454 / 1,278
第三章 【王国史】
3-286 二つの闇
しおりを挟むハルナたちは洞窟を後にして、山を下り始めた。
帰り道は下りで探索もする必要がないため、登ってくるよりもその道程は容易に進んでいった。
最初の目的地であるエルフの村には日が完全に落ちる前に到着する事ができた。
ハルナたちはエルフの村で一晩明かして、翌日マーホンが待っている元の村にむかって出発した。
ナンブルはエルフの村での仕事があるため残ることになり、代わりにブンデルとサナはそのままステイビルたちに付いてくることになった。
朝日が昇り、山間を吹く風もまだ穏やかな時間。
ハルナたちは山間を通り抜けて、村に向かって歩き出した。
太陽が頭の真上を通り過ぎる頃、そんなに時間が経っていないが懐かしい景色が見えてきた。
遠くからは大量の書類を腕に抱えたマーホンが、嬉しそうに小走りで姿を見つけたハルナたちの傍に近寄ってくる。
「おかえりなさいませ、ハルナ様!それで……いかがでしたか?」
マーホンが落ち着いた様子で、ハルナに話しかけてくる。
そこには”万が一失敗した場合”の事態を考慮した発言であることが伺える。
「マーホンさん、ただいま!無事に終わりました」
「……それでは!よかったです、加護を受けることができたのですね!?」
「うーん……そのことなんですけど、私だけダメだったんですよぉ」
ハルナは後ろ頭を掻きながら、軽い気持ちで結果を伝えた。
――バサッ
マーホンは、ショックのあまりに手に持っていた書類を地面に落としてしまう。
「え!?……うそ……ハルナ様が……そん……な」
マーホン体から力が抜け落ち、立っていることもできなくなって座り込んでしまう。
「ちょ……ちょっと、マーホンさん!しっかり!?」
ハルナは座り込んだマーホンの腕を抱え、身体を起そうとする。
それを見ていたエレーナも、反対側の腕を抱えるため手を貸した。
「すみません……あまりにもショックだったため……こんなみっともない姿を」
時間が経ち、次第にマーホンも落ち着きを取り戻した。
マーホン自身はハルナが加護を頂けないはずがないと信じ切っていた。
これまでの旅やこの世界に来たときの話から、この世界から愛され、自分とこの世界を良い方向に導いてくれる存在だと信じていた。
そんなハルナが、大精霊の加護を受けることができないはずはない、自分が信じ全てを預けようとする人物が、こんなところで躓くはずはない……が、ハルナの口から聞こえた結果はマーホンにとっては残酷な結果だった。
マーホンも自分の立場上”打たれ強い”性格だと思っていたが、こんなにも脆いものだと自分自身で驚いた。
「マーホンよ……その気持ちは判らないでもないが、そんなに落ち込むようなことでもない」
「ステイビル王子……このことが”落ち込むようなことではない”ですって!?」
「まぁ、待て。関係者を……いや、マーホンだけ来てくれ。今までの経緯を説明しよう」
そういうと、ステイビルはこの村で滞在していた屋敷に向かい、マーホンはステイビルの後を付いて行った。
長テーブルが置かれた広い部屋に、一同は集まった。
だが、このメンバーの中で事情を知らないのはマーホンだけだった。
秘密保持でメイドもこの場には入れていないため、全員のお茶の用意をソフィーネが行っている。
その間にも、ステイビルはマーホンに今までのことの顛末を話して聞かせた。
マーホンは国の経済として、外すことのできない人物。
そのため国家機密でもある王選に関しても包み隠さず話すことにしていた。
これは、村に帰る道中に全員で一致した意見だった。
モイスも、これに関しては問題がないとの認識を示していた。
そして、一通り話し終えて僅かな沈黙の時間が流れていく。
マーホンにはそんなにも驚いた様子は見えないが、嬉しそうな表情でもない。
「……マーホンさん」
ハルナが心配そうに、マーホンに声を掛けた。
「え?あ、はい。大丈夫です……少し頭の中を整理しておりましたので」
「マーホン、我々は落ち着いたら一旦王国に戻る。この件について、王にも報告をせなければならないからな……マーホンはどうするのだ?」
マーホンは少しだけ乱れた髪の毛を整え、うっすら浮いた汗を布で拭う。
一通りの支度をし、心を整えてからステイビルの質問に答えた。
「それでは、私もご一緒させて頂きましょう。この村とエルフとドワーフの村の状況を王国にご報告をせねばならないでしょうから。その他にも用事もありますので……」
そうして、マーホンは翌日ハルナたちと一緒に王国に戻ることが決まった。
『む……消されたな』
「あのレッサーデーモンが……ですか?」
『そうだ……これも、あの”トカゲ”の能力だろうよ』
薄暗い影の中、二つの影が言葉を交わす。
その間には同等ではなく、ハッキリとした上下関係があることが言葉使いから伺える。
『それで、あの女はどうだ?怪しいところはないか?』
「はい。監視させていますが、ヴァスティーユとヴェスティーユを使い神々の居場所を探させているようです」
『そうか……あの女、ワシの能力を与えてはいるが何をするか分からん。引き続き注意しておけ』
「はっ」
頭を下げたダークエルフは、再び自分が与えられた任務に戻っていった。
そこに残された大きな影は、背中の羽を一つ羽ばたかせた。
「お母様、どうやらあのハルナっていう娘、あのモイスっていうトカゲと接触したみたいよ」
「そしてその時から、あのトカゲの存在がグラキース山から消えているようです」
お母様と呼ばれた人物は、ヴェスティーユとヴァスティーユの言葉に反応を見せず背中を向けたまま自分の爪をカリカリとかじっている。
いつまでも母親からの言葉を待つ二人だったが、今回も期待している方が誤りだと悟った。
ヴァスティーユはヴェスティーユの肩に手を置いて、部屋を出るように促す。
――カ……チャ
扉が閉まる乾いた音が聞こえ、かじっていた爪を口元から離した。
懐から焦げ目の付いた切れ端を一つ取り出し、それを眺めて一言つぶやいた。
「……ハルナ」
0
あなたにおすすめの小説
300年『宮廷魔法使い』として国を支え続けた魔女ですが、腹黒王子にはめられて国外追放されました ~今さら戻れと言っても無駄です~
日之影ソラ
ファンタジー
小説家になろうにて先行配信中!
無尽蔵の魔力と圧倒的な魔法を操る存在、『魔女』。その一人であるリザリーは、三百年前から国を支え続けてきた。帝都を守る結界の維持、新たな魔導具の開発、才能ある者たちへの指導など。それらを彼女一人が担い続けていた。全ては三百年前の王と交わした約束のため。
しかし、ある日突然、彼女の日常は一変してしまう。
次期帝王であるフレール殿下が帝王へのクーデターを企て、その誘いを断ったことをきっかけに、魔女であるリザリーは危険分子だと判断された。殿下の策略に嵌り国家反逆罪の罪を被せられた彼女は国外へと逃走する。
逃げ続ける彼女を追う帝国の追手。来る日も来る日も逃げ続け、疲労が溜まる中で思い返すのは、王城に残してきた教え子のことだった。
十年の時を経て、魔女は教え子と再会を果たす。
【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】
タカハシU太
エッセイ・ノンフィクション
書けえっ!! 書けっ!! 書けーっ!! 書けーっ!!
*
エッセイ? 日記? ただのボヤキかもしれません。
『【作家日記】小説とシナリオのはざまで……【三文ライターの底辺から這い上がる記録】』
カクヨムの週間ランキング1位(エッセイ・ノンフィクション部門)獲得経験あり。
戦姫のトロイメライ~断罪される未来が視えたので先に死んだことにしました
志熊みゅう
恋愛
十三歳の誕生日、侯爵令嬢エディット・ユングリングは、自分が死ぬ瞬間を"夢"に視た。
卒業舞踏会で、婚約者であるフィーラ帝国・第一皇子マティアス殿下から、身に覚えのない罪で断罪され、捕らえられる。傍らでは見知らぬピンクブロンドの令嬢が不敵に微笑む。貴族牢のある北の古城に連行される途中、馬車ごと“死の谷”へと落ちていった――そんな妙に生々しい夢。
マティアス殿下は聡明で優しく、エディットを大切にしているように見えた。だから誰もその"夢"のことを気に留めなかった。しかし、兄の怪我、愛猫の死、そして大干ばつ――エディットの"夢"は次々と現実になっていく。ある日、エディットは気づく。この"夢"が、母の祖国・トヴォー王国の建国の軍師と同じ異能――"未来視"であることに。
その頃、一年早く貴族学院に入学したマティアス殿下は、皇宮から解放され、つかの間の自由を知った。そして、子爵令嬢ライラに懸想するようになる。彼女は、"夢"の中で冷酷に微笑むあの令嬢に瓜二つ。エディットは自分が視た"夢"が少しずつ現実になっていくことに恐怖した。そんな時に視た、黒髪の令息が「愛しているよ」と優しくはにかむ、もう一つの『未来』。エディットは決心する。
――断罪される未来を変えたい。もう一つの未来を自分で選び取る。
彼女は断罪される前に、家族と共に自らの死を偽装し、トヴォー王国へと身を隠す。選び取った未来の先で、エディットは『戦姫』として新たな運命の渦に飲まれていく――。
断罪の未来を捨て、愛する者のために戦う令嬢の恋愛ファンタジー!
悪役令嬢になるのも面倒なので、冒険にでかけます
綾月百花
ファンタジー
リリーには幼い頃に決められた王子の婚約者がいたが、その婚約者の誕生日パーティーで婚約者はミーネと入場し挨拶して歩きファーストダンスまで踊る始末。国王と王妃に謝られ、贈り物も準備されていると宥められるが、その贈り物のドレスまでミーネが着ていた。リリーは怒ってワインボトルを持ち、美しいドレスをワイン色に染め上げるが、ミーネもリリーのドレスの裾を踏みつけ、ワインボトルからボトボトと頭から濡らされた。相手は子爵令嬢、リリーは伯爵令嬢、位の違いに国王も黙ってはいられない。婚約者はそれでも、リリーの肩を持たず、リリーは国王に婚約破棄をして欲しいと直訴する。それ受け入れられ、リリーは清々した。婚約破棄が完全に決まった後、リリーは深夜に家を飛び出し笛を吹く。会いたかったビエントに会えた。過ごすうちもっと好きになる。必死で練習した飛行魔法とささやかな攻撃魔法を身につけ、リリーは今度は自分からビエントに会いに行こうと家出をして旅を始めた。旅の途中の魔物の森で魔物に襲われ、リリーは自分の未熟さに気付き、国営の騎士団に入り、魔物狩りを始めた。最終目的はダンジョンの攻略。悪役令嬢と魔物退治、ダンジョン攻略等を混ぜてみました。メインはリリーが王妃になるまでのシンデレラストーリーです。
【完結済】悪役令嬢の妹様
紫
ファンタジー
星守 真珠深(ほしもり ますみ)は社畜お局様街道をひた走る日本人女性。
そんな彼女が現在嵌っているのが『マジカルナイト・ミラクルドリーム』というベタな乙女ゲームに悪役令嬢として登場するアイシア・フォン・ラステリノーア公爵令嬢。
ぶっちゃけて言うと、ヒロイン、攻略対象共にどちらかと言えば嫌悪感しかない。しかし、何とかアイシアの断罪回避ルートはないものかと、探しに探してとうとう全ルート開き終えたのだが、全ては無駄な努力に終わってしまった。
やり場のない気持ちを抱え、気分転換にコンビニに行こうとしたら、気づけば悪楽令嬢アイシアの妹として転生していた。
―――アイシアお姉様は私が守る!
最推し悪役令嬢、アイシアお姉様の断罪回避転生ライフを今ここに開始する!
※長編版をご希望下さり、本当にありがとうございます<(_ _)>
既に書き終えた物な為、激しく拙いですが特に手直し他はしていません。
∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽∽
※小説家になろう様、カクヨム様にも掲載させていただいています。
※作者創作の世界観です。史実等とは合致しない部分、異なる部分が多数あります。
※この物語はフィクションです。実在の人物・団体等とは一切関係がありません。
※実際に用いられる事のない表現や造語が出てきますが、御容赦ください。
※リアル都合等により不定期、且つまったり進行となっております。
※上記同理由で、予告等なしに更新停滞する事もあります。
※まだまだ至らなかったり稚拙だったりしますが、生暖かくお許しいただければ幸いです。
※御都合主義がそこかしに顔出しします。設定が掌ドリルにならないように気を付けていますが、もし大ボケしてたらお許しください。
※誤字脱字等々、標準てんこ盛り搭載となっている作者です。気づけば適宜修正等していきます…御迷惑おかけしますが、お許しください。
期待外れの後妻だったはずですが、なぜか溺愛されています
ぽんちゃん
BL
病弱な義弟がいじめられている現場を目撃したフラヴィオは、カッとなって手を出していた。
謹慎することになったが、なぜかそれから調子が悪くなり、ベッドの住人に……。
五年ほどで体調が回復したものの、その間にとんでもない噂を流されていた。
剣の腕を磨いていた異母弟ミゲルが、学園の剣術大会で優勝。
加えて筋肉隆々のマッチョになっていたことにより、フラヴィオはさらに屈強な大男だと勘違いされていたのだ。
そしてフラヴィオが殴った相手は、ミゲルが一度も勝てたことのない相手。
次期騎士団長として注目を浴びているため、そんな強者を倒したフラヴィオは、手に負えない野蛮な男だと思われていた。
一方、偽りの噂を耳にした強面公爵の母親。
妻に強さを求める息子にぴったりの相手だと、後妻にならないかと持ちかけていた。
我が子に爵位を継いで欲しいフラヴィオの義母は快諾し、冷遇確定の地へと前妻の子を送り出す。
こうして青春を謳歌することもできず、引きこもりになっていたフラヴィオは、国民から恐れられている戦場の鬼神の後妻として嫁ぐことになるのだが――。
同性婚が当たり前の世界。
女性も登場しますが、恋愛には発展しません。
【完】幼馴染と恋人は別だと言われました
迦陵 れん
恋愛
「幼馴染みは良いぞ。あんなに便利で使いやすいものはない」
大好きだった幼馴染の彼が、友人にそう言っているのを聞いてしまった。
毎日一緒に通学して、お弁当も欠かさず作ってあげていたのに。
幼馴染と恋人は別なのだとも言っていた。
そして、ある日突然、私は全てを奪われた。
幼馴染としての役割まで奪われたら、私はどうしたらいいの?
サクッと終わる短編を目指しました。
内容的に薄い部分があるかもしれませんが、短く纏めることを重視したので、物足りなかったらすみませんm(_ _)m
俺の婚約者は地味で陰気臭い女なはずだが、どうも違うらしい。
ミミリン
恋愛
ある世界の貴族である俺。婚約者のアリスはいつもボサボサの髪の毛とぶかぶかの制服を着ていて陰気な女だ。幼馴染のアンジェリカからは良くない話も聞いている。
俺と婚約していても話は続かないし、婚約者としての役目も担う気はないようだ。
そんな婚約者のアリスがある日、俺のメイドがふるまった紅茶を俺の目の前でわざとこぼし続けた。
こんな女とは婚約解消だ。
この日から俺とアリスの関係が少しずつ変わっていく。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる