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第四章 【ソイランド】
4-94 砂漠の施設8
しおりを挟む「あ、姉さん……こちらです!」
案内をされる間に、男の口調は変わっていた。
ハルナは部屋を出る前にソフィーネが男の傍に寄り、耳元で何かを伝えていたのが暗闇の中で見えた。
そこからだった……男の態度と口調が変わったのは。
きっと、自分では考えつけないような酷いことを言ったのだろうとハルナは感じた。
争いは建物内の何部屋かで起きている。
それは重要な部屋を抑えるためとのことだった。
この建物の中で重要な場所……それは薬物の保管部屋だった。
三つある保管部屋あるうちの一つで初めに争いが起き、在庫の粉が舞い火が付くと爆発を起こしたという。
それが、初めて聞いた爆発音と時間的にも一致していた。
途中、爆発が起きた部屋の前を通過する。
その部屋の扉は、爆発の圧によって粉々に吹き飛ばされ反対側の廊下の壁にこびり付いていた。
ソフィーネと共にその部屋の中を見ると、元生き物だった跡があちらこちらに散らばっていた。
この世界に来る前であれば、そんなものを見れば胃が反応を示して口から戻していただろう。
だが慣れた今は、ただ現実としてその状況を理解するだけで終わった。
男は、ハルナたちを建物の二階に案内していく。
争いは建物の中から外に移動していった様子で、外から怒鳴り声や金属がぶつかり合う音がする。
最初の部屋で起きた粉塵爆発を避けるために、争いの場を外に移したのだろうとソフィーネは判断した。
しかもその薬物はこの者たちにとっては大切な収入源で、この争いの後に使い物にならなくなってしまうと痛手になると踏んだのだろう。
侵入した後にこの中を調べるには、ちょうど良いタイミングでソフィーネは建物の中を始めた。
男もその行動に対しては、何も言わずにソフィーネに各部屋の説明を求められついていく。
戦いに手を貸してほしいと頼んだのは自分の立場の守るためだけの話であり、本気でこの戦況を何とかしたいという気持ちはなかった。
とある部屋の前……
通路には引きずられたような血の跡があり、それは右側にある部屋の中に続いていた。
男は血の付いた扉の取っ手を取り、ドアを静かに開ける。
暗い明かりの消えた部屋の中、手元の明かりを突き出して床に続いていく血の跡を追っていく。
追っていくその先棚の陰に、人の足が見えていた。
男は部屋の中に入り、状況を確認する。
そこには男が信じたくない光景が、光の中に映し出されていた。
「ロ……イ……ロイ!どうした!!しっかりしろ!!」
男は明かりを床に置き、倒れている男を抱きあげた。
意識を失っていた男は、呼びかけに反応しうっすらと目を開き呼ばれた声の主を確認した。
「あ……シー……モ……」
ロイと呼ばれた男は衰弱しきった声で、よく知る男の名を口にした。
ソフィーネたちと一緒に行動していた男は、シーモという名だった。
シーモは抱きかかえる手に血のぬめりを感じ、それが内側からあふれて止まらないことに焦りを感じる。
「どうした!なにがあった!?」
「あ……あいつ……うらぎ……っ!?」
ロイは何とかシーモに伝えようとするが、意識を保つことが精いっぱいの様子だ。
「おい、誰だ!……誰のことだ!おいしっかりしろ!?」
「に……げろ……やく……に」
「おい!ロイ!!ロイ!!!」
ロイの身体はすでに限界で、呼吸をする力も尽きてしまった。
シーモの腕の中にあるからだが、ずっしりと重く感じた。
「馬鹿が……だから、早く逃げろって……くそぉぉぉっ!!!」
シーモはその場でロイの亡骸を抱きしめながら、どうにもできない悔しさを晴らすように叫んだ。
ソフィーネもハルナも、シーモのことを急かしたりしない。
あふれ出る感情が落ち着くまで、その背中を見守り続けた。
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