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第五章 【魔神】
5-112 闇の世界11
しおりを挟む「この力……気持ち悪いけど。助かったわ……」
サヤは仰向けの状態から足を上げ、それを振り下ろす勢いで振り子のように上半身を起こした。
この能力はあの存在……オスロガルムから与えられた力であると気付いた。
一匹の狼を取り込んだ際に、頭の中にそのデータが流れ込んできた。
その能力はオスロガルムからは聞いていたが、それ以外の者がその能力を使うとこのようになるとは知らされていなかった。
そのことに対しサヤの中に怒りが込み上げかけたが、オスロガルムにとっても初めてのことだろうと責めることは出来ないと感情を静めた。
すると、その背後に気配を感じた。
『どうだ……その力は?』
「あぁ、まぁまぁだね……それよりあんた、アタシが襲われてたのに黙ってみてたの?」
『いや、いま来たところだ。お前が困っていると感じてな、戻ってきたところだが無事なようだな』
「そ……。まぁ、なんとなくわかってきた気がするわ。アンタがくれた能力ってものが……さ」
『そうか……そいつは、”狼”というのか。群れをなして獲物を狩るタイプの生き物のようだな。だが、飛べない部類の生き物では初めて見たな』
サヤは今の会話で、一つ感じたことがあった。
それはオスロガルムとサヤとの間に、感覚と情報の共有が行われている可能性があるということだった。
これは双方向なのか、一方向なのか……これに関してはまだはっきりとしていないが、サヤの感情がオスロガルムに対して伝わっていたのは確かだった。
そのためどこか別の場所にいたオスロガルムは、こうしてサヤの元に戻ってきたのだから。
それと、サヤが魔素によって取り込んだ存在のデータも、そのままオスロガルムに渡っているということだった。
それもオスロガルムの能力か、それとも自分でコントロールできるものなのかは不明なため、このことを直接オスロガルムに確認することは避けた。
「まぁ、何とか助かってよかったよ……それよりアンタは、今まで何してたんだ?」
『ワシか?ワシはな……』
そこから語られたことは、サヤに対する感謝の言葉だった。
オスロガルムはこの世界で実態を得たことによって、好きなように移動ができるようになった。
ずっと鳥類のデータをとっていたため、飛行行動に対するシミュレートを繰り返してきた成果が出ていた。
オスロガルムはサヤの形状に沿って人型の形をしているが、その形状は自在に変化可能だった。
背中から羽を生やし、そこに風を受けて飛行する訓練を行っていたが、鳥類のように体幹の重さに対して羽が浮力を生じさせることができなかった。
そのため、オスロガルムは空気中に漂う魔素の流れを操り利用することで、本体を浮かすことを可能とした。
こうしてオスロガルムは、移動でかなり高い自由を得て様々な場所に移動をしていた。
そして、今までに見たことのない生き物を片っ端から取り込んでいき、その情報を集めていった。
「アタシがちょっと意識を失ってる間に……」
『ちょっと……か。確かにワシが過ごした時間という者から考えれば、ちょっとという尺度は当てはまるが。お前は彼我の沈んで昇ることを一日というならば、三日は意識がなかったことになるな』
「え?……そんなに気を失ってたの!?」
その間、他の生物に襲われなかったことは幸運だったのか。
サヤはそんな長い時間、オスロガルムに放置されていた怒りも忘れてしまっていた。
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