718 / 1,278
第五章 【魔神】
5-109 闇の世界8
しおりを挟む「……なるほどね、そういうわけだったの。アンタも苦労したんだね」
『……』
サヤから掛けられた気遣いの言葉に、存在を示している意識は何も反応を示さない。
そのことに対してサヤは何も感じず、聞かされた話の中で気になっていたことを問い質した。
「で、アンタはいまどうしてここに出てこれているの?意識だけで、あの場所から出られなかったんじゃないの?」
『それは先ほど、お前の一部を頂いたからだ。どういう理由かはわからぬが、あの場所から抜け出すことができた……礼を言う』
「それが、”相性”ってやつなのかね?アタシの身体が、アンタにあったっていうか……」
『あいしょう……それがどういうモノか分からんが、お主だけがワシに変化を生じさせたことは確かだな』
「そうね、それが事実だね。アタシも、ここがどこかも分からない場所に来たこともそうだしさ」
それでも、サヤはなにも分からないこの世界に来たときよりも、今の方が気持ち的に楽になっていた。
姿こそ見えないが、話しかけたことに対して言葉が返ってくることが、数日間一人きりだと思っていた鞘にとっては希望となっていた。
「それじゃあ……約束通り、アタシの身体を取っていいわよ。アンタのその魔素を扱える能力ももらえるんでしょ?できれば、アンタが今まで知ったことも教えて欲しいんだけどね」
『あぁ、わかった……お前の望むようにしよう』
「で、どうすればいいの?」
『先ほど、穴に入れた方の腕を出すがいい……その傷からお主の体液を頂き、そこにワシの力を入れる』
「おっけ、痛くしないでね……って痛みは感じないはずだけどさ……っとその前に」
『……なんだ?』
「アンタのさ……名前を教えてよ」
『ナマエ……なんだそれは?』
「名前って、アンタのことを認識したり読んだりする呼び名よ」
『そうか……今までの生き物たちは、お互いの仲間を匂い、音、形で認識していたからな。このように意識で伝わるのなら、そういう呼びかけるためのモノが必要ということか……ワシにはそういうモノはもってはおらんよ、好きに呼ぶがいい』
「うーん……そうねぇ」
サヤは腕を組んで目を閉じて、この存在に似合った名を考える。
「……あっ!」
サヤは何か思いつき、左の掌の上を右の手で握った拳を打ち付けた。
「アンタの名前……”オスロガルム”ってのはどう!?」
『オスロ……ガルム?』
「そう。あたしがね、創ってたゲームのボスの名前なんだ。結局途中で挫折したんだけど……シナリオは出来上がっていて、プログラムしてる途中で……こんなことになっちゃったんだけどね」
『……全体的に何を言っているのかはわからんが、どのように呼ばれようが一向にかまわん』
「そ、そう?もうちょっと喜んでもらえるかと思ってたんだけど残念ね……でもいいわ。じゃあアンタはこれから”オスロガルム”ね」
『それでは、お主のことは……”アタシ”と呼べばいいのか?』
「はぁ!?それは第一人称で、自分のことを指す呼び名なの!……アタシの名前は小さい夜って書いて、サヤっていうの、よろしくね」
『うむ、サヤ……か。わかった』
「それじゃ、オスロガルム。さっさとやっちゃって!」
そういってサヤは、ボロボロの服の袖をまくり傷が付いてところどころ赤くなっている腕をオスロガルムに向かって突き出した。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話
カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
チートなんてない。
日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。
自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。
魔法?生活魔法しか使えませんけど。
物作り?こんな田舎で何ができるんだ。
狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。
そんな僕も15歳。成人の年になる。
何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。
女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。
になればいいと思っています。
皆様の感想。いただけたら嬉しいです。
面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。
よろしくお願いします!
カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。
続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる