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第四章 【ソイランド】
4-66 ブンデルとサナ4
しおりを挟む「ぱ……パイン様!?」
近くにいたメイドがパインの傍に駆け寄り、緑の殻の中にいるパインを助けようと必死に固く閉ざされた草をむしり取ろうとする。
その指先は、草の緑と指先から切れた血で滲んでしまっている。
だが彼女は中にいる主人を助け出そうと、痛んでいるはずの痛みを忘れてしまう程に草を掻き毟り続けた。
メイの耳に、聞き慣れた声が微かに聞こえた。
「……イ……メイ!聞こえていますか?私は大丈夫です!メイ、聞こえますか!?」
声の主がパインだと気付きメイは草を掻き毟る動作を一旦止め、草の殻に顔を近付けてパインに聞こえていることを話し掛ける。
「あぁ、パイン様……良かった、よくご無事で」
声が聞こえ安心したのかメイドは手を掛けたままその場に座り込み、力の抜けた身体を寄りかかるように草の殻に預けた。
その後ろで、ブンデルとサナが気を失っているメイドの上半身をロープで縛り、二人で再び部屋の中へと引きずり込んだ。
完全にその身体を部屋の中に引き入れると、サナは左右を確認し周りに誰もいないことを確認して扉を閉めた。
「サナ……大丈夫かい?」
「はい、誰にも気付かれていないようです」
その答えに満足して、ブンデルはパインを包む草の殻に魔力を送り込むのを止めると、硬く絡みついていた草に緩みが生じる。
ブンデルは腰に下げた自分の短剣を手にし、普通の草を刈るように草の殻を切り開いていった。
その様子を見て、メイドも護身用に持たされていたナイフでブンデルの反対側から草を切り裂きパインをこの中から出す手助けをする。
そして、一分もしないうちに殻の中からパインが無事な姿を見せた。
メイは、手を差し出してパインを草の塊から抜け出す手伝いをする。
パインはその掴んだ手が、緑色と自分の血で汚れていることに気付いた。
そして、一枚のハンカチを取り出し、パインはメイの手の汚れをふき取り血を抑えて止めた。
「こ……これは一体?」
再び顔見せたパインの第一声は、状況の確認だった。
サナはブンデルに、パインの身を襲ったナイフを手渡した。
「やはり監視されていたのですね……どうやらステイビルさんに聞いた話の通りだったようですね」
ブンデルはそういって、自分の魔法によって防いだナイフをパインに見せた。
そして、今まで言葉を発していなかったサナがブンデルの言葉を引き継ぐ。
「ステイビル王子は、パインさんがべラルドという方に監視されているのではないかとパインさんに招かれた時に感じていたそうですよ」
「ステイビル……王子」
「まず、今この屋敷の中にどのくらいべラルドの手下がいるのですか?」
ブンデルはそう告げて、まずはパインやその下に付く者たちの安全を確保したいと告げた。
その話を聞き、パインは覚悟を決めこの状況を打破することを決意し近くのメイドに声を掛ける。
「メイ、あなたも協力してくれるわね?」
「もちろんです、パイン様!!」
この屋敷の中には、二十名の住み込みでメイドがいるという。
うち四名のメイドはべラルドから送られてきた監視するためにいる。
その者たちは、武芸に長けており一筋縄ではいかないという。
「ここに一人捕らえたから、あと三人はいるっていうことか」
「私も戦います!」
「サナ……でも」
「大丈夫ですよ、ブンデルさん。私だって、ソフィーネさんとアルベルトさんに戦い方を教えてもらったんですから!」
サナが教わったのは護身術のようなもので、ヒールが使えるサナに何かあってはいけないと最低限の身を護る術を教えてもらっていた。
それらが、武芸に通じた者に通用する可能性は低いだろう。
(もう一人戦える者が欲しい……)
だが、外にいるビトーたちを連れてきては門番の警備兵に警戒されることになるし、その気配を感じた者が逃げてしまう可能性も考えられる。
ブンデルは今いる二人で何とかすることを決意する。
「……わかった。ただし、危なくなったら逃げるんだぞ。サナ」
サナは”任せて!”と、自分の胸を叩いて見せる。
不安を抑えつつ、やるべきことに向け気持ちを切り替えていく。
部屋に入った際に置いていた、矢筒と弓を手にしてパインにお願いした。
「パインさん……その者たちがいるところまで、案内していただけますか?」
「わかりました……メイ、ブンデルさんたちをご案内してあげなさい。そして、その者たちのことも教えてあげて」
「畏まりました、パイン様!……それでは、ご案内します。こちらです」
ブンデルとサナはそれぞれの武器を身に付け、メイというメイドの後ろをついて部屋を出ていった。
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