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第四章 【ソイランド】
4-153 最後の夜
しおりを挟む「皆、準備はいいか?」
「「――はい!」」
昨夜は最後の宴会が開かれ、その後もそれぞれがソイランド滞在の最後の夜を楽しんだ。
ハルナはエレーナに誘われて、部屋の中で飲みなそうと半ば無理やり連れていかれた。
ソフィーネもハルナのお願いで付き添ってその場にいることになった。
そこには珍しく酔った顔をしたアルベルトが、何とか意識を保とうとして努力をしているのが伺える。
昼間から飲み歩いて、ステイビルを連れまわしていた。
ハルナはその時丁度中庭で昼寝をしていたが、戻ってきた後は部屋に閉じこもり二人で部屋の中でベットに入っていたという。
昼間を含めて何があったのか、ハルナは聞かないことにした。
「そういえば……ック……さっき、クリアから何か手渡されていたじゃない?……ヒッく……何だったの?」
その時エレーナは、アルベルトに絡みながらアルコールを注いでいたと思っていた。
ハルナはそんなエレーナのことを、”よく見ているな……”と心の中でつぶやいた。
「あれね……なんか小さな石だったの」
「ふーん……石?……なんのぉ?」
「ずっと持ってたんだって……母親から貰ったらしいんだけど、私たちが大精霊様と大龍神様の加護を受けるために旅をしているって話をしてあげたらくれたのよ。」
クリアから受け取ったとき、母親はフレイガルの方から来たと聞いたことがあったと言っていた。
なんでもその石は、フレイガルの近くにある洞窟の中から採取した石だという。
「へー……そうなんだ……ねぇ、ヴィーネ」
「なーに?」
匂いを感じるのかわからないが、泥酔手前のような状態で呼ばれたエレーナの精霊は、少し不機嫌な様子でその姿を見せる。
「その石から……何か感じるものって……ある?」
「……?」
ヴィーネはエレーナの言葉の意味を理解し、その石に手を触れて何かを探ってみる。
「どう?……何かわかった?」
気になったハルナが、精霊に対して声をかけた。
「普通の石にしては、元素の量が多いみたいです」
「元素?それってもしかして……」
「はい、火の元素が多く含まれています」
そのことを聞き、今まで黙っていたアルベルトが自分の持つ情報を口にした。
「聞いたことのある話ですが。確かフレイガルの町のはずれに、普段は誰も立ち入りできない場所があると聞いたことがあります」
ハルナはそのことを知っているか、隣で一緒にグラスを口にするソフィーネに尋ねた。
「確かにその場所はございますね……」
「でも、立ち入り禁止なんでしょ?国が管理している場所なんですか?」
「いいえ、そうではございません。自然に誰も立ち入らなくなった場所だと聞いております」
「それって、強い魔物とかが出てくるとか!?」
ハルナの推測に、ソフィーネは微笑んで首を横に振った。
「そうではございません……その場所には、猛毒のガスが噴き出ているとのことでした」
「ガス……ですか?」
「そうです。そのためそこには誰も近づけずにいるようです」
「でもでもでも~、誰も近寄ったことが無いなら……ウック……そこに洞窟があるなんて、わかんないじゃない!」
酔っぱらったエレーナだが、その意見はハルナたちにも説得力がある意見だった。
エレーナの疑問については、ソフィーネが答えてくれた。
「過去に何度か人員を送り試したようですね……戻ってきたようですが、確認した者はその後亡くなられているようです」
この情報が、人の命の上で掴んだ情報だということにハルナたちは言葉を詰まらせる。
何のためにそんな危険な場所に行かせたのか……そんな思いもあるが危険な状態のまま放置はできないのだろう。
ハルナは顔を上げると、エレーナの目が閉じられ船をこぎ始めている。
その隣にいるアルベルトも、姿勢を正したまま目をつぶったまま動きを見せない。
「そろそろ、お開きにする?」
その言葉に対して、エレーナからの返答はない。
「……それがよさそうですね」
代わりにソフィーネがハルナの意見に応じてくれた。
アルベルトを起し、エレーナをベットに連れて行ってくれるようにお願いをする。
ソフィーネはこの部屋を少し片づけてから戻ると、ハルナを先に部屋まで戻した。
こうして、ソイランドでの最後の夜は閉まらない感じで終わりを迎える。
次の朝、朝早く出発するため日の出の前に起床する。
エレーナは頭を押さえながら、真っ白な顔で起きてきた。
出発前にハルナと一緒にお湯を浴び、目を覚ましてから準備をはじめる。
そして、いよいよ出発の時。
エントランスの前には、朝早くから見送りのためにメイヤ、クリアをはじめメイドたちが並んでいる。
グラムとその後ろには、シーモとクリミオたちも姿を見せる。
パインとメリルがステイビルに付き添い、馬車の入り口まで共にした。
「王子……いろいろと、ありがとうございました。これからは、町の発展と平和のためにさらに努力してまいります」
「うむ、そろそろ最初の支援が届く頃だろう。他にも支援が必要ならば、連絡を寄こすといい……それと、メリル」
「はい……王子!」
「うん……その、身体には気を付けるんだぞ?たまには王都に顔を出してくれ」
「ありがとうございます……そのお気持ちだけで」
「グラムも、よろしく頼む……ではいくか。皆、準備はいいか!」
その声にハルナたちは問題ないことを告げると、二台の馬車は王都に向かって走り出した。
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