645 / 1,278
第五章 【魔神】
5-36 地上での変化
しおりを挟むステイビルは、片膝を地面に着き頭を下げた。
エレーナたちもステイビルに倣って、同様の姿勢をとる。
その時よりも少し前のこと……
調査に入っていった穴の中から、再びその姿を見せたブンデルとサナ。
そこには、少しだけ疲れたような表情を見せていた。
ステイビルたちは、その姿を見てホッと胸をなでおろす。
二人が穴の外に出てくる際には、皆で手を差し伸べてその身体を早く楽にさせようと手伝った。
本当は早く中の状況を確認したい気持ちがあったが、二人の苦労を考えると、自分の欲だけを先行させてしまうことは憚られた。
ステイビルたちは二人の回復を待ってからと、そのタイミングを伺っていた。
すると、ブンデルが今までとは違う状況に気付いたのか辺りを見回す行動をする。
そのタイミングを利用させてもらい、ステイビルは地上で待っていた時の話をする。
それは、ある時この場所に二つの大きな力が感じられた。
そのことを最初に気付いたのは、ハルナとエレーナの精霊たちだった。
その力が敵か味方か、どれだけの力を持つ者なのかまではわからなかったが、その力がこちらに向けられれば危険な状態に陥る程の力を持った存在だったという。
それらの力が、ブンデルたちの身に降りかかったのではないかという心配をしていた。
そこから二つの存在のうち、一つの存在が感じ取れない程小さくなったという。
さらに不思議なのは、それと同時に周囲のガスの濃度が下がっていったということだった。
再び大きな力が二つに戻り、大きな存在は安定していたという。
その間、この中の誰かが二人の様子を見に行こうとしたが、その存在がどのようなものか判らない状況では救出には行けないとステイビルが止めた。
その話を聞いたブンデルは、冷たいようだがその判断が正しい決断であることは判っており、その判断が問題ないことをまずステイビルに告げた。
その言葉を聞き、ステイビルも許されたことにより、口からは張り詰めていた気持ちが息となって漏れ出していた。
次にブンデルたちが、下で何があったのかを話す番となった。
そして、サナに変わってブンデルが横で見てきたことを全て話した。
当然、その話を聞いたステイビルたちの目は点になっていた。
信じられないわけではない……この旅で今までありえなかったことや伝説のような話が当然のように起こってい。
だが、偶然のような幸運……とは言い切れないが、最終的に良い結果になったことにステイビルたちは何とも言えない気持ちになっていた。
それも、更なる衝撃で打ち消されることになる。
『はい、お待たせ。あれ?……あなたたしか水の町で会ったわね?あのラファエルに呼ばれた時に』
「え?……ま、まさか」
ブンデルたちができてた穴から……いや、この空間に新しい存在が姿を見せた。
その存在は、誰よりも先にエレーナの姿を見て指をさした。
「あ、ハル姉ちゃん……この人だ!さっきの大きな存在」
フウカはハルナにそう教えてくれ、ハルナもこの存在がラファエルと同じ力を持った存在であることが分かった。
ステイビルたちは、慌てて片膝を着き頭を下げ姿勢を取る。
そしてエレーナは、この存在に対して思い当たる中で一番可能性の高い存在の名前を口にする。
「もしかして……ガブリエル様でしょうか?」
『そう。そのとおりよ!私が水の大精霊!!』
ステイビルも、このことは想定外だった。
ここにいるのは火の大竜神なのではと思っていたが、水の大精霊がいるとまでは考え付かなかった。
だが、ブンデルの話を聞けばここにいることに、ちゃんとした理由があることは理解できる。
そして、ここにはいない火の竜の凶暴さが襲ってこないかという問題も新たに生まれてきた。
「それで、その火の大竜神様は……いまどちらに?」
ハルナも同じことを思ってたのか、ステイビルが聞きたかったことを口にしてくれた。
それにこたえてくれたのは、サナだった。
「あ、はい。こちらに」
そして、サナの頭の上に小さな赤いトカゲが姿を見せた。
0
お気に入りに追加
372
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
異世界着ぐるみ転生
こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生
どこにでもいる、普通のOLだった。
会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。
ある日気が付くと、森の中だった。
誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ!
自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。
幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り!
冒険者?そんな怖い事はしません!
目指せ、自給自足!
*小説家になろう様でも掲載中です
疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!
ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。
退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた!
私を陥れようとする兄から逃れ、
不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。
逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋?
異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。
この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?
飯屋の娘は魔法を使いたくない?
秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。
魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。
それを見ていた貴族の青年が…。
異世界転生の話です。
のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。
※ 表紙は星影さんの作品です。
※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~
丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。
一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。
それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。
ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。
ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。
もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは……
これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる