上 下
673 / 1,278
第五章 【魔神】

5-64 推測

しおりを挟む





「王子……よくぞご無事で!!」

「カステオ王子!!」

「ご無事でなによりでした!!!」



生き残った西の王国の兵たちは、カステオの姿を見て無事な姿を見て喜びあっている。
だが、その前まで腕や足がちぎれかけていたことは言わないでいた。
言う必要もないし、サナがそんな魔法を使えるとなれば、サナの身に危険が迫る可能性が高い。


状況を整理すると、信じたくないような被害が報告されてくる。
ハルナとエレーナはその報告を聞くたびに、顔を手で覆い耳を塞ぎたくなるような内容ばかりだった。
だが、カステオはその報告もしっかりと前を見つめ動揺をした表情を出すこともなくその話を受けている。



その被害の内容は、西の者たちだけではない。
ステイビルたちがオスロガルムと対峙している間に、町を守ってくれていた兵たちの中にも信じたくもない内容が含まれていた。

ステイビルたちは、全ての犠牲者に対し黙とうをささげ、安らかな眠りにつくことを願った。


一通りの状況確認が済み、ステイビルはカステオにニーナが無事に東の王国で保護されていることを伝えた。
先代の王が病で急死し、その後を追うように王妃もこの世から旅立っていった。

カステオにとっては、残された家族であり最も守るべき対象の人物がニーナだ。
ステイビルの口からその名を聞けたことが、この状況で最も心が落ち着くことができる内容だった。
そして、ニーナとステイビルがいれば西の王国は安泰だろうとも、この場で考えるべきでない将来のことにカステオは思いを巡らせた。

そして、ステイビルはカステオに本題を切り出した。


「……あの魔神、オスロガルムといったか。奴の目的は……」


「我が国に伝わる、あの剣を探していたようだ」


「あの剣って、いま確か……もがっ!?」



エレーナが剣のことについて話そうとすると、アルベルトがエレーナの口を片手で塞ぎもう片方の手で人差し指を立てて自分の口に当てていた。




「エレーナ……今、それを口してはならん。どこで誰が聞いているか判らんからな、用心してくれ」




ステイビルからそういわれて、エレーナは自分が口を塞がれた理由が分かった。



「かの魔神はあの剣を狙っていた……なんのために?」



ステイビルの質問にそれぞれが腕を組んで思考を巡らせる中、ハルナの頭の中に浮かんだものがある。



「――あ」

「どうしたのハルナ?何かわかったの!?」

「うん、一つ思い出したことがあったんだけど……あの剣ってたしか、コボルトさんの瘴気を消すことができましたよね?ほら、フーちゃんと同じような力が」




その話を聞き、ステイビルも思い出した。
一匹のコボルトを助けるために、コボルトにあの剣を預けていたことを。




「まさか、その剣は……あの魔神を消し去る力がある……と?」


「だから、その剣を奪ってしまえば自分が消されることがない」


「でも、なぜ今まで黙ってたのかしらね?どうしてこのタイミングで?」



エレーナの疑問には誰も答えを持ち合わせていなかったし、その推測すら情報が少なすぎて導くこともできなかった。



次に起きた現象について話題が移る。
不思議だったのは、シュナイドのブレスが全く通用しないということだった。

シュナイド自身も、今までそのような現象は見たことがないという。
だが、ボーキンを襲っていたり、城内で不意打ちされそうになった魔物たちには効果があった。
それとハルナやエレーナ、ブンデルの攻撃はオスロガルムにはダメージは少ないが届いていた。


オスロガルムが立ち去る際に置いていった瘴気の渦に対しても同じような現象が起きていたのをステイビルは見ていた。

そこから導き出したものは、瘴気の渦もオスロガルムの一部ではないかという推測だけだった。

次にに話し合われたのは、瘴気の渦を切り裂いたアルベルトの刀だった。
その前にアルベルトは持っていた剣で対抗した。
その結果、ほかの物質と同じように飲み込まれていったが、あの刀だけは切り裂くことができた。
エレーナはアルベルトの剣技という説もあげてみたが、あの動作自体に特別な意味はないとアルベルト自身は告げる。


そして、最後にステイビルが持っていた盾についての話題があがる。










しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...