上 下
570 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-116 ソフィーネ4

しおりを挟む










「私は……そうね。実力差を考慮して、わたしは何も使わないわ。もちろんあなたは何でも使っていいのよ?」


またしても明らかな挑発ともとれる、上からの目線の物言い。
収まりかけていたソフィーネの顔は、再び赤黒く染まっていく。




マイヤはソフィーネの実力を試すといい、二人は家の外に出た。


マイヤはその前にこの勝負に、条件を付けた。
ある一定の時間内で、自分の顔に一撃でも攻撃を当てることができたら、マイヤの権限で行える範囲でなんでもひとつ望みをかなえてあげることを約束した。
だが、条件が達成できない場合は、マイヤからの質問に嘘偽りなく答えててほしいという条件だった。
その条件に、ソフィーネは少し疑問を感じる。普通なら負けたら言うことを聞いて、王国に付れて行かれるのでは?という考えがあった。


(でも、実力をみて用がないっていう判断もあるか……)


挑発されたソフィーネだが、すぐにそういう判断ができるほどになるまで頭の中は冷静になっていた。
もちろんソフィーネはその条件を受け入れ、勝負を申し込んだ。





人の性的快楽を貪る以外の娯楽がないこの村で、今までにない新しい刺激に村人は表に出てその様子を見ようと二人の周り集う。
中には今までソフィーネから暴力を振るわれていた大人たちが、もしかしたらあのソフィーネがやられてしまうかもしれないという期待感を持って見守る者もいた。


ソフィーネはまず、自分の背丈ほどある長い棒を手にした。
これを使ったとき、相手に近寄らせることはほとんどない。万が一この攻撃を掻い潜って接近してきた時には、別な手を用意しているため問題ない。
その棒をクルクルと回し半分辺りで先端を外側に向けたまま脇に抱えるように挟んで止める、もう片方の手はマイヤに掌を突き出して構え準備ができたことを告げる。


それに対し、対峙したマイヤは直立不動のまま特別な構えはない。
懐から取り出した三分を計る砂時計をひっくり返し、足元に置いた。
三分間全力で攻撃させて、持久力が持つかどうかの判断もあった。


マイヤはまず相手の攻撃を見たいと考え、人差し指を立てた左手の甲をソフィーナに向け、二度三度指を曲げて向かってくるように合図する。


二人の間の距離は、おおよそ五メートル。棒の全長が二メートルほどだが、半分ずつ身体の前後に出している。
ソフィーネは少し膝を曲げ、外側に向けた棒の先を地面につける。地面の先に体重を乗せ、そのまま身体をひねり地面の石や砂をマイヤに向けて打ち上げた。
巻き上げられた砂の中から、数個の石がマイヤの顔に向かって飛んでくるが、余裕の態度でその石を身体をひねるだけで避ける。
ソフィーネは打ち上げた棒の勢いを殺さず、身体を軸にして遠心力を利用し反対の棒に力を乗せて打ち付ける。
その時、半分で構えていた位置をずらし、身体の移動と棒の攻撃範囲が伸びたことによってマイヤをその射程距離に捉えていた。

「――ふん!!!」


ソフィーネは身体を半回転、そしてもう半回転させ、一つは上段、二つ目は下段と連続攻撃を繰り出す。
だが、どちらにも棒に何かが当たった感触はなかった。

マイヤは上段を身をかがめ、下段を跳躍によって棒の軌道上からその身を外していた。
ソフィーネはいったん距離をとり、相手の状況を確認する。
だがマイヤは無傷で、しかも最初の位置から移動していなかった。



「なるほどね、なかなか良い棒裁きね。自分の力の足りないところ遠心力で補い攻撃力を高めてるのね。槍とかなら先端で攻撃するのだろうけど、あなたの今の力ならそれが最善ね」


ソフィーネは、一瞬にして自分の思惑を見抜いたマイヤに驚く。
青年期であるソフィーネは、筋力では成人や同年代の男性には敵わない。
筋力をつけることも考えたが、それによって敏捷性が落ちることや筋力トレーニングをしても栄養が足りないためそこまでの筋量を得ることはできないと知っていた。
そのため、長めの棒を使って扱い距離をとって戦うことや、スリングや弓矢、ナイフなどの刃物の扱いを訓練していた。
万が一のために簡単な関節技なども練習していたが、力で差がある場合にはその方法を選択することはなかった。


「……さて、そろそろ残り半分よ。ほら……じっとしていると時間が無くなるわよ」


マイヤは腕を組んで、ソフィーネに向かってくるように煽った。


「くそぉぁっ!!」


ソフィーネは手にしていた棒を投げ捨て、腰からヌンチャクを取り出す。
だが、それもマイヤの身体……服の裾にも触れることは許されなかった。
ソフィーネは考えられる、自分ができることで可能性があるものをすべてマイヤにぶつけていく。



結局、最後までソフィーネはマイヤの顔に触れることさえできずに砂は全て落ち切ってしまった。






しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

異世界転生雑学無双譚 〜転生したのにスキルとか貰えなかったのですが〜

芍薬甘草湯
ファンタジー
エドガーはマルディア王国王都の五爵家の三男坊。幼い頃から神童天才と評されていたが七歳で前世の知識に目覚め、図書館に引き篭もる事に。 そして時は流れて十二歳になったエドガー。祝福の儀にてスキルを得られなかったエドガーは流刑者の村へ追放となるのだった。 【カクヨムにも投稿してます】

【完結】神様に嫌われた神官でしたが、高位神に愛されました

土広真丘
ファンタジー
神と交信する力を持つ者が生まれる国、ミレニアム帝国。 神官としての力が弱いアマーリエは、両親から疎まれていた。 追い討ちをかけるように神にも拒絶され、両親は妹のみを溺愛し、妹の婚約者には無能と罵倒される日々。 居場所も立場もない中、アマーリエが出会ったのは、紅蓮の炎を操る青年だった。 小説家になろう、カクヨムでも公開していますが、一部内容が異なります。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

追放された引きこもり聖女は女神様の加護で快適な旅を満喫中

四馬㋟
ファンタジー
幸福をもたらす聖女として民に崇められ、何不自由のない暮らしを送るアネーシャ。19歳になった年、本物の聖女が現れたという理由で神殿を追い出されてしまう。しかし月の女神の姿を見、声を聞くことができるアネーシャは、正真正銘本物の聖女で――孤児院育ちゆえに頼るあてもなく、途方に暮れるアネーシャに、女神は告げる。『大丈夫大丈夫、あたしがついてるから』「……軽っ」かくして、女二人のぶらり旅……もとい巡礼の旅が始まる。

処理中です...