上 下
757 / 1,278
第五章 【魔神】

5-148 悪魔の訴え

しおりを挟む








「何にもしてこないね、あれ」


「どうします?あのタイプの悪魔って西の国でオスロガルムが使っていた気がしましたが」



少し速度を上げたモイスに、ハルナはフウカと共に後方の確認をしながら話しかける。
前を向きながらその気配を感じているモイスは、追跡者が攻撃を仕掛けても援軍を呼ばないことも不思議に感じていた。





『うむ、そうですな。あのくらいのコバエなら、ワシの一息で追い払えますが……どうしますか?』





モイスはハルナからの質問に対し、別な選択肢の質問で返した。
そのことに対し、ハルナは困った表情を浮かべつつ次の行動を考えた。




「そうですねぇ……とりあえず速度を落として追いつけるようにしましょう。そこで攻撃を仕掛けてきたら反撃して、そうでなければもう少し様子を見る……ってどうです?」


『お見事な判断ですな。では、そのように!』


「もう、モイスさんってば……きゃっ!?」




モイスは急に上昇し、空に中くらいの円を描くように回ってみせた。
その円周に軌跡は、ハルナが遠心力によって自分の背中から落下してしまわないように計算された角度で行われた。



「な!?何を……」


ハルナは、ジェットコースターに乗っていたような気持になったが、それよりも急にこのような行動をとったモイスに一言言いたかった。
しかし、次のフウカの声でその気持ちもどこかに消え去っていた。




「ハル姉ちゃん、随分と距離が縮まったみたいだよ。ほら、さっきより近付いてきたみたい!」



ハルナはフウカの声でモイスへの感情をどこかに、後ろを振り向いて状況を確認した。
すると、先ほどよりも追跡してくる悪魔の距離が狭まっていた。



ハルナは先ほどの通り、相手からの攻撃を警戒する。
だが、徐々に近寄ってくるがそれに対して危険は感じない。




「モイスさん、なんか……様子が変ですよ?」


『む?……なんですと』





そういう言うと、モイスは速度を落としその場に留まることにした。
それを確認した悪魔は、さらに頑張って今よりもほんの少しだけ速度を上げてようやく目標に追いつくことができた。

ハルナたちはその悪魔と対峙し、何か少し今までと違うと感じつつも警戒を続ける。
そして悪魔は、ハルナたちが考えていなかった行動に出た。



「キーキー!キーキー!」


「――え?」


「キキーキー!キーキキー!」


「な……何か言いたいことでもあるのかしら?モイスさん、わかります?」


『い……いえ、なにも。こいつらの思念はワシらのものとは違うので何を言っているのか全く……』




モイスやラファエルたちは、同じ元素を扱えるものたちの思念は感じ取ることができるが、魔素を介して存在する者たちの意識は通じることができなかった。
おなじく魔素を扱う亜人たちは、それとは別にこの世界の共通語を話せるために意思の疎通は可能だった。

だが、低能で異属性の存在については意思の疎通は困難だった。



「どうしよう……何か言いたいことがあるのはわかるんだけど。こっちの話は通じないのかしら。……ねぇ落ち着いて、ゆっくり話してちょうだい!?」



ハルナのその問い掛けにも応じず、悪魔は相変わらず甲高い声で何かを訴え続けていた。




「……ねぇ、ハル姉ちゃん。何か大変なことが起きてるみたいだよ!」




フウカのその言葉から、この状況は動き始めた。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...