494 / 1,278
第四章 【ソイランド】
4-40 カバンと命
しおりを挟む「わ、私の…私の大切なお金を盗られたから……!!!」
クリアはハルナに聞かれた質問に対し叫ぶように答えると、両手で顔を覆い大声で泣き始めた。
決してこれはこの場を逃れるための偽る演技ではなく、少女のある記憶の中から湧き出た悲しみだということは、事情を知らないハルナたちにも感じ取れた。
泣き叫ぶクレアをハルナは、優しく両手で胸の中で抱きしめた。
クリアはその行為に抵抗することなく、包まれた安心感に先ほどまでの自分の愚かな行為を詫び泣き続けた。
ハルナは、クリアを抱きかかえ背中を優しく心地良い一定のリズムで叩く。
感情は次第に落ち着き、クリアはハルナの胸の中で泣き疲れて眠った。
ハルナたちは、チェイルさんとクリアを連れてユウタのいた建物に戻ることにした。
ステイビルはソフィーネに、チェイルを見つけたため、もう一組を探してくるように命じた。
まだ、クリアはハルナに抱かれて眠っている。
そこで ハルナはクリアのことについて尋ねた。
クリアがこの地域に来たのは、一年程前……警備兵の足元で泣いているところを保護したという。
落ち着いた頃にどうしたのかと尋ねると、先ほどと同じように「お金を盗られた」と繰り返していた。
クリアは母親が見知らぬこの地域の入り口で”すぐ戻ってくるからここで待っているように”と言われたという。
その際に、小さカバン肩から掛けたカバンにお金の入った袋も持っているようにも言われていた。
だが、いつまで経っても母親は戻ってこない。
日が暮れ、夜になっても母親はクリアの元に帰ってこなかった。
泣きながら母親を呼び、見知らぬ町の中を小さな足で歩き回る。
寒くなり、喉が渇いてもクリアは自分の母親を探し続けた。
そこで、ある女がクリアに話しかけてきた。
”どうしてこんな時間に一人でいるのか――”と。
クリアは事情を説明し、母親を一緒に探して欲しいと女性に頼んだ。
その女性は、承諾しクリアの手を繋いで自分の住む家に着いてくるように誘われた。
困っていたクリアは、何も疑うことなくその女性の後を付いて行く。
乾いた喉に水と、干からびたパンを分けてくれタ女性に安心したクリアは、女性に言われるままに従った。
『今日はもう遅いから、もう寝なさい。明日いっしょに母親を探しましょう』
クリアはその言葉に従って、用意してくれた敷物の上で眠った。
朝、目覚めると身体に掛けていたカバンが無くなっていることに気付く。
昨夜泊めてくれた女性も姿を消していたので、クリアは建物の外に出て協力者の女性を探しに行く。
探していた女性はすぐに見つかった……無残に変り果てた姿をして。
着ていた服はつかみ合いの際に引き裂かれたのかボロボロになり、うつぶせに倒れた手にはクリアが掛けていた小さなバックの紐を握りしめている。
紐の先にあるバックは口が開き、全てのものを持ち去られた形跡がある。
現場検証をする警備兵は、足で女性の身体を表に返す。
その顔は殴打により顔が腫れあがり、その人相は元の顔を識別することが難しいくらいの状態だった。
クリエは初めて見る人の変わり果てた姿に、その場に座り込んで動けなかった。
次の瞬間に身体が自然に動き始める。
警備兵が、女性が掴んでいた手からカバンを奪った。
クリエは母親と繋がっている唯一の持ち物を返してもらおうと、警備兵の元に向かっていった。
ここでも自分の行動に対し、大人が壁となり立ちはだかる。
「か、返して!それは私の……」
「なんだお前は?ちょっと綺麗な服を着ているようだが……それをどこで盗んできた!?」
クリエは警備兵から、髪の毛を掴まれ引き上げられる。
今までにこんなことを誰かにされたことは一度もない……
痛みよりも、何よりもあのカバンを何とか手にしようと必死にもがく。
その動きのよって頭皮から髪が抜ける嫌な音が耳に入ってくるが、あのカバンを取り返そうと必死に抵抗する。
その手が警備兵のヘルムの中に入り、目に痛みが走る。
「――コノぉっ!?」
警備兵はクリエを、掴んだ髪の毛だけで地面に投げつける。
打ち受けられたクリエは、子供らしからぬ声で痛みの声をあげる。
うつ伏せになったクリエを、警備兵は足で背中を踏みつけた。
足の裏に伝わる無駄な抵抗を感じ取りながら、ゆっくりと腰に下げた剣を引き抜く。
「警備兵に手を挙げた……覚悟は出来てるんだろうな!?」
そう言いつつ警備兵は剣を片手で振り上げる、周りの警備兵もその動作を誰も止めようとはしなかった。
「あばよ!!」
そう言いながら警備兵は剣を振り下ろそうとした時――
――ガン!!!!
被っていたヘルムに、横から強い衝撃が加わる。
その衝撃によって、目の前が一瞬白くなり男の意識は薄れる。
その隙を見計らい、チェイルは足元からクリアを助け出した。
「――ッ!追え、チェイルだ!!奴を逃がすな!!」
チェイルはクリアを抱えて走るが、クリアはまだカバンを取り戻そうとした。
「止めて!!あのカバン!!あのカバンを!!!」
「バカ!カバンより命の方が大事だろうが!!」
そういってチェイルは廃墟の中を、警備兵たちでは追いかけてくることのできないルートでその追跡を振りクリアを助け出した。
0
お気に入りに追加
375
あなたにおすすめの小説
旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます
結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】
ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。
転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです
青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる
それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう
そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく
公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる
この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった
足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で……
エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた
修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た
ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている
エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない
ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく……
4/20ようやく誤字チェックが完了しました
もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m
いったん終了します
思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑)
平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと
気が向いたら書きますね

【完結】悪役令嬢に転生したけど、王太子妃にならない方が幸せじゃない?
みちこ
ファンタジー
12歳の時に前世の記憶を思い出し、自分が悪役令嬢なのに気が付いた主人公。
ずっと王太子に片思いしていて、将来は王太子妃になることしか頭になかった主人公だけど、前世の記憶を思い出したことで、王太子の何が良かったのか疑問に思うようになる
色々としがらみがある王太子妃になるより、このまま公爵家の娘として暮らす方が幸せだと気が付く

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む
家具屋ふふみに
ファンタジー
この世界には魔法が存在する。
そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。
その属性は主に6つ。
火・水・風・土・雷・そして……無。
クーリアは伯爵令嬢として生まれた。
貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。
そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。
無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。
その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。
だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。
そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。
これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。
そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。
設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m
※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!
暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい!
政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~
夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」
弟のその言葉は、晴天の霹靂。
アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。
しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。
醤油が欲しい、うにが食べたい。
レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。
既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・?
小説家になろうにも掲載しています。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!
みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した!
転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!!
前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。
とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。
森で調合師して暮らすこと!
ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが…
無理そうです……
更に隣で笑う幼なじみが気になります…
完結済みです。
なろう様にも掲載しています。
副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。
エピローグで完結です。
番外編になります。
※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

【完結】婚約者が私以外の人と勝手に結婚したので黙って逃げてやりました〜某国の王子と珍獣ミミルキーを愛でます〜
平川
恋愛
侯爵家の莫大な借金を黒字に塗り替え事業を成功させ続ける才女コリーン。
だが愛する婚約者の為にと寝る間を惜しむほど侯爵家を支えてきたのにも関わらず知らぬ間に裏切られた彼女は一人、誰にも何も告げずに屋敷を飛び出した。
流れ流れて辿り着いたのは獣人が治めるバムダ王国。珍獣ミミルキーが生息するマサラヤマン島でこの国の第一王子ウィンダムに偶然出会い、強引に王宮に連れ去られミミルキーの生態調査に参加する事に!?
魔法使いのウィンロードである王子に溺愛され珍獣に癒されたコリーンは少しずつ自分を取り戻していく。
そして追い掛けて来た元婚約者に対して少女であった彼女が最後に出した答えとは…?
完結済全6話
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる