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第四章 【ソイランド】
4-73 指令本部での攻防2
しおりを挟むクリミオと名乗った男は、グラムを含めた三人の前を無防備に歩いて行く。
始めは装備を預けることになるかと思ったが、この男はそれをすることもなかった。
(自分の実力に自身があるのか、余程の愚か者か……)
グラムは、緊張を保ちながらクリミオが進んでいく小柄の背中を見つめている。
今までも全ての場所に入ったわけではないが、この建物の中は警備兵として在籍していた際とあまり変わりがなかった。
グラムは、この男の存在を知らない。
その記憶の範囲は、自分が警備兵の中に席を置いていたまでの記憶ではあるが、こんな男が警備兵としていた記憶はなかった。
副司令官の任に付ける実力として、すぐにその才能が開花することは考えにくい。
共に隊の中で過ごし、実力と経験を重ね部下や上司に認められて初めて人の上に立つ資格がある。
体格や背丈からみて、この男が警備兵たちの命を預かる中で、二番目に知、徳、力を持つ人物であるとグラムは到底思えなかった。
しかし今は、この男を”どうこう”することではなく、べラルドの情報を引き出しこの町を救うことが大切だった。
自分だけの疑問点は頭の隅に置き、小義よりも大義を優先させることが重要なことはグラムは重々に承知している。
そんなことに頭の一部を使って思考を働かせていると、クリミオはこの建物の最上階の三階に到着する。
三階は司令官の部屋と、作戦会議用の会議室が大中小と対象人数に応じた部屋があるだけだったが、その一部の改造された部屋に案内された。
「さぁ、どうぞ……こちらへ」
クリミオは入り口から一歩部屋の中に入り、自ら扉を押さえ三人を中に招き入れた。
「……うっ!?」
部屋に入り、グラムは思わず手で鼻を塞いだ。
その部屋の中は怪しげな絵や動物の頭部のはく製や、実際に生物の血液と思われる刃物がはく製の下に並べられて壁に掛けられている。
はく製の処理が甘いのか、獣独特や腐敗臭に近い匂いがこの部屋の中に充満していた。
「ささ、遠慮なくお座りください……後ろの方もどうぞ」
入り口で立ち止まっていたグラムたちを部屋の奥に入るように指示し、グラムもそれに従い部屋の奥に進んで行った。
グラムは用意された固い木の椅子に腰かけたが、後ろの二人はグラムの背後で直立の体勢を取る。
ドアを抑えていたクリミオが部屋の中に入ると、その後ろから十名近い警備兵が連なって入ってきた。
最後の一人が入ると、ドアにカギをかけてグラムたちを逃げ出せない様にした。
そして、クリミオの席の左右に壁に沿って並び、グラムたちに威圧的や卑しむ視線を送ってくる。
「……さて、グラム。べラルドに用事とのことだが……一体何の用だ?」
クリミオは急に威圧的な態度を取り、言葉遣いも上からの立場での物言いだった。
しかも、自分の上司を呼び捨てにまでしていた。
そんな奴がこの集団行動のなかでここまでの地位に上り詰めたのは、正規の手段で獲得したものではないとグラムは判断する。
「どうした……まさかのこの状況に怖気づいてるんじゃないだろうな」
「まさか……”こんなのが”十人程度現れたくらいで……何の問題にもならんよ」
なめられていると感じた周りの者たちの視線が、全て殺気に変わっていく。
「それより、いまべラルドはどこにいる?ここにはいないのか?」
「あぁ、べラルドはいま他のところへ行っている……くそ、アイツだけいい思いしやがって。あぁ、そいういえば、メリルの父親はお前だったな」
そうして、クリミオは掌に反対側の拳を打ち付ける。
「そうだ!……グラム。お前俺と組まねぇか?そんで、べラルドのやつを引きずり降ろしてやろうぜ!お前もべラルドのことが憎いんだろ?」
クリミオの言葉遣いは次第に荒れ、その者が警備兵上がりの者ではないという推測を確かなものにさせていく。
「手を組む……ですか?それは一体どのような作戦で?」
「べラルドの奴は、メリルっていう娘を狙っている。万が一、メリルとべラルドが一緒になるとソイランドの町は完全にアイツの者だけになっちまう!!……そこでだ。父上様が俺とメリルと一緒になることを許してくれればよぉ、俺がアイツに変わってこの町を治めることができる!やつとはそういう賭けをしてるんでね」
グラムは顔色を変えずにクリミオの顔を見ている。
そのことを不思議に感じたクリミオは、なぜグラムが何も言わないかを考察しある結論に達した。
「あぁ、お前にも半分この町の権力を分けてやるさ!お前はこの町を取り戻したいとアイツから聞いている。俺と組め……悪いようにはしない!いい夢を見させてやる!!」
クリミオはそういいながら、テーブルを叩き身体を前に乗り出してグラムに迫る。
――カ……チャ
入り口ではない壁にあるもう一つの扉が、ゆっくりと開いて行く。
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