上 下
702 / 1,278
第五章 【魔神】

5-93 ヴァスティーユ5

しおりを挟む









「そうだね……親か……一度も結婚したことはないんけどさ。そんなことより、あんたにはこれからあたしのために頑張ってもらわないといけないからね。長い間……ずっとね」


ヴァスティーユはその言葉の意味が、ところどころがよくわからなかった。
だが、お願いされていることは理解できた。
そして、妹とは別にもう一つ気になっていたことをサヤに確認する。


「あの……なぜ助けて下さったのでしょう?」



「何言ってんだい?あたしは助けてなんかないよ」

「え、でも……こうして……生きて」



そう言いかけた時、この場所へ来る直前の記憶が再びよみがえる。
あの時、あの男から守ってくれたのは目の前の女性で最後に手を伸ばして”何か”をしたのもの同じ人物だった。


「生きている……っていうか生存しているだけかな。あんたが言う”生きている”って言うことに対して説明するならね」


「……?」


ヴァスティーユはよくわかっていない顔をしていたが、この問題は正しく説明しないとヴァスティーユの疑問は解消されないとサヤは判断した。


「いいかい?あんた……いや、あんたたちは死んだんだよ。このあたしの手にかかってね」



サヤは、実験用の素材を探していた。
だが、それは今までの結果から誰でもいいというわけではなかった。
サヤが今回探していた素材の条件は、『強い悪意を持つ者』だった。

しかし、それを聞いたヴァスティーユはさらにわからなくなった。
自分には悪意がなかったと感じている、恐怖や悲しみはあったが悪意などは抱いていないと告げた。



「そんなわけないよ。あんたには強い悪意……殺意があった。覚えてないのか?あの茂みの中で、あんたの妹を見つけた時のこと」



「……あ」



「……思い出したようだね。そう、あの強い殺意を感じて、あたしはあんたのことを追いかけたんだよ」


そしてサヤはヴァスティーユの気配を探して追いかけていると、あの集落にたどり着いていた。
そこには、一人の男が怒りで心を中を満たし、その感情のまま行動を起こしていた。
だが、その悪意もあの時感じたヴァスティーユの濃度には到達していなかった。


「なぜ、あの集落の者を全て殺したのでしょうか」


「それはね、実験もあったけどあたしのことを知る者やそれにかかわる形跡を残さないためだね。あんただけ連れ去ったら、どこに消えたのかっていう疑惑が残るじゃない。だから、あの集落の者全員を対象にすれば、それ以上問題になることはないよね?」




ヴァスティーユに届いたサヤの言葉は、きっと恐ろしいことを言っているのだろうと感じていた。
だが、あの時感情が壊れてからは恐れなどのデメリットの感情は一切湧いてこなかった。
とにかく、今は妹を何とかしてほしいとサヤに伝えてみた。




「……あぁ。そのことだけど、今は力を貯めなきゃいけないからすぐにはできないね。だけど、あんたの妹の意思はここに残ってるから、それに合う身体さえ見つかればこれを入れて適合すれば復活するよ。まぁ、外見が変わるのは勘弁してよね、元の身体はもうぐちゃぐちゃになっちゃったからさ」



サヤはそういって、蠢く肉塊の方を指さして自分の実験の失敗した痕跡を笑って見せた。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

魔晶石ハンター ~ 転生チート少女の数奇な職業活動の軌跡

サクラ近衛将監
ファンタジー
 女神様のミスで事故死したOLの大滝留美は、地球世界での転生が難しいために、神々の伝手により異世界アスレオールに転生し、シルヴィ・デルトンとして生を受けるが、前世の記憶は11歳の成人の儀まで封印され、その儀式の最中に前世の記憶ととともに職業を神から告げられた。  シルヴィの与えられた職業は魔晶石採掘師と魔晶石加工師の二つだったが、シルヴィはその職業を知らなかった。  シルヴィの将来や如何に?  毎週木曜日午後10時に投稿予定です。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...