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第四章 【ソイランド】
4-53 地下通路
しおりを挟む詰め所の階ところに付いている窓から夕日が差し込んでいたが、そろそろその明かりでは辺りが見えなくなってき始めた。
壁の数か所にオイルランプを掛ける場所があり、アルベルトは手際よくそのランプに火を灯していく。
僅かな光量の明かりが集まり、寝るためだけに用意された部屋の中が見渡せるくらいの明るさがよういされた。
入り口の近くにはパンの入ったバスケットが置かれ、取っ手の付いた小さな蓋つきのドラムからジャガイモを煮崩した香ばしいスープの香りがする。
ハルナたちはそこに集まり、用意された食事をありがたくいただくことにした。
エレーナは一人一人にバスケットのパンを手渡していく。
ハルナが簡易なお椀にジャガイモのスープをよそっていき、ソフィーネとサナがそのスープをみんなの前に手渡していった。
ほとんどこの部屋の中で過ごしている間、何もできないためひたすら次の状況に向けて身体を休めた。
エレーナの水のおかげで、手ぬぐいの布を濡らして身体をふき取ることが出来た。
廃墟の中での汚れを全て落とすに少々足りないが、今できる限りの範囲で清潔を保つことができた。
「ステイビル様……これからどうされるおつもりですか?」
食事を終えた後のお茶が、全員の手に行きわたった時にグラムはステイビルに話しかけた。
「そうだな……まずはサライ殿と会って、話しを聞いてみなければ何とも……」
コージーからメリルのことは、サライに聞いて欲しいと言われた。
サライという人物には、コージーから事情を説明しておくと言われたが、この場所を案内されて以降コージーと会うことはできなかった。
この食事を運ばれたときに、警備兵に状況を聞いても”わからない”とのことだった。
コージー自身も忙しい中、ステイビルたちの対応をしてくれているのだろう。
それに、ここにステイビルたちがいることを悟られないためにも、”普段通り”に仕事をこなせなければならなかった。
そのことを思い、ステイビルはコージーがこちらに対応できる時間をただ待つことにした。
ステイビルは、自分の視界の中にハルナの姿を入れる。
心臓が強く脈打ち、数時間前のアクシデントの感触を頭の中で思い返す。
先程からその心地よい記憶の中におぼれそうになってしまいそうになるが、すぐに目を閉じてハルナの姿を消しこれから行うべきことへと思考を切り替えていく。
「ねぇ、ハルナ……そういえばモイス様をお見掛けしていないんだけど」
「うん、話しけてみるんだけどもうずっと応答してくれないのよね。フーちゃんに聞いても、わからないっていうし」
「へー……そうなんだね。まぁ、モイス様だったら問題はないはね、きっとまたひょっこり姿をお見せになるわね」
ハルナとエレーナが食器を全て、元に入っていたトレーの上に乗せてドアの近くに置いた。
その時――
――コンコン
「あ、はい」
ハルナがドアの向こう側に声を掛けると、”失礼します!”と力強い声が聞こえてドアが開いた。
ドアの向こうはいつの間にか夜の闇に飲み込まれ、昨夜この場所に来た時と同じ状況となっていた。
警備兵は足を揃えて敬礼し、普段は自分たちが使っているこの場所に緊張をして伝言を告げる。
「コージー様からのご伝言です!”本日の業務が終了し、これよりサライ様をお迎えに行く”とのことです!ご不便とは思いますが、今しばらくこちらにて隊指揮していただきたいとのことでした!」
この面子を前に緊張をする若い警備兵に、ステイビルが伝言に来てくれたことに対してお礼の言葉を告げる。
ステイビルの声かけに対し、緊張した若い警備兵は目が真っ赤に染めながら退室した。
一同は身支度を整え、いつ呼ばれても問題が無いようにした。
可能性としては少ないが、サライやコージーががステイビルたちを”貶めるている”ことだって考えられる。
(だが、今はコージーのことを信頼するしかない……)
昨夜の眠りに就く前に皆で話し合った結論を、ステイビルは再び頭の中で思い返した。
緊張した重苦しい空気と時間が、この狭い部屋の中に流れていく。
だが、その時間も終わりを迎える……
ドアを叩く音が聞こえ、扉が開かれる。
そこには、昨夜対応してくれていたビトーの姿があった。
「――皆さま、お待たせいたしました。コージー様の準備が整いましたので、ご案内いたします」
ステイビルたちは立ち上がり、ステイビルを先頭にビトーの後ろを付いて歩いて行く。
行先は昨日と同様に、倉庫内にある応接室へと向かう。
ビトーは扉と入り口の壁にある穴に、三枚の板を差し込み倉庫内への扉の鍵を解錠する。
全員が中に入ったあと、ビトーは再び扉に閂を掛ける。
それは板で開けた鍵とは別に、物理的に施錠をした。
「……お待たせしました。こちらへ」
再び大量の物資が並べられた棚の間を通り抜け、透明な壁で囲まれた部屋に向かって歩いていった。
ステイビルはその場に既に、コージーとサライが待っているものと思っていたが、その部屋は明かりが灯されておらず暗いままだった。
ビトーはその真っ暗なと部屋の扉を開け全員を中に通し、この部屋の扉も内側から施錠を掛けた。
その行動に、一同の緊張感が高まっていく、これでこの場所から容易に逃げ出すことが出来なくなった。
ビトーは自分だけが持つランタンの明かりで、部屋の奥へと進んでいく。
床にランタンを置いて、ビトーは腰から短剣を抜いた。
エレーナは、手にした杖を握る手に力が入る……が、ビトーはその場に膝付けてしゃがみこんだ。
そして、短剣の先を床の隙間に差し込み板を持ち上げた。
「……それでは、皆さまこちらへ。足元にお気を付けください」
床には下へと続く階段が現れ、ビトーはその中へと導くように進んで行った。
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