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第五章 【魔神】

5-125 人質

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「お母様……戻りました」


「……なにしてたんだい?随分と遅かったじゃないか」



サヤのその言葉に、ヴァスティーユの心に一つ波が立つ。
過去サヤに話しかけたとしても、何も返ってこないか酷い言葉しか返ってきたことはなかった。


「それが……」


ヴァスティーユはヴェスティーユの行動中にオスロガルムが現れ、人質に取られたことを報告する。
その報告の間、サヤは何も話さずに黙ってヴァスティーユの言葉を聞いていた。



ただ、サヤがこの報告を聞いた後にどのような行動に出るかは掛けだった。
オスロガルムもヴァスティーユの提案によってこのような行動に出たが、サヤが出てきても出てこなくても結果は変わらないと判断し、例えそれがヴァスティーユの作戦であったとしてもそれに乗って損はないと判断していた。









『しかし……ここも変わらぬな』




ある崖の途中にある洞穴の中、そこにオスロガルムは捕捉されたヴェスティーユを前に座っていた。
この場所は、オスロガルムが名前を持つ前からここに存在し、この世界の一部を眺めていた場所だった。



『果たして……あいつのいうことは本当なのか?』



オスロガルムは、横たわる餌に対して疑問を投げかけるが口がふさがれているためその言葉は返ってはこない。



『サヤにとっては、お前もワシもただの自分の欲望を果たすための道具にすぎんのだろうな……アヤツはそういう奴だ』



そう言いつつも、オスロガルムはその考え自体が悪いことだとは思ってはいなかった。
だからと言って、サヤが行おうとしている行動は容認できるものではない。




『ヴァスティーユの奴……上手くサヤを連れてくることができるのか?』




この作戦に乗ったとき、ヴァスティーユは妹を大切にしていると話していた。
身体は他と入れ替わっているが、この世界に残された一人だけの家族だという。
その大切な家族を人質として、オスロガルムの傍に置いておくことが信頼してもらうための証だとした。

その行為に、オスロガルムは何の意味があるのかと疑問を抱いていた。
”欲しいものは奪う”、それは力のある者が弱者に対して行ってもよい特権だとオスロガルムは考えていた。
その理は、意識だけのあの時から何も変わってはいない。

いくら人間や亜人たちが感情によってその衝動を抑えたとしても、元々この世界に出現した際に備わっているモノは変えることはできない。
現に西の王国でオスロガルムが襲撃したことに対し、例えステイビルたちがオスロガルムを恨んだとしてもオスロガルム自身には何ら罰を受けていないのだから。



オスロガルムはその場に立ち上がり、外の様子を見るため洞窟の入り口までゆっくりと歩いて行く。
すると、空の向こうから数体の悪魔に支えられながら飛んでくる人影が見えた。



『やっと来たか……サヤよ』




そうつぶやいて、オスロガルムはサヤが着地する場所を開けてその様子を見守っていた。










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