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第四章 【ソイランド】
4-139 合流
しおりを挟むサヤは何が起きたのか、一瞬理解できなかった。
だが、自分の創った空間から一つの存在が消えていったことは判った。
そして、それが誰の仕業なのかも……
「くそっ!くそっ!くそっ!くっっそがぁ!!!!……あのトカゲめぇぇぇ!!!」
今は一人しかいない空間の中、サヤの叫び声が暗闇の中に消えていった。
「――くっ!?」
ステイビルに視力が戻り、暗闇の中から明かりのある世界に戻されて網膜が光に刺激される。
その強すぎる刺激に目を閉じていたが、ゆっくりと目を開けて辺りを確認する。
慣れてくると、そこは初めに入った建物の中だと気付く。
足元には、手にした紙が落ちていたが手にすると再びあの空間の中に引き込まれる可能性があるためステイビルは念のため距離を置いた。
サヤは特に追ってくる様子もなく、警戒しつつもステイビルは息を抜いて気持ちを落ち着かせる。
引き寄せられた空間の中で引き出せた情報を順番に思い返しながら、自分が助かった理由を探す。
あの空間を作り出せる存在は、ステイビルの中では二人だけしか知らない。
その一人は、たったいま逃がれてきたばかりだった。
となれば、もう一人の存在か……はたまた別の新たな存在か。
「無事か……ステイビルよ」
姿こそは見えないが、モイスの声がはっきりと聞こえてくる。
直前まで感じていた、頭の中に直接に話しかけてくるような感覚ではない。
生きた音の振動が、空気を伝わり鼓膜を通じて脳が音を感じ取っている。
「はっ!……助けていただき、ありがとうございました。モイス様」
「無事で何よりだ……それより、急いでこの場から離れよ……訳は後で話す、外にいるハルナたちと合流するのだ」
その言葉を聞き、ステイビルは速足で奥の部屋のを出て、開いている入口の扉を通り抜ける。
そこには誰の姿もなく、入口には乗ってきた馬車がそのまま停めてあった。
あの暗闇の中に閉じ込められた時以上に、ステイビルの精神は不安に支配された。
思わずステイビルは、大きな声で叫んでしまった。
「だ、誰か!……誰かいないのか!!……ハルナ!エレーナ!いたら返事をしてくれ!!」
叫んだあと耳を澄ますが、少し吹き始めた風が砂を吹く音だけが聞こえる。
ステイビルは、絶望が胸の中で強くなっていくことを感じながら、それを掻き消すようにして大声を張り上げる。
「だれかいないか!!!いたら返事をしてくれ!!!頼む!!!誰か!!!」
声を上げた後、再び耳を澄まして反応を探る。
だが、風の音だけが耳に伝わってこない。
……ガタっ
「――?」
何か物音がしたような気がし、ステイビルはその方向を見る。
しかし、その音は風によって開いたり閉じたりしている別な建物の扉の音だった。
ステイビルは足の力が抜け、崩れ落ちるように膝を砂の上につけた。
上半身も支える力も抜け、ステイビルは両手を砂の上に乗せ四つん這いの状態になり、目を閉じて今起きていることが受け入れられず身体が震え始めた。
「み……みんな……」
ステイビルの中に埋め尽くされた感情が次第に悲しみに変わっていき、ここに連れてきてしまったことへの取り返しのつかない後悔に胸が押しつぶされた。
「……!!」
後悔で苦しむ中、幻聴のような人の声が聞こえてきた。
しかし、この音も自分が勝手に生み出した、妄想の音であると気にも留めなかった。
「……じ!……王子!!」
二度目に聞こえた音は、幻聴ではなくはっきりとした女性の声だった。
ステイビルは急いで顔を上げ、声の聞こえた方へ振り向く。
すると、メリルを先頭に後ろにはハルナたちがステイビルの元へ駆け寄ってきた。
「王子!よくぞ……よくぞご無事で!?」
メリルはステイビルに抱き着き、本人であることを胸の中で確かめた。
「メリル……それに、ハルナたちも……無事だったのか」
「はい。王子が消えたあと、何とか王子を探そうと一軒一軒みんなで固まって捜索をしていたんです」
「その途中で、メリルさんが”ステイビル王子の声が聞こえた”って言ったから急いで飛び出てきたんです」
ステイビルはその言葉を聞き、皆が自分の姿が消えたことに不安にさせてしまったことで申し訳ない気持ちになった。
「うむ……だから言ったであろう、ハルナたちと合流しろと」
「その声は……モイスさん?」
「うむ、そうだ。それよりも、まずはこの場を離れよ。そこで事情を説明しよう」
そういって、ハルナたちは一旦馬車のある所まで戻った。
ハルナが大きな竜巻を上空に上げ、それに気付いたソフィーネとメイヤも無事に戻ってきた。
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