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第四章 【ソイランド】
4-104 砂漠の施設18
しおりを挟む「私が先に見てきます。多分この先にあの男がいる可能性がありますから、メリルさんはここでお待ちいただけますか?」
「はい、お願いします」
メリルはそういって、降りてきた穴の近くに身を寄せて隠れた。
先に落ちた男は、気を失っていた。
騒がれると面倒なので、メイヤは男の口と腕を縛り一時的に自由を奪った。
メイヤは、ゆっくりと奥に続く穴に歩みを進めていく。
すると、さらに奥の方から誰かがいる気配を感じて近づいて行く。
建物の中の倉庫のような場所に馬車が一台停まっており、その近くでゴソゴソと動いている人物がいる。
メイヤは、その男に気付かれるようにわざとらしく音を立てて歩み寄る。
メイヤに気付いたその人物は、現れた女性に驚く様子も見せず手を休めて状況を見守る。
「べラルド”さん”……ですか?」
「そうだが?アナタは?」
べラルドはメイヤの上からの呼びかけに、不快感を示した。
「失礼しました、王宮諜報員のメイヤと申します」
「諜報員……あぁ、噂には聞いたことがあるな。警備兵とも騎士団とも違う、どこからも制約を受けることなく活動できる独立した王宮直轄の部門……でしたか?」
メイヤはその通りと、頷きべラルドの情報が正しいことを証明した。
「それで、その諜報員の方が……どうしてこのような場所に?」
「えぇ。今ある人身売買の組織を追っておりまして……発端は、先日運よく関係人物の捕獲に成功したのです。そこから仕入れた情報でガラヌコアという場所に向かえと」
べラルドは、メイヤの警戒度を数段階上にしながら話を聞く。
諜報員という職に就くものは、この世の中のすべての情報を握っているという。
貴族や大臣に就任したことのある家から王国内外の闇の組織の情報まで、必要に応じてそれらを武器として利用する。
特に大きな問題がなければ、そのまま見過ごすことも多い。
それは、何か起きた時にそれらをネタに取引を持ち掛けることができるため泳がせているためという。
そんな諜報員が捜査途中の内情をべらべらと口にするということは、何かを”掴んでいる”ということだとべラルドは判断した。
言い換えれば、自分に何か疑いをかけられており、ボロを出させるために情報戦を仕掛けてきているのだと。
”相手がどこまで知っているかは判らない状況でむやみに言葉を口にしては不利になる”と、べラルドはメイヤの言葉の続きを待つことにこの状況を進めることにした。
「それで、ガラヌコアの村に近いこの町に寄ったところ、変な噂を耳にしましてね」
言葉を言い切った後、メイヤはべラルドの顔を見る。
その視線は、相手の表情を観察するような目線だった。
メイヤ自身にはそのようなつもりはなかったが、べラルドはそう受け取っていた。
「変な噂……ですか?」
こちらの心情を読まれないようにするために、こう返すのが精一杯だった。
「そう、なんでも大臣のご息女が行方不明だとか……ご存じではないですか?」
「うーん……確かに王選の精霊使いを選ぶ際にお見掛けしましたが、それ以降はお見掛けしておりません。被害届も出ておりませんからな」
そういうと、べラルドは再び馬車を走り出させる整備を始めた。
「そうですか……それでべラルドさんは、いま何をされているのですか?」
「私ですか?……ここから逃亡した敵がいると聞いたので、追跡しようと準備をしているところですよ」
「あなたがですか?今ここで何が起きているかご存じですか?あなたの部下が戦っているのですよ?アナタが逃亡者を追跡する必要はなく、他の者に任せてはいかがですか?」
「いま、非常事態だ。そんなに人員は避けられない、だから私が行く……何か問題が?」
「わかりました……その者、私が追いかけます」
「それは助かるが……お一人は危険では?」
「そうですね……では、一人付けさせて頂きますわ……こちらへどうぞ」
暗闇の奥から、纏った布を揺らしながら近づいてきた。
「……メリル!そうか、お前が」
べラルドの怒りの籠った視線は、メイヤの笑った顔を射抜いた。
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