上 下
663 / 1,278
第五章 【魔神】

5-54 集結

しおりを挟む






「ここ数日、魔物が我らの山に入り込んでいるため、警戒をしておりました」


現れた見覚えのあるコボルトは、ステイビルにそう告げる。
そして、コボルトたちが見てきたことを伝えた。

ディバイド山脈の山々に、数日前から魔物が外から入ってくるようになったという。
だが、ディバイド山脈を占領するわけではなく、魔物たちは探索をしているようだった。


「西の王国の者たちを一人も逃がさない……そういうつもりか?」


コボルトの話を聞きそういう感想が浮かぶが、ステイビルは納得のいかない点も多かった。
それは、その理由がどこにあるのかということだった。

魔物と言えども、何の理由もなく一つの国を落とすことはしないだろう。
各個体や小さな集団であれば、その欲に任せて人間やその他の生き物を襲うこともある。
しかし今回の襲撃は統率がとれており、ある何らかの指令に基づいて行動していることが伺える。

そのことからも、ステイビルはある考えが浮かぶが、これ以上進むとさらに危険度が高まるため一度宿に戻り情報を整理することを選択した。
その裏では、王都内でどれだけ残虐なことが行われいているかという思いが頭の中に浮かぶが、次の一手を誤ってしまえば西だけでなく東の王国まで被害が及ぶことになる。
その最悪な事態を避けるためにも、ステイビルは情報が少ない中でも適切な選択をとらなければならなかった。



そして、ようやくステイビルたちはマギーの宿に到着する。
そこには東の王国の者も、姿を見せていた。


「ステイビル王子!!ご無事でしたか!!」


「おぉ、ドイルか。よく来てくれた」




ドイルは今も、西の王国との流通経路であるディヴァイド山脈のルートの警備をになっていた。
今回は東の王国の命令で、ここに到着したという。
その道中でエルメトを発見し、一緒に麓まで降りてきた。
エルメトは西の住人でその事情に詳しいため、一緒についてきてもらうことにした。
そして部下の一人にエルメトの役割を引き継がせ、再び東の王国側に戻ってもらった。

その判断を下す事をできたドイルを、ステイビルは称えた。


「ありがたきお言葉……任務ですので当然のことでございます」



だが、今はそんなやり取りにこれ以上の時間を費やすべきではない。
ステイビルは再び、今の状況を話し合える人物を集めこれからのことを話し合うことにした。

並行して、ドイルは連れてきた兵にマギーの宿を簡易的に修復するよう命じた。


「nっとね……それじゃあ、とにかく天井を塞いでしまおうか!」


「ディグド様!」


エレーナは力を貸してくれる、ハイレインと契約していた精霊……いまは妖精となった存在の名を呼んだ。


「まさか……ディグド様までいらっしゃるとは!?」


「ハイレインだけじゃなく、王妃にも言われてね。ある間だけ、そこにいるドイルさんへの協力を頼まれていたんだ。まさかこんなことになるとは思ってもいなかったけどね」



そう言いつつ、ディグドは簡単に一階部分の天井を埋め終えた。


「ならば、ここから今後のことについて話し合おう」



ステイビルたち、ドイル、ボーキン、コボルト、それに第一隊の生き残りの精霊使いがこの場に集まった。

ドイルも加わったことにより、改めてステイビルたちが見てきたことそれに生き残った精霊使いの証言をこの場で伝える。
それにより今、王都内ではかつて無い最悪な状態となっていることが予測できるとステイビルは告げた。
だが、それによりこの場所が攻められることは、まだ可能性が少ないと判断した。
それは、まだこの宿にたいして襲撃がないことからだった。

逃げのびてきた精霊使いの話も合わせると、魔物たちは王都に近付く者に対して攻撃をしているように思えた。
とはいえ、あまり時間をかけていては、中の惨劇は広がっていくばかりだろう。

そこでステイビルは、次の東からの援軍が到着してから体制を整えて、救出作戦に出ることを提案した。
他の者たちも、ステイビルの意見に賛同した。


一晩をかけて、徐々に東側から徐々に警備兵、騎士団や精霊使いたちが到着し始めた。
朝には、十分な戦力が集まることができた。







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

処理中です...