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第四章 【ソイランド】
4-116 ソフィーネ4
しおりを挟む「私は……そうね。実力差を考慮して、わたしは何も使わないわ。もちろんあなたは何でも使っていいのよ?」
またしても明らかな挑発ともとれる、上からの目線の物言い。
収まりかけていたソフィーネの顔は、再び赤黒く染まっていく。
マイヤはソフィーネの実力を試すといい、二人は家の外に出た。
マイヤはその前にこの勝負に、条件を付けた。
ある一定の時間内で、自分の顔に一撃でも攻撃を当てることができたら、マイヤの権限で行える範囲でなんでもひとつ望みをかなえてあげることを約束した。
だが、条件が達成できない場合は、マイヤからの質問に嘘偽りなく答えててほしいという条件だった。
その条件に、ソフィーネは少し疑問を感じる。普通なら負けたら言うことを聞いて、王国に付れて行かれるのでは?という考えがあった。
(でも、実力をみて用がないっていう判断もあるか……)
挑発されたソフィーネだが、すぐにそういう判断ができるほどになるまで頭の中は冷静になっていた。
もちろんソフィーネはその条件を受け入れ、勝負を申し込んだ。
人の性的快楽を貪る以外の娯楽がないこの村で、今までにない新しい刺激に村人は表に出てその様子を見ようと二人の周り集う。
中には今までソフィーネから暴力を振るわれていた大人たちが、もしかしたらあのソフィーネがやられてしまうかもしれないという期待感を持って見守る者もいた。
ソフィーネはまず、自分の背丈ほどある長い棒を手にした。
これを使ったとき、相手に近寄らせることはほとんどない。万が一この攻撃を掻い潜って接近してきた時には、別な手を用意しているため問題ない。
その棒をクルクルと回し半分辺りで先端を外側に向けたまま脇に抱えるように挟んで止める、もう片方の手はマイヤに掌を突き出して構え準備ができたことを告げる。
それに対し、対峙したマイヤは直立不動のまま特別な構えはない。
懐から取り出した三分を計る砂時計をひっくり返し、足元に置いた。
三分間全力で攻撃させて、持久力が持つかどうかの判断もあった。
マイヤはまず相手の攻撃を見たいと考え、人差し指を立てた左手の甲をソフィーナに向け、二度三度指を曲げて向かってくるように合図する。
二人の間の距離は、おおよそ五メートル。棒の全長が二メートルほどだが、半分ずつ身体の前後に出している。
ソフィーネは少し膝を曲げ、外側に向けた棒の先を地面につける。地面の先に体重を乗せ、そのまま身体をひねり地面の石や砂をマイヤに向けて打ち上げた。
巻き上げられた砂の中から、数個の石がマイヤの顔に向かって飛んでくるが、余裕の態度でその石を身体をひねるだけで避ける。
ソフィーネは打ち上げた棒の勢いを殺さず、身体を軸にして遠心力を利用し反対の棒に力を乗せて打ち付ける。
その時、半分で構えていた位置をずらし、身体の移動と棒の攻撃範囲が伸びたことによってマイヤをその射程距離に捉えていた。
「――ふん!!!」
ソフィーネは身体を半回転、そしてもう半回転させ、一つは上段、二つ目は下段と連続攻撃を繰り出す。
だが、どちらにも棒に何かが当たった感触はなかった。
マイヤは上段を身をかがめ、下段を跳躍によって棒の軌道上からその身を外していた。
ソフィーネはいったん距離をとり、相手の状況を確認する。
だがマイヤは無傷で、しかも最初の位置から移動していなかった。
「なるほどね、なかなか良い棒裁きね。自分の力の足りないところ遠心力で補い攻撃力を高めてるのね。槍とかなら先端で攻撃するのだろうけど、あなたの今の力ならそれが最善ね」
ソフィーネは、一瞬にして自分の思惑を見抜いたマイヤに驚く。
青年期であるソフィーネは、筋力では成人や同年代の男性には敵わない。
筋力をつけることも考えたが、それによって敏捷性が落ちることや筋力トレーニングをしても栄養が足りないためそこまでの筋量を得ることはできないと知っていた。
そのため、長めの棒を使って扱い距離をとって戦うことや、スリングや弓矢、ナイフなどの刃物の扱いを訓練していた。
万が一のために簡単な関節技なども練習していたが、力で差がある場合にはその方法を選択することはなかった。
「……さて、そろそろ残り半分よ。ほら……じっとしていると時間が無くなるわよ」
マイヤは腕を組んで、ソフィーネに向かってくるように煽った。
「くそぉぁっ!!」
ソフィーネは手にしていた棒を投げ捨て、腰からヌンチャクを取り出す。
だが、それもマイヤの身体……服の裾にも触れることは許されなかった。
ソフィーネは考えられる、自分ができることで可能性があるものをすべてマイヤにぶつけていく。
結局、最後までソフィーネはマイヤの顔に触れることさえできずに砂は全て落ち切ってしまった。
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