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第四章 【ソイランド】
4-114 ソフィーネ2
しおりを挟むミーチェが消えたその日、ソフィーネは辺りを探し回る。
日が暮れてまで同じところを何度も、何か痕跡が残っていないかと地面を這いつくばって探し続けた。
だが、何一つ手掛かりとなるものは残っていなかった。
ソフィーネはわずかな期待を込めて、帰りたくない家に戻っていく。
そこにいつもの妹の姿があることを期待して……そこには探している妹の姿はなかった。
ソフィーネは恐る恐る自分の親に、ミーチェがいなくなったことを告げ心当たりはないか聞いた。
帰ってきた答えは、知らないという単純な答えだった。
さらには、獣や魔物に連れ去られてしまったのではないかといい、食い扶持が減って助かったという聞きたくない言葉も聞こえた。
ソフィーネはその言葉に対し、怒りで震え力いっぱい拳を握る。
しかし、ソフィーネにとっては、いくらだらしない親でも心のどこかでは特別な存在だった。
それに、自然の摂理の中で奪われたのであれば”仕方がない”と思う他ない。
今までも、そういうことはこの村の中では少なからず起きていた。
ソフィーネも獣を狩る際に、弱い子を狙うこともある。
そうやってミーチェを食べさせてきたし、人間だけが特別ではないこともソフィーネの頭の中では理解をしている。
だからせめて、苦しむ時間が少なく、その生き物たちがわずかながらでも生き延びてくれればと、ソフィーネは無理やり頭の中で無理やり整理をつける。
ソフィーネはそこから数日、枯草が敷き詰められた寝場所で何度も妹を思い涙を流す。
”できることなら自分が変わってあげたかった……”と。
そこから数か月が過ぎ、自分の後ろにはミーチェがいないことが当たり前に感じ始めた頃。
ソフィーネが集めていた集団の子供が、ミーチェと同じように村から姿を消した。
ソフィーネは他の者に辺りを探せて、自分はその子の家に向かった。
その家には子供が一人しかおらず、この村の中では親から愛情を受けて育ってきていた娘だった。
ソフィーネは怒られる覚悟で、その子の親に突然いなくなったことを告げる。
返ってきた反応は、ソフィーネの想像していたものとは違う内容だった。
その言葉は、”あ、そう”だけだった。
ソフィーネは、今までとは違う印象に驚く。
娘を厳しく育ててはいたが、そこには自分には受けたことのない愛情があった。
母親一人で育ていたため、苦労をしていたことも知っている。
夜々中、家を出て同じ村の他人の家に入っていく姿を何度も見ている。
ソフィーネも年齢的に、その意味をとっくに理解している。
だが、この貧しい村の中で幼い娘と二人で生きていくためには仕方がないことはわかっていた。
そこまで愛情を注いでいた娘がいなくなったことに、冷静に答える母親に違和感を覚えたソフィーネはどうしてそんなに無関心な状態なのかと力のこもった言葉で投げかけた。
すると、その返答はまたしてもソフィーネの想像とは反対の言葉が返ってきた。
母親は泣き叫びながら、――その母親から見れば――子供のソフィーネに取り乱しながら言葉を返した。
「仕方がないじゃないの!!こうするしかなかったのよ!!私が死んだらあの子一人では生きていかないじゃない、だから……誰かのもとで生きていってくれた方が……あの娘のためなのよぉ!!!」
さらにソフィーネは、衝撃的な事実を知る。
「あなたの”お姉さん”と”妹さん”だって、同じように売られたのよ!そのことを教えてくれたのは、あなたのお父さんよ!!!」
知っていること、知らなかったこと、考えたくもなかったこと……いろんな思いが頭の中で駆け巡り、ソフィーネの膝は崩れ落ちて床にへたり込む。
そのことを告げた相手は、ソフィーネの姿を見て”はっ”とした表情をする。
多分、口止めされていたことをこの女性は告げたのだろうとソフィーネは理解した。
ソフィーネはそこから、いろんな思いを抱きながら力ない足取りで我が家へ向かう。
確認したかったことは、姉の存在と妹の現在だった。
幸いにして両親は家の中にいた、表情がおかしいソフィーネを見ても何の感情も抱いていない。
両親の手元には、この家では考えられないコインが数枚並んでいた。
ここ数日には手にしていた記憶はない。
あの子が消えたその日に、こんなに大金を手にしていた。
ついさっきまでの母親の言葉を思い出す……自分の父親から教えてもらったという考えたくもない事実。
”人身売買”
おそらく手にしているコインは、その報酬だろう。
ソフィーネは背中から、小麦を打つ大きな棒を引き抜く、そのお金をどのように手に入れたのかを確認する必要はなかった。
父親はその姿を見て、実の娘のソフィーネを恐れていた。
「うわぁあああぁぁああ!!!!」
叫びながらソフィーネは父親に向かって構えた棒を、脳天に力いっぱい振り下ろす。
そこには生みの親というものはなく、悪しきものをただこの世界から消し去るためだけに。
振り下ろした棒は、その手から抜けて腕の動きだけが頭を割る軌道を描いた。
後ろには、その棒を手から奪った女性が立っていた。
「……あら、物騒ね。こんなものを人にぶつけると危ないわよ?」
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