582 / 1,278
第四章 【ソイランド】
4-128 クリミオの困惑
しおりを挟む「……さま!ハルナさまー!!」
クリミオの後ろから少年の声でハルナの名を呼ぶ、
その横から小さな人影が飛び出し、ハルナの姿を見つけて一直線に駆けてくる。
「あ、ハルナー!」
そのままハルナの座っている膝にぶつかり、身体を預けるようにハルナの脚に倒れ込んだ。
「わ!クリア!?ば……バカ!!ちゃんとハルナ”様”って呼べって教えただろう!?」
「いいんですよ、チェイルさん。……ね、クリアちゃん?元気にしてた?」
そういいながら、自分の太ももに顔を埋めるクリアの後ろ頭を上から下に向かって数回撫でる。
そして顔を埋めたまま頷くクリアの感触が、ハルナの脚から伝わってきた。
「あの……その……もう、人のモノとったりしてないわよね?」
ハルナの言葉にクリアは顔を急いで上げ、その質問に答えた。
「うん!もう誰のものも取ってないよ!わ……私、いい子になったよ!!ほ、ほんとだよ!?」
少しうるんだ目で、クリアはハルナのことを見上げる。
あの時、ソフィーネに捕まって怒られてからクリアはソフィーネのことが怖かった。
ハルナは、こんな幼い子が盗みを働いていることに心を痛めて、ソイランドでのことが一段落したらクリアを廃墟の外に連れ出したいと考えクリアとも約束をしていた、その代わり二度と人のモノを盗ったりしないという約束を。
そんなクリアの怯えた顔にハルナは優しさを含んだ笑顔で返し、気持ちを落ち着かせるために再びクリアの頭を撫でてあげた。
「そっか……そういえば、二人のことお願いしてたんだっけね」
エレーナは、ハルナが先程までとは違う表情に変わったことを感じた。
ハルナたちが町の中を見回ると同時に、クリミオたちには廃墟の中に異変が起きていないか見回ってもらっていた。
ハルナはそこに、気になっていたクリアとチェイルの二人の保護もお願いをしていた。
「それで、あの中の様子は……どうでした?」
「はい。特に変わった様子はございませんでした。何人か見かけなくなったという話も聞いていますが、何せああいう場所ですので、他人との関係は稀薄で……誰がいなくなったかまでは判らないのです」
エレーナの問いかけにクリミオは返答した内容は、考えられた範囲ではあった。
闇の組織の者が廃墟の中に隠れており、ハルナたちが行動した町の外の異変に気付き何らかの騒ぎが起きるのではないかと心配していた。
別な一方で、立場が危うくなってこの町から逃げ出すのではないかという考えもあった。
居なくなった者たちがどのような者たちだったのかは今となっては判らないが、この状況に乗じて攻めてこないことは幸運だったとエレーナは判断した。
「それじゃあ、一度パイン様のところへ戻りましょうか?」
ソフィーネの提案にハルナとエレーナは同意する。
「クリミオさんたちは、これからどうするんですか?」
「いや、特に何も決まってはいませんが……」
「なら、一緒に行きませんか?ステイビル王子とも一度お会いしていた方がいいと思うんで……」
「えぇ!?いいんで……いや、よろしいのですか!?」
ハルナが言い終わるよりも先に、クリミオは驚きの声を上げる。
クリミオからすれば、王子には願っても会うことなどできない遠い存在。
それを目の前の精霊使いは、友人に紹介するかのように面会を提案してくる。
流石のクリミオも、お願いしたいところではあるが本当に会っていいのかという不安に襲われる。
様々な危険な場面を切り抜けてきたはずだが、今までこんなにも惑わされることはなかった。
あの廃墟の中で生きる術を身につけさせられた苦労に比べれば、大抵のことは乗り越えることができる。
それを超えるような選択を迫ってくるハルナに対し、クリミオは尊敬と警戒の感情が入り混じってまともに判断することができなかった。
少し落ち着くとクリミオはハルナの周りの人物の表情を読み取り、この場面をどう切り抜けるべきかの判断材料にすることを思い付いた。
だが、それは何の参考にもならなかった。
エレーナ、ソフィーネ、アルベルト、メリルの顔を見ても、それが何でもないような顔でクリミオの返答を待っていた。
「わ……わかりました。ご、ご一緒させて、いただきます!」
「はい、それじゃ行きましょう!」
ハルナは椅子から立ち上がり、クリアが伸ばした手を握り歩き始めた。
0
お気に入りに追加
374
あなたにおすすめの小説
悪役令嬢は大好きな絵を描いていたら大変な事になった件について!
naturalsoft
ファンタジー
『※タイトル変更するかも知れません』
シオン・バーニングハート公爵令嬢は、婚約破棄され辺境へと追放される。
そして失意の中、悲壮感漂う雰囲気で馬車で向かって─
「うふふ、計画通りですわ♪」
いなかった。
これは悪役令嬢として目覚めた転生少女が無駄に能天気で、好きな絵を描いていたら周囲がとんでもない事になっていったファンタジー(コメディ)小説である!
最初は幼少期から始まります。婚約破棄は後からの話になります。
悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!
えながゆうき
ファンタジー
妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!
剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!
【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです
ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。
女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。
前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る!
そんな変わった公爵令嬢の物語。
アルファポリスOnly
2019/4/21 完結しました。
沢山のお気に入り、本当に感謝します。
7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。
2021年9月。
ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。
10月、再び完結に戻します。
御声援御愛読ありがとうございました。
毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。
克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。
【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました
土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。
神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。
追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。
居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。
小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。
異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~
宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。
転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。
良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。
例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。
けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。
同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。
彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!?
※小説家になろう様にも掲載しています。
異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜
芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。
そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。
【カクヨムにも投稿してます】
転生先ではゆっくりと生きたい
ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。
事故で死んだ明彦が出会ったのは……
転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた
小説家になろうでも連載中です。
なろうの方が話数が多いです。
https://ncode.syosetu.com/n8964gh/
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる