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第四章 【ソイランド】
4-8 マイヤのお出迎え
しおりを挟む「そんな……結局娘さん王国とは関係のなかったことじゃないの!?なぜそこまでして、王国を崩壊させようとするのですか!?」
同じ商人として……才覚のありそうな男が、どうしてここまで人道に外れた道を歩むことになったのか。
マーホンは納得がいかず、思わず声を荒げてしまう。
だが、その言葉に対しザンタックは、青臭いことを告げる世間を知らない若者に向かって躾けるように無知なる者へ言葉を投げる。
「ふん!……小娘に何がわかる?自分の愛娘が他の者に騙されて永遠に引き裂かれたこの痛み……いつかお前も味わってみるがいい!!」
マーホンはザンタックの怒りの言葉に反論しようとしたが、ザンタックの言うことも分からなくはない。
自分自身が同じような立場に立った場合、”決してそんな風にはならない”などと軽々しく言えるはずもない。
自分がそこまで強い人間だとはマーホン自身も思っていないし、愛した人が誰かの手によって……しかも騙されて命を落とすことになったことを想像するだけで気が可笑しくなってしまいそうだった。
メイヤはその話の流れを止めて、本来の話に引き戻した。
「……それで、その組織のアジトはどこにあるの?」
ザンタックは、返答がないマーホンを睨みつけて鼻でフンっと軽蔑した後、メイヤの質問に答えた
「いいだろう……そこは……ソイランドの……ぐっ!……があぁぁぁ!?」
ザンタックは、胸を押さえて苦しみもがき始める。
「どうしたの!?」
マーホンが苦しむザンタックの傍によって、両肩に手を置こうとしたが苦しみもがきながらその手を振り払った。
「痛い!痛い!!……助け……たす……たッ……"カイラァっ"!!」
「しっかりして!どうしたの!?」
――ボン
破裂音と共に、胸を突き破り黒い虫のような寄生虫が飛び出してきた。
その虫はもぞもぞと身を捩らせ、その動きからは想像できない速さで外に逃げようとする。
――シュッ……ドスッ!
メイヤの投げたダガーが黒い虫を仕留め、その姿は黒い霧となって消えていった。
「な……何なのでしょうか、今の?」
「きっと、口封じでしょうね……」
マーホンもメイヤの考えが正しいと賛同した。
「ところで、マーホンさんはなぜこちらに?」
マーホンは、隠すことなく今までの経緯をメイヤに伝えた。
「……そうでしたのね。ですが、すぐに王子に号報告するべきだったでしょうね。あなたは王国の経済においてなくてはならない存在です。ハルナさんたちのためにも」
その言葉を聞き、マーホンは自分の選択したものが誤りであったことを痛感する。
自分自身で反省するよりも、他の者から突きつけられる方が胸の痛みが増す。
タイミングや状況に流されず正しい選択をしていれば、このような身の危険を犯すような結果にはならなかっただろう。
「ソイランド……そう言っていましたね?」
「そこに何かありそうですね……」
「ただいま、戻りました。お母様!」
エレーナは久しぶりの実家に戻り、今までにないくらいの緩んだ表情を見せている。
「おかえりなさいませ、エレーナ様、ハルナ様」
出迎えてくれたのは、フリーマス家のメイドとして働くマイヤだった。
ステイビルはハルナの状況を確認すべく、もう一組の王選経験者であるエレーナの母”アーテリア”に相談することにしてラヴィーネまで足を運んだ。
「お母様はどちらに?お聞きしたいことがあったんだけど……」
「アーテリア様は昨日より、外出しております。本日お戻りの予定となっておりますが、現時点ではまだお戻りになられておりません」
「ふーん?そうなんだ……」
エレーナは幼い頃から忙しかった母の行動に疑問を抱くことなく、マイヤの言葉を受け止める。
ハルナは、マイヤの姉妹のメイヤがいないことに気付いた。
「メイヤさんはどうされたのですか?」
「メイヤはいま、”仕事”中ですので外出しております」
「お仕事……ですか。そうですよね……」
ハルナはモイスに聞いた建国の話を思い出し、この国おける諜報員の実力と重要性を思い出していた。
国を支えてきた重要な役目を……ただ美しく強い女性だけではないことを。
「……ハルナ様。どうかされました?」
「い、いえ!?なんでもないんです!」
「長旅でお疲れのごようすですので、アーテリア様がお戻りになるまでお部屋でお休みになられてはいかがですか?」
「そうだな……そうさせてもらおう」
ステイビルがハルナとエレーナの疲れ具合を見て、マイヤの提案を受け入れようとした。
「それで、そちらの方は?」
マイヤは、ハルナたちの後ろにいる深くフードを被った二つの人影に目をやる。
二人はステイビルに促され、フードを外してその姿を現す。
「ようこそラヴィーネにお越しくださいました。ごゆっくりおくつろぎください」
マイヤは初めて姿を見せる亜人の二人にも驚くことはなく、要人としての対応で接した。
ステイビルたちの旅に付いて回っていることから重要な人材であることは容易に想像できる。
ブンデルとサナの二人は軽く挨拶をし、丁寧な対応をしてくれたマイヤに礼を告げた。
ハルナたちは、アーテリアが戻ってくるまでゆっくりとくつろがせてもらうことにした。
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