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第四章 【ソイランド】
4-17 手がかり
しおりを挟む『ハルナよ……この者、魔物の気配がしておるぞ』
ハルナはその声のトーンを考慮し、自分に起きた事態を未だ信じられていない男から距離をとって気付かれないように背を向けた。
「……え!?それじゃ、この人……魔物?」
『いや、こやつは人だ。だが、魔物と濃厚接触した時に付着したような魔素の残渣が感じられるのよ』
「それじゃ、さっきの?」
『それもわからん。何にせよ、情報が少なすぎるな……少し注意した方がよさそうだぞ、ハルナよ』
「わかりました……状況を見てステイビルさんたちにも伝えます」
『うむ、頼むぞ……』
そういって、モイスはまた首の後ろの髪の中に消えていった。
ハルナは元いた方向へ振り向くと、男はようやく現実を受け入れかけようとしていた.
アルベルトとソフィーネが周囲を警戒し、追手がいないことを確認する。
男が落ち着いたところを見計らい、エレーナは少し上位からの立場の雰囲気を出しつつ再度問いかけた。
「さぁ、これで今は安心よ……それで、どうして襲われていたのか話してもらえるかしら?」
「それは……」
男は観念したと同時に、自分の傷口を塞ぐ能力を持った一行であればという思いから重い口をゆっくりと開き始めた。
襲われた理由は、あの男たちのところから水を盗んだことから始まる。
普通ならば相手の悪いところから話し始めるが、この男は自分の犯した罪から話を始めた。
そんなこともあり、ステイビルもエレーナもこの男の話の先を聞く姿勢になっていた。
ソイランドの近くは荒れた大地が広がっている。
山もなく流れる川もないため、水はこの町ソイランドでは貴重な品となっている。
通常は、雨の水を貯めて生活用水として用いるか、井戸を掘りそこに水を貯めるもしくは、僅かな湧水を頼りにしているという。
そうした理由からこの町に存在するての水は、町を治める大臣によってその資源は管理されていた。
このため、その水を盗んだということはこの町では重罪に値する行為だった。
だが、エレーナとハルナにはある疑問が浮かぶ。
水の精霊使いが、この町にはいたという事実。
共にディバイド山脈を超えた、カルディのことを思い出した。
彼女は水を操る精霊使い、水不足の解消方法など知っているはずだった。
彼女以外にも水の精霊使いがいないはずがないと、悪い考えはすぐに否定した。
だが、結果はその悪い方へと流れていくことになる。
”水の管理”は、精霊使いを含めて行われているとのことだった。
今は、ソイランドの中に水の精霊使いは一人しかいないという。
そこまでくれば、おのずと誰がこの事態を起こしているのかが見えてき始めた。
(まさか……クリエの家が……?)
ハルナの頭の中に嫌な思いが浮かび上がるが、いまは口に出さないでした。
「私からもお聞きしていいですか?あの男たちを前にしても余裕のある態度でかわし、私の傷を治せる不思議な力の持つものいらっしゃる…… あなた方は一体何者ですか?」
その質問に対しては、すかさずステイビルが応じた。
「我々は町から町へある人を探して旅をしているのです」
「人を……探して?」
「そうです……詳しいことは私事に関することですのでお伝えできませんが、そういう理由で旅をしております」
「それでそんなに強そうな方達と一緒に居られるわけですね?」
咄嗟の判断で、ステイビルは話を誤魔化した。
この町には何か王国に対し、隠れて何かを行なっているか謀反のような悪事を企てているようにも思えた。
幸い目の前の男は、王選のこともステイビルのことも知らないようだった。
ここは、無駄に騒動を起こすよりも旅人として身分をかくした方がいいと判断したのだった。
その話を聞いたハルナ達も、ステイビルの話に合わせるように頷いた。
「あ、それから。この町でも人を探しているのですが……あなたのお名前をお伺いしても?」
「私の名は”チェイル”といいます。ステイビルさん」
ハルナ達はさきほどから名前を呼び合っていたので、チェイルはその名を聞いていたようだった。
それでもステイビルが王子ということを知らないのは、助かったというべきなのだろうか。
「それではチェイルさん、お尋ねしたいのですがこの町に”ユウタ”という料理人をご存知ではないですか?」
「あなたたち……ユウタさんに何の用事ですか?」
チェイルの声のトーンに、警戒が帯びている。
「私たちはモイスティアに立ち寄った際に、ある方からユウタさんという方に言伝を頼まれていてね。それを伝えに行きたいんだ……知っているなら教えてくれないかな?」
チェイルはしばし考えを巡らせる……そして考え出した結論をステイビルたちに伝えた。
「まず、ユウタさんに話しを伺ってきます。その後にユウタさんが会ってくれるのであればご紹介しましょう。もしユウタさんが断ればお会いできませんが、それでもよろしいですか?」
チェイルは、近くの場所までは一緒に連れて行ってくれるという。
本当に隠すのであれば、その近くまでも連れて行ってはくれないだろう。
チェイルは自分を助けてくれた、お礼として自分の裁量でできる限りの協力をしてくれるということだった。
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