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第五章 【魔神】
5-80 疑問1
しおりを挟むクリエは目覚めた後、自分の身に何が起きたのかが、気になって仕方がなかった。
理由がわからない間は、様々なよくない思考がクリエの頭の中を埋め尽くしていく。
ステイビルたちが部屋を退室した後、一人にさせてはいけないとローリエンがカルディにその場に残ってもらうようにお願いした。
クリエも一人でいるよりは二人でいる方が気がまぎれたのか、目をつぶり横になると身体が欲しているのか再び深い眠りの中へ意識は沈んでいった。
そして再び、クリエは目覚めた。
クリエは長い期間、幽閉されていたにもかかわらずその身体はきれいな状態だった。
それはまるで、姿を消した日から時が止まっていたかのようだった。
カルディに言われて、念のためクリエは湯を浴びてから身支度を整える。
その間もカルディはクリエの傍にいて、それらの行動を手伝ってくれていた。
クリエは一人でできると申し出たが、まだ大丈夫じゃない可能性があると一緒に行動をしてくれた。
準備が整うと、クリエとカルディは大きな会議室へと向かった。
そこにはキャスメルたちやステイビルの仲間、王と王妃の姿がある。
その他、西の王国のニーナ、騎士団長のヴェクターと王宮精霊使い長のシエラ……そしてハイレインの姿もそこにはあった。
そして、今度こそクリエは自分の意識がなかった間のことを知ることができた。
それでもその内容は、クリエが失踪してからのキャスメルの様子などは話していない。
そのことを話せば、クリエがさらに責任を感じてしまうことは判っていたためであった。
一通りの状況の説明を受けたクリエは、やはり今回の件が自分が捕まったことによって起きてしまったことであると理解した。
そんな表情をするクリエに対し、キャスメルは何の言葉も出ない。
こうして助かっただけでもキャスメルとしてはありがたかったが、クリエの気持ちを救う言葉は今浮かんでは来なかった。
そんな空気を察してか、ステイビルはクリエ言葉をかけた。
「クリエよ……そこまで気に病む必要はない。どちらにせよ、あの魔物たちはあの剣を狙っていた。……ここにいるニーナには申し訳ないが、オスロガルムのような被害がこの国で出なかったのは幸いだった。二つの国が同時に襲撃を受けていたのならば、どちらの国もすぐには復旧できない程の損害を受けていただろう…ヴァスティーユにしてもクリエをさらったのは一つの理由でしかない。あの場にいた者全員にその可能性があったのだ」
ステイビルの言葉に、グレイネスもローリエンも頷いている。
クリエは、そういわれて少しだけ心が軽くなり、最後にキャスメルの顔を見る。
キャスメルも頷いてくれたため、”いまは”そのことに対して何も考えないようにした。
「それで……あの剣は何か力が込められた剣なのですか?」
ハイレインが、話の流れを変えるために話題を投げかける。
その回答を求めて、この場にいる者たちは本来の所有者である西の王国のニーナに目を向ける。
以前あったような気弱のニーナはそこにはいない、一国の王女としての姿がそこにはある。
「いえ。我が国に代々伝わってきたことは承知しておりますが、その秘められた力などは存じ上げておりません」
「確か、モイス様に聞いた話だと……東の国を興した双子の一人が持っていたのよね?」
エレーナの言葉に、一同の視線はモイスへと向けれられる。
『うむ、そうだ。その様子をワシはずっと見守ってきた……が、既にあの者たちは剣と盾を手にしていたのだ』
「え?それって……モイスさんが与えた物じゃないんですか?」
『そうだとも、ハルナよ。あの剣と盾が誰からどのように渡されたのかは、ワシの知る限りではない。だがな……』
『だがな。あの者たちはあの剣を”カギ”だと言っていた』
「カギ……ですか?」
『うむ。それ以上のことは聞けなかったが、その剣がカギであるということと、人間や我らには扱えぬといっておったな』
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