖女、魔獣使いの半魔、暗部一族の騎士。転生令嬢と訳ありな皆さん。
ゆるゆる異世界ファンタジー、ご都合主義満載です。
タイトル色々いじっています。他サイトにも投稿しています。
完結しました。ありがとうございました。
聖女を騙った少女は、二度目の生を自由に生きる
夕立悠理
恋愛
ある日、聖女として異世界に召喚された美香。その国は、魔物と戦っているらしく、兵士たちを励まして欲しいと頼まれた。しかし、徐々に戦況もよくなってきたところで、魔法の力をもった本物の『聖女』様が現れてしまい、美香は、聖女を騙った罪で、処刑される。
しかし、ギロチンの刃が落とされた瞬間、時間が巻き戻り、美香が召喚された時に戻り、美香は二度目の生を得る。美香は今度は魔物の元へ行き、自由に生きることにすると、かつては敵だったはずの魔王に溺愛される。
しかし、なぜか、美香を見捨てたはずの護衛も執着してきて――。
※小説家になろう様にも投稿しています
※感想をいただけると、とても嬉しいです
※著作権は放棄してません

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

一家処刑?!まっぴらごめんですわ!!~悪役令嬢(予定)の娘といじわる(予定)な継母と馬鹿(現在進行形)な夫
むぎてん
ファンタジー
夫が隠し子のチェルシーを引き取った日。「お花畑のチェルシー」という前世で読んだ小説の中に転生していると気付いた妻マーサ。 この物語、主人公のチェルシーは悪役令嬢だ。 最後は華麗な「ざまあ」の末に一家全員の処刑で幕を閉じるバッドエンド‥‥‥なんて、まっぴら御免ですわ!絶対に阻止して幸せになって見せましょう!! 悪役令嬢(予定)の娘と、意地悪(予定)な継母と、馬鹿(現在進行形)な夫。3人の登場人物がそれぞれの愛の形、家族の形を確認し幸せになるお話です。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

【完結】白い結婚で生まれた私は王族にはなりません〜光の精霊王と予言の王女〜
白崎りか
ファンタジー
「悪女オリヴィア! 白い結婚を神官が証明した。婚姻は無効だ! 私は愛するフローラを王妃にする!」
即位したばかりの国王が、宣言した。
真実の愛で結ばれた王とその恋人は、永遠の愛を誓いあう。
だが、そこには大きな秘密があった。
王に命じられた神官は、白い結婚を偽証していた。
この時、悪女オリヴィアは娘を身ごもっていたのだ。
そして、光の精霊王の契約者となる予言の王女を産むことになる。
第一部 貴族学園編
私の名前はレティシア。
政略結婚した王と元王妃の間にできた娘なのだけど、私の存在は、生まれる前に消された。
だから、いとこの双子の姉ってことになってる。
この世界の貴族は、5歳になったら貴族学園に通わないといけない。私と弟は、そこで、契約獣を得るためのハードな訓練をしている。
私の異母弟にも会った。彼は私に、「目玉をよこせ」なんて言う、わがままな王子だった。
第二部 魔法学校編
失ってしまったかけがえのない人。
復讐のために精霊王と契約する。
魔法学校で再会した貴族学園時代の同級生。
毒薬を送った犯人を捜すために、パーティに出席する。
修行を続け、勇者の遺産を手にいれる。
前半は、ほのぼのゆっくり進みます。
後半は、どろどろさくさくです。
小説家になろう様にも投稿してます。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる