665 / 1,278
第五章 【魔神】
5-56 魔神出現
しおりを挟む「ギィー!!」
「グギャー!!」
四体の魔物によって、カステオの両腕両脚は抑えられている。
それを振り解こうとしても、魔物たちの力によって解くことが許されなかった。
カステオを助けようとしてくれた者たちは、既に命を刈り取られてしまっている。
それも、カステオを助けようとした行動をとったうえでの結果だった。
「……どうかご無事で!」
「あなたのもとで勤めることができて幸せでございました!」
様々な言葉をかけられて魔物に挑んでいった、彼らの最後の言葉だった。
だが、その時点で完全に包囲されており、退路は断たれていることは知っている。
それでもカステオの命を守るべく、彼らは剣に希望を込めて立ち向かっていった。
いくら王子を警護する屈強の兵士でも、人間には体力の限界がある。
一人に対して複数対で囲まれれば、体力の消耗も激しく損傷も大きい。
そして、いつしか魔物たちに囲まれてしまい餌食となり、主のために散っていった。
そんな者たちのためにこんなところで、終わるわけには行かないとカステオは必死に抵抗する。
動きを止めてしまえば、相手に狙いをつけさせるため動く個所は必死に身体を動かした。
だが、時間が経つにつれカステオはあることに気付く。
動きは封じられているが、止めを刺しに……カステオの命を奪いに来ないことに。
そのことに気付いた瞬間、魔物たちの背後。
床の上に寝転んで拘束されているカステオの足元に、黒い影が揺らぎ形となって表れる。
ステイビルはその姿に驚きを隠すことはできなかった、その存在は伝説の中の生き物であり魔物が存在していても架空の存在とされてきた。
「あ……悪魔!!いや、魔神!!」
『ニンゲンよ。無駄な抵抗はよせ』
「な、何しに来た!?お……お前の目的は一体なんだ!!」
魔神は押さえつけられたカステオ近付き、手にした杖を下に打ち付ける。
打ち付けた先には、フルプレートの鎧で守られてはいたが膝が反対に曲がってしまっていた。
「ぐあぁっ!!!」
『無力なニンゲンよ、我の名は”オスロガルム”。総ての魔物の頂点に立つ存在……お前に聞きたいことがある、素直に答えよ』
「だ……誰が。お前にはなすこと……がぁあぁっ!!」
カステオは言葉を言い終える前に、痛みで言葉が遮られた。
次は右腕の肘関節が、杖による殴打の一撃で破壊されてしまった。
膝もそうだが、痛みのせいか神経が切断されてしまったせいか、その先の抹消を動かすことができない。
きっと、皮でつながっているだけの状態となっているのだろう。
魔物のいうことを聞くくらいならばいっそ、部下たちのように殺してほしいと思う。
その裏では、この世にニーナをたった一人で残すことに対する不安な気持ちが浮かんでくる。
だが、ステイビルやキャスメルがいれば安心だった。
どちらかがニーナと一緒になり、この国を守ってくれることになるだろう。
特に、一番可能性が高いのはキャスメルの方だ。
あの王子は、きっとニーナのことが気に入っているはず。
この国を離れる際に、そうカステオはそう感じ取っていた
(だが、今は心も変わっているかもしれな……!?)
痛みを耐えるために考えていた思考は、オスロガルムの尖った杖の先が腹部に押し付けられたことによって途切れた。
『ニンゲン……勝手に死ぬことは許さんぞ』
その思考も痛みだけでなく、流れ出る血が体内に必要な量よりも欠乏していることにより意識が薄れていったことによるものだった。
そのことを知っているオスロガルムは、傷口に対して黒いタールのような粘液を掌から垂らした。
「がぁあああぁあぁああ!!!」
カステオの傷口が焼けるような痛みと合わせて、傷口をザラザラしたもので削られるような痛みが伴う。
王子である存在は決して弱音を吐はく姿を見せてはならない。
そういわれ続けて育てられてきたカステオは、多少の痛みならば声に出さず堪えることができた。
だが、いま受けている傷はそれを超える痛みが与えられている。
口からは自然と、痛みの反応となる声……音が喉の奥から発せられていた。
『ふん、さすがあの血を引く者たちの末裔よのぉ……だが、抵抗するだけ痛みはお前の身体と精神を蝕んでいく』
その声はカステオに届いてはいるが、それに対して何らかの反応を見せる余裕はなかった。
やがて意識が朦朧とし、顔の表情が力ないものに変わっていく。
それは、オスロガルムによってカステオの身体が支配されつつあることを意味していた。
そのことを確認した魔神は、一つ杖を床に打ち付けて満足そうにカステオに問いかけた。
『さて……そろそろ教えてお貰えるかな?あの剣はいまどこにある?』
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅
あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり?
異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました!
完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。
憧れのスローライフを異世界で?
さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。
日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる