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第四章 【ソイランド】
4-98 砂漠の施設12
しおりを挟む男は自分の命が伸びたおかげか、自分の履いていたものが濡れていることに冷たくなって気付く。
頬と耳の傷はいまだ痛むが、幸いなことに命を奪われそうになった恐怖で痛みは麻痺している。
「さて、あなたたちのことを話してもえるかしらね……」
ソフィーネは男の傍に近づいていく、その度に男の目には”怯え”の色が濃くなっていく。
男は、襲い掛かる二つの死神に対してどうすれば逃れることができるかを考える。
一つは、自分の組織を束ねる権力を持つエルフ。
もう一つは、いま目の前で冷笑を浮かべながら近づいてくる女。
いまどちらの死神に助けを請うは、迷うことはない。
「わ……わかりました……なんでもお話ししますので、どうか命だけは!?」
ソフィーネは、目の前の男を軽蔑する。
あれだけランジェのことを下に見ておきながら、ランジェよりも……いや比較すること自体が間違っているほど、この男の信念はもろくて軽すぎるものだと感じる。
しかし、いまは変な感情に捕らわれるべきではない。
そういうところは、あのメイヤにもよく指摘を受けていたところだから。
情報収集に関して必要な威圧は残しつつ、頭の中に本来するべき仕事の筋道を立てていく。
今わかっていることは、粉の権利を独占したいということ。
ランジェのことも知っているということは、同じ組織の中にいる者だろう。
いつからこの町に入り込みんだのか、警備兵との繋がり、その組織の本体の全貌などわからないことばかりだ。
「それじゃあ、お話ししましょう……今回の目的は”粉”以外に何かあるの?」
ソフィーネは男を正座させ、話しかけながら男の服の中に手を入れていく。
ある男性が見れば羨ましい光景に見えたかもしれない、きれいな女性に身体をまさぐられることに快感を覚える者もいるだろう。
ソフィーネは画幅から抜いた手にはいくつかのナイフが握られていた。
男の尿がしみ込んだズボンの中にも手を入れ、何本かのナイフを抜き出した。
ソフィーネには抵抗する気はなかったが、何か起きた時のために隠しておきたかったがすべて取り出されてしまった。
だが、ソフィーネは一本だけひざ元にナイフを置いた。
男はこの意味を知っていた、これは決して抵抗するために渡されたものではないと。
ナイフに込められた真の意味は、”話したくなけばこのナイフで口を塞いでもいい”というものだった。
この話は、よくランジェが酒を飲んでいた時に聞いた話だった。
諜報員なりの慈悲とでもいうべき行為で、相手にも自分のプライドを守るために”自ら命を絶つ権利を与えてあげている”のだということだった。
いま自分がその決断を問われる身になって、これで自らの命を断とうという気にはならない。
ここで初めてランジェが自分に無抵抗でナイフの餌食になった意味がわかった気がした。
「さぁ、どうなのかしら?…話してくれるの?それとも」
そこで思い出したようにシーモが、目の前の男に重ねて質問を投げかけた。
「そういえばお前たち、牢に閉じ込めている精霊使いのことを気にしてたな?それも持っていくつもりだったのか?」
「え?メリルさんは、べラルドが連れて行こうとしているんじゃないの?」
ハルナの言葉に、ソフィーネはうかつに情報を出してはいけないと思ったが、注意をしていたわけでもないためそのまま話を進めることにした。
相手も、ソフィーネに心を折られていたため、そういった駆け引きができず自分の情報を漏らした。
「あぁ、うちらはべラルドさんと取引……いや、掛けをしていたんだ」
「掛け?……どんな内容なの?」
「べラルドは、メリルっていう精霊使いを狙っているんだ。だが、相手は全くその気がないみたいでね……だからここに連れ出すことに手を貸す代わりに、一年たって気が変わらなかったら俺たちが貰うってね」
「なぜ、あんたたちがメリルさんを連れて行くの?仲間にでもするつもりだったの?」
「違う……精霊使いは高く売れるのさ!!」
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