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第五章 【魔神】
5-49 奮闘
しおりを挟むボーキンは、さらに近付いてきた魔物たちの群れに対してボウガンに矢をつがえ狙いを定める。
エルメトには宿にすべての魔物が襲い掛かったことを確認して森の中に駆け込むように指示を出している。
あとは、エルメトの行動力に掛けるしかない。
この場所に精霊使いがいればとも考えるが、昨日の朝この宿に泊まっていた精霊使いを連れた商人は東の王国へと戻っていってしまった。
いない人物を悔やんでも仕方がないが、こんなに最悪な状況になるとは思いもよらなかった。
西の王国のクラスの一分隊程度であれば撤退させることのできる準備をしていた。
今回は人間よりも能力の高い魔物が襲ってきているため、その準備を上回る戦力が降りかかることになる。
宿の一階部分は襲われて半壊した際に、ステイビルの支援を受けて土の精霊使いの協力により壁の中に強固な石壁を作り込んでもらった。
それにより防御面だけでなく、寒い季節や土砂崩れの災害などにも耐えられるような造りになっている。
それに、今では―――全くと言っていいほど起きていない――ディバイド山脈を超えるものたちが何者かに襲われた時に駆け込んでもらえるように頑丈にした。
それでこそ、安心してこの道を……この宿を利用してもらえると考えたからだった。
それとは別に緊急用として、裏の山に洞窟を作った。
その作業にも、土の精霊使いの力を借りることができた。
マギーたちは逃げる際に食料を数日分洞窟の中に持ち込んだ。
幸いにして、仕入れが終った直後のため籠城するための物資に困るという心配はない。
隠れる期間は、一日から二日ほど様子を見て欲しいとお願いした。
襲撃はそんなに長くは続かない、破壊し尽くせばそれで魔物たちは撤退するだろう。
逃げる際にマギーから”できれば作り直す手間がかかるから、あまり壊さないでおくれよ”と言われている。
その場面での、精一杯のマギーの冗談だとすぐに分かった。
ボーキンはその言葉に対し、”なるべく頑張ります”と答えた。
隠れた穴を木の板で塞ぎ、エルメトと一緒にその上に草木を積み重ねて周囲の状況と同じように隠した。
「よし……いくぞ!」
ボーキンは、一階で待機するエルメトに聞こえるように合図を送る。
返事は聞こえないが、この静けさの中では充分声が届いていると確信した。
ボーキンは有効射程距離にはいった魔物胸にボウガンで矢を突き刺した。
そして、別に用意していたボウガンに持ち替えて、再び命中した魔物に狙いを定める。
二発目は、魔物の頭を打ち抜くことに成功し、魔物は黒い霧となって消えていった。
残り十二匹の魔物が、矢が射出された場所に向かって降下し始める。
ボーキンは狙い通り、目的を自分に向けてくれたことに感謝をする。
今まで狙っていた小窓の枠を引き抜いて、ボーキンは視界を広げる。
相手にもそれによって、敵の方からも認識が容易になるだろう。
ボーキンは再びボウガンに矢をつがえて、先頭をきって降りてくる魔物に向かい矢を放つ。
だが、相手も同じ間違いは犯さない。
身体を捻らせて、自分に襲いかかる矢をかわす。
突然避けられた矢は、その後ろにいる魔物の羽の薄皮を貫く。
が、ボーキンが望むほど大きなダメージが与えらたわけではなかった。
ボーキンは接近してくる魔物に対し、ボウガンを手放し立てかけていたハルバートを両手に構える。
「ギャアーーーー!」
魔物は雄叫びをあげながら、窓に向かって尖った爪を窓の中に入れて突き刺す。
「――フンっ!!」
ボーキンはハルバートの先を横に薙ぎ払い、その爪を叩き折ろうとする。
――ガギィ!!
ボーキンの攻撃は相手の攻撃をはじき、軌道を変えることしかできなかった。
それでも自由になったハルバートを頭上で一回転させて、反対側の魔物の身体に打ち付ける。
「ぐっ!?」
ハルバートの打ち付けた斧の刃を、魔物はもう片方の手で握り攻撃を受け止めた。
その魔物の背後に、手のひらに黒い瘴気の玉を掲げる別の魔物の姿が見え、黒い塊がボーキンに向かて放たれた。
大きな音とともに、マギーの宿の屋根半分吹き飛んだ。
ボーキン自体にけがはないが、上空には襲撃した魔物が旋回をしてボーキンのことを狙っていた。
ボーキンは腰につけていた赤い柄のナイフを抜き取り、一階に降りるためのポールが通された穴にナイフを落とした。
コッ!
一階の床には落とされたナイフが突き刺さり、それが合図となりエルメトが布を覆いながら宿を出て道路の反対側の森の中に逃げ込んだ。
そして、エルメトは幸運にも魔物に見つかることなく森の中に逃げることができ、振り返ることもしないまま登山道めがけては進みだした。
(ボーキン様……どうか、ご無事で!?)
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