上 下
485 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-31 偶然の合流

しおりを挟む






「あなた達……何をしてるのかしら?」



聞き覚えのない声がすると、ブンデルの身体が男の肩から落ちかける。
衝撃の痛みから守るために全身に力を込めるがすぐ別な力が加わり、背中が引き上げられてブンデルは地面に打ち付けられることを免れた。




「て、テメェ!?」




ブンデルの身体はフワッと宙に浮く、背中を掴まれてそのまま上に放り投げられたような感じだが、そこに乱暴は感じなかった。
子供をあやすかのように上空に向かって浮かび上がり、その感覚は背中にはまだ掴まれたままのような放られた安心感がある。
上昇中に、下からドサッという何かが倒れた音が聞こえる。
その数秒後、降下動作中に背中を再び捕まれ、着地した衝撃は助けてくれた者が制御し痛みなどはなかった。



そのまま地面に座らせるように置き、麻の袋の口紐を解いていく。
ブンデルは、暗闇の中に溶け込むかのような黒いローブを纏った人影を見る。
深く被ったローブでは、夜の暗闇の中でその顔を認識することはできなかった。



「何これ?……人身売買?」



ローブの奥から、女性の声でそう聞こえた。
次の瞬間、ブンデルは目を見開き塞がれた口から黒いローブを纏った人間に危険が迫っていることを必死に伝えようとした。
黒いローブを纏ったその人物はそれよりも早く反応し、地面に手を付き片足を軸にもう片方の脚で後ろに近付く相手の足を刈り払う。

足を払われた男はバランスを崩して横に倒れようとするが、その回転を利用し黒いローブの中から肘が倒れ込もうとした顔にカウンターで打ち込まれる。




「グ……ワっ!!!!」




その様子を見ていたブンデルは、相手の鼻はもう使い物にならないだろうと瞬間的に感じる。
視線をその奥に向けると、やや小さめな同じ麻の袋を肩に担ぐ男の姿が見えた。
その中にいる者の名を、言葉にならない言葉で叫んだ。

(サナああああああ!!!)




その気持ちを汲み取ってくれたのか、目の前の黒いローブを着た人物は一瞬にして建物の入り口にいた袋を担ぐもう一人の男と距離を詰める。



「――!!!」




その男は暗闇から飛び出してきたローブに驚き、手にしたランタンの手を離した。


――ガシャーン!


ランタンは地面に落ち、ガラスと火が移った燃料の油が飛び散る。
男の足元から火が吹き上がり、男の衣服にもかかった油に火が燃え移る。




「うわぁあぁああ!!!」




男は担いでいた袋を無造作に放り投げ、自分の服に付いた火を地面に擦り付けて消そうとした。




「ちょっと……荷物は大切に扱いなさい」




男は、側頭部を踏みつけられてそこから身動きが取れなくなった。
身体からは火が消えた衣服から焦げた臭いが昇ってくる。




「な!?何なんだ、お前は!?」




男は必死に体をよじらせ自分の顔を踏みつけている人物を確認しようとする。
が、踏みつけたものはそれを許してくれなかった。
そして、暗闇に慣れた目で馬車の方に移動させると、自分以外の男たちが冷たい地面に横たわっているのが見えた。


黒いローブを纏った人物は、フードを手でかき上げてその顔を見せた。




「さて……あなたたちは一体何をしようとしていたのか教えてくれる?」




メイヤは、足の下でもぞもぞと動く男に話しかけた。
踏まれている男はメイヤの足首に手を掛けようとしたが、足で顔を地面に擦りつけられその気力を奪われた。



「わ……わかった!何でも話す!!警備兵の詰め所でもどこでも連れて行ってくれ!!」




足元の男は、観念したようにメイヤにそう叫んだ。
メイヤは懐から、ロープを取り出し男の手を後ろで縛りその場所に放置しておいた。
そして小さな袋を担ぎ、ブンデルの傍に置いて口ひもを解いた。

中からは、ブンデルと同じように頬や額に殴打による痣がある女性のドワーフが姿を現した。
その姿を見たブンデルが、不自由な身体を乗り出してサナの方へ向かおうとしたがその場に倒れ込んだ。


必死さを見かねたメイヤは、ドワーフよりも先にエルフの身を自由にした。

ブンデルは手足が自由になると、自分で口にはめられていた布を乱暴に剥ぎ取った。
ずっと開かれていた顎関節は自由になり、急に閉じると痛みが生じる。
だが、それよりも心配するサナの元へ駆け寄った。



「さ、サナ!!大丈夫か!!しっかりしろ!!」


「ちょっと、落ち着きなさい。いま、手足を解きますから……」




メイヤのその言葉にブンデルは、必死に自分に落ち着くように言い聞かせ、メイヤがサナの自由を縛っている全ての拘束を解くのを待った。




「……サナ!」



ブンデルは自由になったばかりのサナを、助けてくれたメイヤから受け取り肩を抱いて呼び掛けた。




「う……うーん……ぶ……でる……さ」


「わかるか?……サナ、しっかりしろ!!」




さらに力を入れ、呼びかけようとしたブンデルの前に白い手が伸びてくる。
メイヤは落ち着きを無くしているブンデルの間に手を入れた。




「落ち着いて……もう大丈夫。警備兵に連絡をするので……」

「ダメだ!!」




ブンデルはメイヤの言葉を遮る。




「あいつらはこの町の警備兵と繋がっている!それよりもステイビルさんたちのところへ……!」


「ステイビル王子をご存じ?……あぁ、あなた達が」





メイヤはラヴィーネで聞いた情報を思い出し、ようやくハルナたちに追いついたと安心した。









しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

異世界転生したらたくさんスキルもらったけど今まで選ばれなかったものだった~魔王討伐は無理な気がする~

宝者来価
ファンタジー
俺は異世界転生者カドマツ。 転生理由は幼い少女を交通事故からかばったこと。 良いとこなしの日々を送っていたが女神様から異世界に転生すると説明された時にはアニメやゲームのような展開を期待したりもした。 例えばモンスターを倒して国を救いヒロインと結ばれるなど。 けれど与えられた【今まで選ばれなかったスキルが使える】 戦闘はおろか日常の役にも立つ気がしない余りものばかり。 同じ転生者でイケメン王子のレイニーに出迎えられ歓迎される。 彼は【スキル:水】を使う最強で理想的な異世界転生者に思えたのだが―――!? ※小説家になろう様にも掲載しています。

処理中です...