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第五章 【魔神】
5-106 闇の世界5
しおりを挟む「ふー……ん。それで、なんで”あたし”がってことになったの?」
『それは、お前がこの世界にはない新しい感情を持っておったからな……』
「新しい感情?……なにそれ?」
『お前は、今までに何か大きな理を犯したことがあるか?』
「コトワリ……って、例えばどういうこと?」
『そうだな……この世界の生き物は、自然の法則に従って生きておる……この世に生まれ、育ち、朽ちていく。これが一通りの生き物たちが与えられた流れだ。だがその流れの中で与えられた命を全うしなかった者、もしくは”その命を投げ出しまで他の者の命を奪ったり”……とな』
その言葉に、サヤの中に思い当たるようなところもあった。
だが、それによって心の中に波が立つようなことはない。
元いた世界では、恥ずかしさや悔しさなどで、胸が締め付けられるような痛みが生じるほどの記憶もあった。
この世界に来ては、そういうことを思い出しても胸に何も痛み苦しみを感じることはなくなっていた。
「確かにね、思い当たるところはあるわ。……だけどね。それが何って感じなんだけど。それに、この世界に生きている生物はお互い殺し合ったりしないの?」
『その目的によるな。この生き物たちは餌を狩り、それを喰らい生きておる。その際に、相手の命を奪うのは当たり前だろうよ……だがな、それはあくまでも自らが生きるために起こした行動だ。そこには自分が生きるためという理由と、自らもその立場になるであろうという”覚悟”もあっての行動なのだ』
「……」
『これはほんの一例だがな。ワシも長い間この世界を見てきた中で、考え導き出したいくつかある世界の理の一つだ』
「なんだい?理ってやつは、何個もあるっていうの?」
『そうだな……見てきた中ではいくつかの状況に分かれ、それぞれの理があるようだがな……だが、それも本当のことかどうかは判らん』
「……」
『その中に、その世界に存在する力の元となるものがあるのだ』
「それは?」
『それは、四つの力を生み出すタネともいえる力だ』
そのタネの名は、のちに”元素”と呼ばれるようになる。
この世界のあらゆるものを構築するための源となることを、この世界の生き物たちは知ることになる。
「で、その力とこのことにどんな関係があるっての?」
『聞け、まだ話の途中だ……その先に続きがあってな。その力には四つの他に二つある……光と闇だ』
この世界でも太陽が昇れば月が沈み、月が昇れば太陽が沈む。
この働きも、二つの力によるものであると考えていた。
輝かしい世界、その対極にある暗い世界……
『どうやらこのワシは闇の方の力と相性がいいようなのだが、先ほど伝えたようにこの世界にはいまだその力をうまく扱えるような素材がいないのだ……だがお前は違った。このワシが持つ力を存分に使いこなせることができるだろうよ』
「……なんだか、アタシが悪者の中みたいで気分はよくないけどね」
『……ワルモノ?それがどうした?事の善悪など、その者たちが見る方向が変わればその価値はお互いに入れ替わることにもなる。その価値は誰が決めるのではなく己自身ではないか?』
「なんか、落とすためにいいことばっかり言ってる気もするけど……まぁ間違ってはいないわね」
サヤはこの世界に来てから数日間、記憶の中にあった今の状況になってしまった行為に対して自信を責めていた。
だが今は、その言葉やこうして話しかけられていることからも、少しずつ罪の意識が和らいでいった。
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