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第四章  【ソイランド】

4-29 氷塊

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ブンデルは音がした場所を見ると、床の板が外れそこには空間のようなものが見えていた。



「……ブンデルさん」



サナの心配そうな言葉に、ブンデルは大丈夫と言葉をかけて頷いてみせた。


名残惜しそうにサナの身体を起し、ゆっくりとその空間が見えている場所に膝を付く。
握った拳が入りそうな大きな隙間に、ブンデルは手をかざした。



「……空気が流れてる」



ブンデルは、この下に何らか空間があると判断した。
通常であれば床は、その腕で生活を置こうなうため頑丈に造られているはず。
それが、上に載せられてたガラクタが崩れただけで外れるということは”初めから外れやすくしていた”と判断したのだった。




「サナ、ちょっと手伝って」





ブンデルはそう告げると、サナと一緒にその空間の上に積み重なったガラクタを二人で別な場所に運んでいく。
周りの物が崩れそうな状況で、ゆっくりと事を成していく。

そして、汗が背中に噴き出して衣服に張り付き始めた頃、ようやく外れていた一枚の板が姿を見せた。


……ゴト!


動かない様にしてあったのか、板の裏には鉄の棒が板で止めつけており外れにくくしていたようだった。
ブンデルは、身体がすっぽりと入りそうな穴に頭だけを入れて中を見渡す。
中は真っ暗で落ちかけた夕日が入ってくる穴の入り口付近だけしか見えなかったが、そこには下に向かって続く階段のような段差が続いていた。

ブンデルは顔を穴から抜き出し、床に付いた両手を軸にして頭と足の位置を入れ替えた。
そして穴の中に身体ごと飛び込もうとし、臀部が床から離れた瞬間……




「――ぐえっ!!!」



サナは、両手でブンデルの首の後ろを引っ張りその行動を阻止した。
そのまま残った腕の支えと、サナのけん引する力を利用し浮いていた下半身を再び床の上に載せた。




「ゴホッ!ゴホッ!……びっくりした、どうしたのサナ?」


「もうこれ以上は危険ですから、見逃せません!」





サナは掴んでいた手を離し、手を腰の両脇に当ててブンデルを叱るように上から見下ろす。




「お願いだから……これ以上はみんなで調査しましょ?」



今度は、ブンデルも隠すことなく叱ってくれるサナに対し笑顔で返した。




「あぁ、そうだな。サナに言う通りだ、戻ってステイビルたちに相談しよう」




サナは手を差し出し、ブンデルの身体を引き起こそうとした。




「――サナ!!!」




そう驚くブンデルに呼ばれると同時に、サナの後頭部には何か硬いもので殴られた痛みが生じ、そのまま記憶が途切れる。

ブンデルの周りにも数人の男が取り囲み、小さな包みをブンデルに投げつける。
包みは破裂し粉が舞い、その粉を吸い込むとブンデルの意識が遠くなり消えていく。




(サ……ナ……)




薄れる意識の中、最後に冷たい床が顔に付いた感覚を感じた。











「……おい、起きろ」



ブンデルは、外からではなく内側からくる頭の痛みを堪えるためにその場所に手を当てようとしたが、そこで初めて自分の身体が自由に動かせないことを知る。




「やっと起きたか……つーかさ、クラッシュアイスは亜人のエルフにも効くんだな」


「そりゃそうだろうさ、あのギガスベアにも効くんだぜ……」




『クラッシュアイス』、ソイランドの砂漠の近くに群生する花から採れる花粉の俗名。
この花の花粉は、少量の吸引で高揚感が生じる。使用量が増えると幻覚や幻聴といった脳の感覚障害が出る。
一度に大量に吸引してしまうと、麻酔のような効果をもたらす。
以前は戦争や紛争があった際に、この花粉を使用して挑むこともあったという。
近年では、猟や刑の執行時に使用されることもある。
だが、いまではその中毒性の高さから、王国からその使用は承認制となって無断での使用は禁止されている。




ブンデルは次第に視力も回復し、今の状況について視界の範囲で確認する。
そこにサナの姿はなく、一気に怒りと不安の感情が膨れ上がる。



「―― っ!!!!」



目の前の男たちに言葉を掛けようとしたが、口の中に物が詰め込まれ舌をかみちぎれないように下顎を包むように布で縛られ固定されていた。



「聞いてるぜ?……魔法を使うには、詠唱ってのがいるんだろ?それで攻撃されちゃたまんねーからな口は塞がせてもらった」




魔法の知識……人間はほとんど知らないとステイビルたちから聞かされていたが、この中に魔法に詳しい者がいるのか。
ブンデルは、抵抗を止め情報を集めようと相手の出方を伺う。




「……なんだぁその目は?勝手に俺たちの住処に入ってきたのはお前たちだろうが!!」


「おおぉ!!!」





この場に居る一人、スキンヘッドの男から無防備な状態でつま先で蹴り上げれ、ブンデルは吐き気と痛みを必死に堪えた。
それと同時に、ブンデルは悟った。
この男たちは、この屋敷に住んでいた者たちであるということを。
だが、全員警備兵に連行されていったはずだ……そこでブンデルはある理由が浮かび上がる。


(警備兵も仲間……ってことか)



「……おいおい、無茶するな。こいつかもう一匹のドワーフが、ケガを治す魔法を使えるらしいんだ。壊してしまうとお前が始末されるぞ!」





その言葉の中に、ブンデルは自分たちが襲われた理由を見つけた。
男たちの目的が、サナが使える”ヒール”の魔法だということを。






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