問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

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第五章 【魔神】

5-35 初めての経験

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シュナイドを包み込んだ光の玉の中で、その中身は絶えず変化を続けていた。
だが、それも終わりを迎えた。


変化は落ち着き、一度は小さな球体になる。
そこから球体は増加し、シュナイドの身体を形作っていった。

すると光は収まり、先ほど見た一体の赤い竜が目をつぶって横たわっている。



「ガブリエル様……何が起きたのですか?シュナイド様は……」


サナはこの様子を近くで一緒に見ていたガブリエルに、心配そうに問いかける。
その問い掛けに対して、ガブリエルは腕を組んだままサナの質問に答えた。



『うーん……わかんないなぁ』


「え!?それは……どういう」


『どうもこうもないよ……私も初めて見るんだから……これに関しては、今のあなた達と同じなのよ』




サナもブンデルも困惑する。
この世を創り出したとされる全知全能の神々の一人に、”知らない”と言われたことに対してなんと返せばいいか思いつかない。
そんな二人を他所に、ガブリエルは自分の気付いたことを口にした。





『でもね……ほら、あいつの身体をごらんよ』




先ほどまでシュナイドが発していた光が明るすぎて、いまはブンデルの魔法の明かりだけになり少し見づらくなっていた。

サナは目を凝らし、シュナイドのことをじっくりと見る。



「――あぁ!」



その驚きの声と同時に、閉じられていたシュナイドの目が薄っすらと開いた。



「シュナイド様……お身体はいかがですか?」



サナの目線は傷付いていた身体の傷が消えていた場所から、シュナイドの顔へと向ける。
シュナイドのうつろな目はサナを捉えたあと、何度か瞬きをしてゆっくりと首を持ち上げた。



『う……む。問題ない……いや、むしろ前よりもよくなっている……な』



「では、それって……」


『お前の魔法が……んん……どうやら効いたようだな』



シュナイドは戸惑いながら、サナの魔法の効果があったことを認めた。
そしてその顔は、どこか少し安堵したような顔つきでもあるようにも思えた。

感謝しているのか、それとももっと違う感情からか。
シュナイドの言葉には、先ほどのような突き刺さるような威圧感が抜けていた。


ブンデルもそれを感じ取っていたせいか、ある仮説が浮かび上がった。
シュナイドのあの傷から、生命力が漏れ出ていたのではないかということを。

ブンデルは、タイミングを見計らいってそのことをシュナイドに質問した。
その質問に答えたのはシュナイドではなく、ガブリエルだった。




『へー。よくその考えにたどりつたものね……正解よ』



シュナイドにしてみれば、もう傷が塞がりその問題は克服できていたが、それでも少し弱い部分を見つけられてしまい恥ずかしそうな態度にも見えた。
ブンデルの考察の通り、あの傷からはシュナイドを構成している元素が漏れていたという。
建前は再び暴れださないようにとのことだったが、周囲にその元素が漏れ出てしまわないように地中の水分を固めて元素を漏らさないようにしている役目も、ガブリエルは負っていた。


この場所はもともと、シュナイドが住処にしていた土地で、この場所には火の元素が多く含まれている。
人間や他の生物には生活するのには、暑くてやや困難な場所であるが、シュナイドにとっては最も快適な場所であった。
その力も借りてか、シュナイドの体内の元素が消失する速度が緩まっているという。

しかし、入る量より抜け出ていく量の方が多いため、このままでいけば――数年以内というわけではなく、数百年のうちに――シュナイドは存在が消えてしまうということだった。

だが、もうその心配は必要なくなった。



サナは、シュナイドの身体が無事だと確認して膝から崩れ落ちた。
倒れそうになる身体を、ブンデルが後ろから抱き支えた。
掴んだ手のひらからは、サナが震えているのが伝わってくる。

ブンデルは、ここでサナがひどい恐怖と向き合っていたことに気付いた。
そんな小さな体で耐えていたサナの身体を、ブンデルはやさしく抱きしめた。



もう、心配はいらないと……










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