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第五章 【魔神】
5-144 一人の不安
しおりを挟む「ここが……中心……イテ!?」
平らな場所だと思っていたが、指先に鋭利なものを感じて指の腹を切ってしまった。
「いつつつ……」
本当は然程の痛みは感じていない……だが”生きていた”時の名残りで、これだけ魔物として長い時間が経ってもこの感覚や反射をしてしまうのは、人の容姿を保っているためか、はたまたそれを忘れてしまいたくないためなのだろうか。
ヴェスティーユは傷付いた場所を見ると、そこから黒い瘴気が体内から滲み出ている。
瘴気は粘性の生物のような動きをみせながら。割れた傷の中で蠢いている。
その生き物のようなものは自らの意思で動き始め、割れた皮膚の表面の端を掴みとって開いた出窓の扉を閉めるように塞いでいく。
今ではヴェスティーユも慣れたものだが、初めはその動きと自分の身体の中にそんなものが動いていると知ったときは、自分の身体に対して吐き気を催すほどの気味悪さを感じていた。
しかし母親のサヤから、もともと人間は様々な微生物の恩恵を受けて成り立っているとヴェスティーユに説明をした。
細菌類と戦い、それに打ち勝って共存するもしくはそれを取り込むことによって更なる微生物の脅威から人は身を守ってきたということを説明した。
ヴェスティーユはサヤが何を言っているのかわからなかったが、姉のヴァスティーユがにっこりと”私と同じね”と微笑んでくれてから、自分の身体について悪く思わなくなっていき自分の身体の便利さにも気付いていった。
何よりもヴァスティーユと同じ身体で、一緒にいられることがヴェスティーユが安心できる一番の材料だった。
「ヴァスティーユ……お姉ちゃん……私……これから……大丈夫かな」
ヴェスティーユは爆発した中心部を両手で包み、姉がここにいたという事実を噛みしめていた。
涙は出ない。
しかし、一人になったという不安から今までにない……人間のころに感じた悲しみの感情がヴェスティーユの頭の中を埋め尽くし身体中の力が抜けていく。
そんな中、偵察中の悪魔から流れ込んでくる映像の中に新しい情報が発見した。
遠くの方ではあるが、普段は見かけない飛行する存在を見つけた。
「あ!……これは?……あのトカゲ!?」
さらにその視界を追っていくと、背中には誰かを乗せているような影も見える。
「うーん……これは、お母様が探している奴だ!!」
ヴェスティーユの身体には急に全身に力がみなぎり、急いで立ち上がって悪魔が見つけた方角と距離を送られてくる情報の中から割り出した。
「フーン、ちょっと遠いけど追いかけられない程じゃないね」
ヴェスティーユは手についた砂を両手を叩き合わせて落とし、ハルナたちが移動している空の方向を向いた。
「でも、なんであの二人がいっしょにいるんだ?……他の奴らは?」
ヴェスティーユは頼れる姉がいない分、自分で考えないといけないと思慮を巡らせる。
しかし、考えても疑問点は出てくるがそれに対しての答えや推測が生まれてこない。
ハルナたちはその間も進んでいき、自分との距離が離れている。
「あー、だめ。とにかく行ってみっか!!」
そう言って歩きだそうとしたその時、背後に気配を感じその行動を止めた。
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