上 下
478 / 1,278
第四章  【ソイランド】

4-24 あの日のこと2

しおりを挟む





ユウタが夜の街で働き始めて、五年の年月が過ぎていった。


その間、ユウタは褒められることが嬉しくバーテンダーとしていろいろにな大会に出ては優勝し、自分がフユミに教えてもらった技術を楽しんでいた。

そこから更に、ユウタの心の中に慢心が芽生えた。




『この店はいつか自分で持っている――』



確かに、女性客からも受けがよく最近では自分の腕の噂を聞きいて訪れる客も増えてきた。
そのため今まで誰ともかかわることなく、たった一人でゲーム機の中の世界だけで過ごしてきたユウタにとっては調子に乗ってしまうのも仕方がないこであった。




しかし、そんな態度に気付いたフユミは、”私たちは助けてもらっているのだから、変な気を起こすのは止めなさい――”と義弟のユウタに言って聞かせた。
ユウタはフユミの言葉を素直に受け入れた。

ユウタも放置されて育てられていたため、初めて心から家族と呼べる義姉に対してはいうことを聞くようにしていた。
……本心は隠しつつ。





時間は更に進んで行く。


店の主人である椿が、引退すると言い出した。
ユウタはここで自分の出番だと思っていたが、自分の娘に任せることに決まった。

従業員たちも椿の決定に反論はなかった……一人の腹の中をを除いては。


新しい経営者は、一人この店に従業員を増やすことを決めた。
その新しい従業員とは、実の娘”小夜”だった。


フユミは他の店ともかけ持ちをしていたので、主にユウタが小夜の面倒を見ることになった。


話しを聞くと小夜もいろいろと訳あって、夜の仕事で社会性を養ってもらうことが目的だったという。



(小夜と仲良くなればいずれはこの店を……)


そう考えたユウタは、小夜にこの店のことや夜の街に付いて自分が覚えたことをいろいろと教えた。
その時に、小夜に対し教育以上の感情を注いでユウタは接した。

”作戦”が上手くいき、小夜は次第にユウタに気持ちを寄せていく。
そのことにユウタは”成功”した実感を感じ、付かず離れずの丁度良い距離を保とうとしていた。
だが、ここで一つ思惑が狂った。

小夜が思いのほか、押しが強いということだった。


店の中でも、小夜はユウタに対し自分のことをアピールし始めた。
目の前に客がいるにも拘わらずに……


有名になったユウタを取り巻く女性たちも、その姿を見て次第にユウタへの熱が冷めて離れていく。
そして、店の客はユウタの熱で入り込んでいた女性たちが追い出した古い客の大多数が戻らないまま数か月経過していった。

このことを不思議に感じた経営者である小夜の母親は、とある客から自分の店の悪い噂を聞く。
店に行かなくなった原因が、自分の娘にあるということを。


丁度その時、元経営者である椿からもう一人自分の親族を働かせてほしいと提案された。
その人物はハルナだった、小夜の母親もハルナのことを知らないわけではないため元経営者の指示に従った。
それに、できれば幼馴染のハルナの姿を見て『小夜が何かに気付いてくれれば……』という願いも込められていた。

しかし、その母親の願いは娘に届くことはなかった。



小夜とハルナが一緒に働き始めてほんの数か月が過ぎた。
その短い期間でも、人気の差が生まれる……ハルナは小夜よりも人気があったのだった。

その人気は、客だけでなくユウタやフユミ……他の手伝いに来てくれている女性たちにも人気があった。


それをよく思わないのは……当然小夜だった。
自分に親切にしてくれていたユウタの態度も、今はほとんどハルナの方へ向けられていた。
二人はゲームが趣味のようで、小夜が入れない話題で盛り上がっている姿も度々見掛けた。


ハルナが来てから、さらに小夜の態度は悪くなっていく。
客にねだり、自分を売り込む言動がエスカレートしていった。
それでも以前より客足の減少が見られなかったのは、ハルナの人気のおかげだった。




その姿と見た母親は、最終的に小夜を店から出さないことを決めた。

ユウタはその決定に、ホッとした。
小夜はその前から、自分の家に居座ろうとしていたのだった。



実はユウタは、何度か小夜を家に泊めていた。
女性経験の少ないユウタが、その状況に”我慢”が効くはずがない。



しかし、小夜の本当の性格がわかり、いまハルナという次の目的が出来た以上ユウタの中で小夜は面倒な対象となっていた。
身体を交わらせたことも本人たちの了承であり、未だにそのことはバレていないのは小夜がそのことを黙っているつもりだと解釈していた。


『自分には責任がない』と――


そして、小夜は夜の街を転々とし、その身を悪環境の中に身を落としていくことになった。


小夜は、この店で起きたことを忘れてはいなかった。
憎むべき相手は”二人”いる。

その思いが小夜の中で日々増幅し、ついにその恨みが爆発することになった。






「……というわけなのさ。あんたたちがこの世界に来たのは、この男のせいなんだよ!!」



話しを聞き終えた後、ハルナの心臓の鼓動は先ほど意識の外へと通り抜けていったある推測が再び意識の中に浮上してきたことにより早くなる。



「ねぇ、ヴェスティーユ……あなたの言っているお母様ってもしかして……」










しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈 
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

【完結】天下無敵の公爵令嬢は、おせっかいが大好きです

ノデミチ
ファンタジー
ある女医が、天寿を全うした。 女神に頼まれ、知識のみ持って転生。公爵令嬢として生を受ける。父は王国元帥、母は元宮廷魔術師。 前世の知識と父譲りの剣技体力、母譲りの魔法魔力。権力もあって、好き勝手生きられるのに、おせっかいが大好き。幼馴染の二人を巻き込んで、突っ走る! そんな変わった公爵令嬢の物語。 アルファポリスOnly 2019/4/21 完結しました。 沢山のお気に入り、本当に感謝します。 7月より連載中に戻し、拾異伝スタートします。 2021年9月。 ファンタジー小説大賞投票御礼として外伝スタート。主要キャラから見たリスティア達を描いてます。 10月、再び完結に戻します。 御声援御愛読ありがとうございました。

疲れきった退職前女教師がある日突然、異世界のどうしようもない貴族令嬢に転生。こっちの世界でも子供たちの幸せは第一優先です!

ミミリン
恋愛
小学校教師として長年勤めた独身の皐月(さつき)。 退職間近で突然異世界に転生してしまった。転生先では醜いどうしようもない貴族令嬢リリア・アルバになっていた! 私を陥れようとする兄から逃れ、 不器用な大人たちに助けられ、少しずつ現世とのギャップを埋め合わせる。 逃れた先で出会った訳ありの美青年は何かとからかってくるけど、気がついたら成長して私を支えてくれる大切な男性になっていた。こ、これは恋? 異世界で繰り広げられるそれぞれの奮闘ストーリー。 この世界で新たに自分の人生を切り開けるか!?

毒を盛られて生死を彷徨い前世の記憶を取り戻しました。小説の悪役令嬢などやってられません。

克全
ファンタジー
公爵令嬢エマは、アバコーン王国の王太子チャーリーの婚約者だった。だがステュワート教団の孤児院で性技を仕込まれたイザベラに籠絡されていた。王太子達に無実の罪をなすりつけられエマは、修道院に送られた。王太子達は執拗で、本来なら侯爵一族とは認められない妾腹の叔父を操り、父親と母嫌を殺させ公爵家を乗っ取ってしまった。母の父親であるブラウン侯爵が最後まで護ろうとしてくれるも、王国とステュワート教団が協力し、イザベラが直接新種の空気感染する毒薬まで使った事で、毒殺されそうになった。だがこれをきっかけに、異世界で暴漢に腹を刺された女性、美咲の魂が憑依同居する事になった。その女性の話しでは、自分の住んでいる世界の話が、異世界では小説になって多くの人が知っているという。エマと美咲は協力して王国と教団に復讐する事にした。

婚約破棄されたので森の奥でカフェを開いてスローライフ

あげは
ファンタジー
「私は、ユミエラとの婚約を破棄する!」 学院卒業記念パーティーで、婚約者である王太子アルフリードに突然婚約破棄された、ユミエラ・フォン・アマリリス公爵令嬢。 家族にも愛されていなかったユミエラは、王太子に婚約破棄されたことで利用価値がなくなったとされ家を勘当されてしまう。 しかし、ユミエラに特に気にした様子はなく、むしろ喜んでいた。 これまでの生活に嫌気が差していたユミエラは、元孤児で転生者の侍女ミシェルだけを連れ、その日のうちに家を出て人のいない森の奥に向かい、森の中でカフェを開くらしい。 「さあ、ミシェル! 念願のスローライフよ! 張り切っていきましょう!」 王都を出るとなぜか国を守護している神獣が待ち構えていた。 どうやら国を捨てユミエラについてくるらしい。 こうしてユミエラは、転生者と神獣という何とも不思議なお供を連れ、優雅なスローライフを楽しむのであった。 一方、ユミエラを追放し、神獣にも見捨てられた王国は、愚かな王太子のせいで混乱に陥るのだった――。 なろう・カクヨムにも投稿

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

異世界着ぐるみ転生

こまちゃも
ファンタジー
旧題:着ぐるみ転生 どこにでもいる、普通のOLだった。 会社と部屋を往復する毎日。趣味と言えば、十年以上続けているRPGオンラインゲーム。 ある日気が付くと、森の中だった。 誘拐?ちょっと待て、何この全身モフモフ! 自分の姿が、ゲームで使っていたアバター・・・二足歩行の巨大猫になっていた。 幸い、ゲームで培ったスキルや能力はそのまま。使っていたアイテムバッグも中身入り! 冒険者?そんな怖い事はしません! 目指せ、自給自足! *小説家になろう様でも掲載中です

転生先は盲目幼女でした ~前世の記憶と魔法を頼りに生き延びます~

丹辺るん
ファンタジー
前世の記憶を持つ私、フィリス。思い出したのは五歳の誕生日の前日。 一応貴族……伯爵家の三女らしい……私は、なんと生まれつき目が見えなかった。 それでも、優しいお姉さんとメイドのおかげで、寂しくはなかった。 ところが、まともに話したこともなく、私を気に掛けることもない父親と兄からは、なぜか厄介者扱い。 ある日、不幸な事故に見せかけて、私は魔物の跋扈する場所で見捨てられてしまう。 もうダメだと思ったとき、私の前に現れたのは…… これは捨てられた盲目の私が、魔法と前世の記憶を頼りに生きる物語。

処理中です...