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第五章 【魔神】
5-70 これからとるべき行動
しおりを挟む『……ということなのだよ』
モイスの話の後、シュクルスはいつもは背中にかけてある壁に掛けた剣を眺める。
カステオからの預かり物の剣であるため、緊急の場合と拠点を移動する以外には身に付けていないことにしていた。
その話を聞いたキャスメルは、その壁に掛けた剣を手に取ろうとするがアリルビートに止められた。
「何をする!?これがあれば、クリエは……助かるのだぞ!」
「落ち着いてください、王子!!魔の者がこれを欲しているということは、これは奴らにとって危険な剣であるということ!これを渡してしまうことがどういうことかお考え下さい!!」
力では敵わないキャスメルだが、この剣がクリエを助ける唯一の手段だと考えると何とかしてアリルビートから奪い取ろうと力を込める。
だが、想いの強さと腕力は全く別のもので、アリルビートから剣を奪うことはできなかった。
二人は同じ剣の鞘を握ったままにらみ合ってたが、諦めたキャスメルからその手を離した。
カルディは、半ばキャスメルのことを諦めているような表情でその状況を見つめていた。
シュクルスは、アリルビートの傍によりその剣を受け取る。
そして旅の途中のように、背中に剣を回して身に着けた。
そしてシュクルスはそのまま、椅子に座り膝の前で手を組んで項垂れているキャスメルの傍に片膝を着き、利き手の拳を床につけて頭を下げる。
「キャスメル様、どうか落ち着いてください。モイス様のお話ではクリエさんは、まだご無事の様子。それにこの剣と交換ということであれば、今すぐどうにかされるようなことはないと考えます。ですから、少し落ち着いて考えていきませんか?」
『――そうだ、キャスメルよ。その剣を持つ者のいう通りだ。クリエは取引に必要な重要な人質なのだ、すぐに命が奪われるということはない。それよりも、今後のことをどうするべきか……だ。わかるな?』
キャスメルは、モイスの言葉に一度だけ頷いた。
今の自分がおかしいことにどうやら気付いたようだが、そういわれてもクリエのことは落ち着いていられる心情ではなかった。
だが、少しずつ理性を取り戻された頭の中で、必死に自分の欲を抑え込んで見せた。
そして、キャスメルはまだうつむいたままモイスに対して問いかける。
「モイス様。我々は、どうすればよいのでしょうか?何か良いお考えがおありでしょうか……」
『うむ、それについては一つ提案がある』
「それは?」
『お前の仲間に助けを求めるのだ……ステイビルにな』
「ステイビルに……ですが、いま王選で……」
『心配するな、グレイネスにはワシの方から伝えておく。とにかく今は魔神とやら向かってきておる、この町も危険であるからどこかに避難させるがいい』
「避難……それだとあそこが一番近いですね」
モイスの言葉を聞き、カルディが頭に思い浮かべ口にしたその場所は以前ナルメルが捕まっていた場所。
――ジ・マグネル渓谷
人身売買の組織が、渓谷の地形を利用してアジトの一つとして利用していた場所がある。
あの事件の後その施設は、グラキースの山の途中の中継地点として手入れをして利用していた。
あの場所であれば敵にも見つかりづらく、大勢が避難しても町民や商人などの非戦闘員全員の収容が可能だろう。
移動も一日はかかるかもしれないが、周囲には森もあり警備兵たちと一緒に数組に別れて移動すれば危険は少なくだろう。
併せて、山の中で暮らすエルフやドワーフの村にも警戒態勢をとってもらうことも忘れてはならない。
行動指針が決定したその時、グラキース山の頂上で大きな爆発音が鳴り響く。
外に出ると、山頂辺りを羽を生やした魔物が旋回して攻撃を仕掛けていた。
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