上 下
622 / 1,278
第五章 【魔神】

5-13 キャスメルの憂鬱3

しおりを挟む









「それで、これからどうなさいますか?キャスメル王子」


ルーシーの問いにキャスメルは腕を組んで目を閉じる。




今わかっていることは、大竜神のモイスがこの山にいたということ。
普通ならば、その情報に従ってすでに受けている火の竜の次の加護を受けに行くべきだろう。




(だが、何かが引っ掛かるような……一体なにが?)



キャスメルは、感じる違和感の正体を探ろうとさらに思考と記憶の深い場所に潜り込んでいく。

変に感じたことは話の内容ではない……ポッド、ナルメルやイナがキャスメルに嘘の情報を渡すことも考えにくい。
もしも意図的にそんなことをすれば、せっかく造っているこの町の努力もすべて無駄になることもある。

王選を虚の情報を用いることによって、バレてしまった際に罰をうけることになるだろうし、そこまでして嘘つく理由が見当たらない。


(あるとすればステイビルが……ん?いや、そういうことか!)


キャスメルは、その答えに気付いた。
そしてキャスメルは、たどり着いた答えを確認するためにポッドに尋ねてみる。


「今の話、ステイビル王子から……頼まれたのか?」


キャスメルからの質問に、ポッドは一瞬身体を硬直させた。



「そのお答えは”そうであり”……”そうではない”ですね」




キャスメルやアリルビートは、ポッドの理解し辛い物言いに顔をしかめ不機嫌さをアピールする。
だが、ポッドにはその威圧的ともとれる仕草に対して怯えることもなく、用意されていた次の言葉を口にする。


「我々も……キャスメル様がいらっしゃった際には、このようにお伝えするように……いえ、言われてはおりません」


「……はぁ!?何を言ってるんですか!?」


歯切れの悪い言葉に、思わず変な言葉が出てしまったのは堪え切れなくなったルーシーだった。
しかしポッドはその反応も知っていたと言わんばかりに、落ち着いた態度でその理由を説明する。



「王選に関しては、関係者からの情報提供などは受けてはいけないということをお聞きしております。そのためステイビル王子は、独り言と称して私たちの傍でお話しくださったのです」


ステイビルはポッドたちに、キャスメルが来たら今までのことを伝えて欲しいと思っていた。
だからまず、王選では関係者が神々がいる場所の情報を提供することは強く禁じられていることを話す。
だが、そこには抜け道があるという。
噂話や、関係のない者たちが見たことを聞いたことを話すだけならば、その罪に問われないということ。
そうでなければ、情報がまるでないところからは目的地にたどり着くことはできない。
実際にレモネードではエフェドーラ家がそういった役目を背負っていた。
全くゼロからの状況では、探し出すことは難しいという、たった一つのヒントであると考えた。
きっとそれは、モイスの配慮であると思い、モイスに聞いてみた。
答えははぐらかされたが、完全に否定しないところがそういう意図であったのだとモイスの性格上から推測した。

その考えを伝えた上え、ステイビルはポッドたちを傍に置いて今までのことを……キャスメルに伝える内容を話し始めた。
聞き手はハルナたちで、名目はモイスと会うまでの記録と称して。


これで誰も罪をかぶることなく、キャスメルも目的の場所に到達できるとステイビルは信じていた。


「ステイビル……そこまで」


キャスメルは、複雑な気持ちになっている。
こんな状況でも自分を思ってくれていることと、自分にそんな余裕があったのかということと、知らせなければ自分がたどり着けないと思われていることに。


ポッドは言われてはいなかったが、その案を持ち出したのは”ハルナ”だと告げる。


そのことを聞き、キャスメルの気持ちが波立った。
王選前に一人でモイスティアに向かい、運よくハルナたちと合流した。
一緒に行動する中で、ウェンディア似のハルナに気持ちが惹かれていた。


だが、その想いも叶うことはなかった。
それが、今の王選のメンバーに現れている。


自分の希望通りにいかない状況に、キャスメルは嫌気がさしていた。


その時、さらにキャスメルの気持ちを悪くすることが起きた。



ハルナの名前が聞こえたチュリ―が、ノイエルに話した。



「また、ハルナ姉ちゃんと遊びたいねー。ハルナ姉ちゃんは、すぐ遊んでくれたよね!」







しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...