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第五章 【魔神】

5-3 思い出したくない記憶

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ハルナは、元いた世界でも男女関係の経験はなく、そういったものにも興味を示していなかった。
”カッコイイ”や”頼りになる”と感じる異性はいたが、そのことが恋愛などの気持ちに変化することはなかった。

そんなハルナでも、恋愛のトラブルに巻き込まれることはあった。


ハルナには関係がなくても、相手にはその気持ちがある。
しかも、その相手に好意を抱くものがいた場合には最悪だった。

ハルナは高校生のころ、その最悪な関係の中に勝手に巻き込まれたことがあった。


相手は一学年上の男性で、ハルナが高校二年なったばかりの新学期。


突然、ハルナは”同じ校舎内で見たことがあるかも”程度の男性に告白された。
その男性は確か、ハルナの友達がカッコイイと言っていた記憶があった。
しかし、ハルナにとってはそういう感情は一切なく、どういう人物かも知らない相手だった。
そのため、その場では”ごめんなさい……”と返事をした。


その翌日からだった、ハルナに身に覚えがない嫌がらせが始まった。

今まで挨拶をして、返してくれる友達の数が減った。
校内を歩いていると学年関係なく、ハルナのことを隠れ見ながらヒソヒソと聞こえるように何かを話している。
人のことを気にしないハルナだったが、さすがにこの覚えのない仕打ちは堪えた。


自分の周りに大勢の生徒が集まる中で感じる孤独は、ハルナの心と胃を痛めつけるには十分だった。
登校することが嫌になりかけた頃、別な流れが加わってくる。

ハルナのことを不憫に感じた友人が、ハルナのことを援護し始めたのだ。
話を聞くと、上級生からハルナのことを無視するように言われていたようだ。
これに従わない場合は、ハルナと同様の仕打ちを受けることになると言われていた。

ある者は理由を聞いたが、はぐらかされたという。
またある者がまた別の者からこの話を聞いた際に理由を聞くと、ハルナがある男性からの告白を断ったからだという噂があると教えてくれた。



事実を探していくと、そのことを言い出したのはその男性に好意を寄せていた女性が言い始めたらしい。
男性は学校内でも人気が高く、多くの女生徒のいわば”あこがれの的”の存在だった。
そこから推測して、自分のあこがれた存在に声をかけられて相手にもしなかったハルナに、怒りの矛先が向いたのではないかと友人は教えてくれた。

最終的に、その推測は当たっていた。


結局、ハルナ対その女性という二つの勢力が学校内に生まれていた。
中には興味がない者もいたが、それぞれの派閥が引き込んでいきほぼ全校生徒を巻き込む形になった。た。


それを危険に感じた者たちは、学校側に今の状況を説明しに行った。
だが、教師たちはこの状況を見て見ぬふりをし、自分たちの責任にならないように何とかやり過ごす術を探していた。



最終的には、ハルナ側が勝利する……
ある程度の時間が経過すると、完全にお門違いな制裁に相手の求心力は低下していく。
そして、相手の首謀者を”ハルナの前に引きずり出し謝罪させろと”という声が上がり始め熱を帯びていく。


ハルナは自分の知らないところで、徐々に騒ぎが大きくなっていくことに怯え、いますぐ争いをやめるように言って回っていだが、すでにハルナの声は届かず集団は暴走しかけていた。



その騒動を沈めたのは、一つのきっかけだった。
あるテレビ番組が、ハルナの学校を取材したいと申し出てきた。

そのことが学校中に広まると、その騒動は一気に過去のものになっていた。


後で聞いた話では、ハルナの祖母が知り合いにお願いをして、学校に取材をしてもらったのだった。
ハルナの祖母は判っていた。
若い頃は火が付きやすく、冷めやすいことを。
結局のところ、大半の者は”騒ぐ理由が欲しかった”だけに過ぎないということを。





「……それで、ハルナは勝手に周りが盛り上がるのを嫌っていたのね」



エレーナはハルナの背中をやさしくさすりながら、ハルナの話しを黙って聞いていた。

エレーナはそれと同時に、いまこうして王選に選ばれていることも、もしかしてハルナにとってはものすごくストレスを与えているのではないかと不安になり聞いてみた。


だが、それについてはなんとも思っていないとハルナは答えた。
エレーナと出会い、この世界で一人で生きることが難しいと思っていた中、運命的な出会いによってこうして助けられている。
そのことに対して、恩を返すためにも精一杯役に立ちたいとハルナは言った。


エレーナはそこから、ハルナは恋愛に対して悪いイメージが付いてしまったのだと判断した。
だが、これは本人の気持ちもあるため、周りがどうこうできる問題ではないと結論付けた。



ハルナは、エレーナに話したことで気持ちが軽くなっていた。
そして、今のことをステイビルに説明していいかとエレーナに聞かれ、問題ないと答えた。

エレーナならば、うまく伝えてくれるだろうと信じて。














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