上 下
501 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-47 ロースト家へ

しおりを挟む






「ステイビル様……ロースト家の方からです」


ステイビルは差し出された手紙とダガーを一緒に掴み、ダガーを腰に仕舞った後に手紙を開いて中を見る。
ハルナはこの世界の文字がまだ全て読めないため、中を覗いても何が書いてあるかわからなかった。
ステイビルの横顔を見て、目が左右に動く姿を見守った。



中身を読み終えステイビルは手紙をまた、最初に折っていた四つ折りの状態に戻す。




「この手紙の差出人は……ロースト家からだ。多分カルディが依頼したのだろう」


「えぇ!?カルディさんですか!!」


ハルナは久しぶりにその名を口にした気がする。
ディバイド山脈を超え、西の王国に向かった際には協力し合った人物だ。


「それで、その内容は……何と?」


エレーナは、冷静な口調でステイビルに確認をした。


「それは……な。グラム殿は我々に協力を仰ぐようにという内容だったよ」



「ということは、やはりキャスメル王子たちも一度この町にやってきたのでしょうね。でも、すぐに出ていかれたのでしょうか?この町の状況はご存じでしょうに……」


エレーナが言いたいことは、ステイビルは良く理解している。
”なぜ何もせずに、この町を素通りしていったのか――”ということだろう。


その言葉に対し、アルベルトはいくつかの答えが思い浮かべ、そのうちの中から一つ、もっともらしいものを選んで口にした。


「多分……クリエの家に被害が及ばぬようにしたのだろうな」



クリエの家は、この町で長く続いている少ない家の一つだ。
特にソイランドは、王国設立時に一番最後に認定された町だった。
元々この荒れた土地に住んでいる者は少なかったため、この町を見続けてきた家は数家だけだった。

それ以外は、ソイランドへ移住してきた者たちだ。


クリエの家……ポートフ家はその当時からある旧家のうちの一つ。
そして、古いというだけで何の特別な権力は持ってはいなかったし、国から特別な権力を与えられてもいなかった。
荒れた土地の町を維持してくれた功績をたたえ、ほんのわずかな資金的援助があるだけでそれ以外は他の家と大した差はなかった。
資金援助といっても、カルディのロースト家の方が商業的に成功しているため裕福ではある。
王国からの援助以外にも何か努力をしなければ、家として維持ができない……クリエの家はそんな程度の力の家だった。

しかし、ポートフ家は信頼が厚く協力者も多かった。
それは、自分たちの利益を投げ出してまで困っているものを救う姿勢が周りを惹きつけている。




「まずは、カルディの……ロースト家と接触してみるとしようか」


ステイビルの一言に、一同が賛同の意を示して頷いた。



夜中を待って、暗闇に隠れながら一同はメイヤが残していった馬車に乗り込んだ。
グラムの他、チェイルとクリアも一緒についてきた。
そして、馬車はローストの家に向かって走らせた。






到着した場所は、ハルナの世界でいうところの中規模スーパーマーケットほどの大きさの建物がある。
この世界では個人の店舗が主流の中、総合的に扱っている品物を扱っている店として有名らしい。

敷地の裏側には倉庫があり、馬車を隠すように停めた。
周囲を監視する二人組の武装した警備兵がその姿を見つけ、ランタンで照らしながら馬車に近付いてくる。


「こら!そこの馬車!!そんなところで何をしている!!」



警備兵は応援を呼び、馬車はあっという間に一定の距離をとり囲まれた。
よく訓練されていると同時に、この周囲ではこういうことがよく起こりえることなのだろうと感じた。

それに、この馬車も充分に怪しい。
荷台を改造して座席を付けた馬車は、十名弱ほど運べる造りになっている。
馬を操る御者も深くフードを被り、その顔を認識しづらくしておりローブもこの店に似つかわしくないくらいのボロ布を纏っている。
こんな夜中に店ではなく倉庫の前で身を隠すように停めていれば、”怪しくない”という方が疑われるだろう。


「おい!全員、降りて来い!!無駄な抵抗はするな!!」


荷台の後ろから一人、二人と降りてくる。



(……?)



最後に小さな子が抱きかかえられながら降ろされる姿も見えた。

馬の手綱を握っていた御者も、さっそうと飛び降りる。
その姿は明らかに、慣れた身のこなしだった。

その周囲を囲む警備兵の間で緊張感が高まり、構えた槍を握る手に更なる力が加わる。


御者だった者がローブのフードを外そうと手に掛けたその時、荷台から降りた一人目の人物が手を挙げてその動きを制した。
そのままゆっくりと警備兵の声を掛けた者の方へ歩いて行くが、その動きを止められた。



「動くな!そこで止まれ!!」


その掛け声と共に、その人物は歩みを止めた。
これだけ警備兵に囲まれ、自分たちの企みが失敗して抵抗をやめたのだと警備兵の男は推測した。
現に、こちらからの命令にも抵抗することなく素直に聞いている。

だが、今まで見た盗賊とは違う”何か”を警備兵は感じている。
この張り詰めた気が抜けない空気が、状況的に優位な人数であっても消えることはない。



「ゆっくりと布を取り……顔を見せろ!」



命令された男は両手を上げて、フードに手をかけてそれを後ろに引きはがす。
現れた顔に見覚えはないが、ただの盗人ではない何かを感じている。



「お……お前は……一体何者だ?」



「私は、ステイビル……ステイビル・エンテリア・ブランビートだ。カルディの知り合いでロースト家の方と話がしたい」








しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

悪役令息に転生したけど、静かな老後を送りたい!

えながゆうき
ファンタジー
 妹がやっていた乙女ゲームの世界に転生し、自分がゲームの中の悪役令息であり、魔王フラグ持ちであることに気がついたシリウス。しかし、乙女ゲームに興味がなかった事が仇となり、断片的にしかゲームの内容が分からない!わずかな記憶を頼りに魔王フラグをへし折って、静かな老後を送りたい!  剣と魔法のファンタジー世界で、精一杯、悪足搔きさせていただきます!

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

転生先ではゆっくりと生きたい

ひつじ
ファンタジー
勉強を頑張っても、仕事を頑張っても誰からも愛されなかったし必要とされなかった藤田明彦。 事故で死んだ明彦が出会ったのは…… 転生先では愛されたいし必要とされたい。明彦改めソラはこの広い空を見ながらゆっくりと生きることを決めた 小説家になろうでも連載中です。 なろうの方が話数が多いです。 https://ncode.syosetu.com/n8964gh/

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

フェル 森で助けた女性騎士に一目惚れして、その後イチャイチャしながらずっと一緒に暮らす話

カトウ
ファンタジー
こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 チートなんてない。 日本で生きてきたという曖昧な記憶を持って、少年は育った。 自分にも何かすごい力があるんじゃないか。そう思っていたけれど全くパッとしない。 魔法?生活魔法しか使えませんけど。 物作り?こんな田舎で何ができるんだ。 狩り?僕が狙えば獲物が逃げていくよ。 そんな僕も15歳。成人の年になる。 何もない田舎から都会に出て仕事を探そうと考えていた矢先、森で倒れている美しい女性騎士をみつける。 こんな人とずっと一緒にいられたらいいのにな。 女性騎士に一目惚れしてしまった、少し人と変わった考えを方を持つ青年が、いろいろな人と関わりながら、ゆっくりと成長していく物語。 になればいいと思っています。 皆様の感想。いただけたら嬉しいです。 面白い。少しでも思っていただけたらお気に入りに登録をぜひお願いいたします。 よろしくお願いします! カクヨム様、小説家になろう様にも投稿しております。 続きが気になる!もしそう思っていただけたのならこちらでもお読みいただけます。

(完結)もふもふと幼女の異世界まったり旅

あかる
ファンタジー
死ぬ予定ではなかったのに、死神さんにうっかり魂を狩られてしまった!しかも証拠隠滅の為に捨てられて…捨てる神あれば拾う神あり? 異世界に飛ばされた魂を拾ってもらい、便利なスキルも貰えました! 完結しました。ところで、何位だったのでしょう?途中覗いた時は150~160位くらいでした。応援、ありがとうございました。そのうち新しい物も出す予定です。その時はよろしくお願いします。

憧れのスローライフを異世界で?

さくらもち
ファンタジー
アラフォー独身女子 雪菜は最近ではネット小説しか楽しみが無い寂しく会社と自宅を往復するだけの生活をしていたが、仕事中に突然目眩がして気がつくと転生したようで幼女だった。 日々成長しつつネット小説テンプレキターと転生先でのんびりスローライフをするための地盤堅めに邁進する。

処理中です...