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第三章  【王国史】

3-280 東の王国84

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「その役目をね……セイラ、あなたにやって欲しいのよ」


「私が……一人で?」


「うん……悪いとは思ってる。でも……」




エイミは、セイラから目線を外し下に俯く。
セイラの心の中には”――エンテリアを一人にはできないから”と、エイミの言葉が頭に流れ込んできた。


(……ふぅ)


セイラは小さくため息を吐き、腕を組んで見せた。


「……仕方ないわね。で、ちょっとした案もあるんでしょ?後で私も考えていたものとも、すり合わせしましょう?」



セイラは困った表情でも、口元が笑っていた。
この表情は、母親のサレンが子供だったエイミたちに向けていた表情だった。

服を汚したりケガをしたりした時、その理由を聞くと母親のために好物の実を探すなどをしたときに見られた。
怒りたくても、自分の娘たちが自分のためにしてくれたことを怒るわけにもいかない。
そんな複雑な表情だったがセイラも母親となり、あの時の母親の気持ちがわかるようになったのだろう。


それにセイラも精霊使いの育成計画を考えていたことは、さすが双子の姉妹というところだ。


最終的には、エンテリアも別な国を創り上げるという目標を掲げる事で、この場はこれで収まりを見せる。



エンテリアたちは旅立ちの準備を自分たちで行うと言っていたが、ブランビートとセイラはそれだけはこちらでさせて欲しいと強く言われてお願いすることにした。
ブランビートはマリアリスにその手配を指示し、マリアリスは喜んで命令を引き受けた。


エイミとセイラは、”精霊使いの育成機関”の設立の元となる素案を作り上げていく。


育成機関を設置する場所は、二人がが育った村――ラヴィーネ
そして精霊とつながりを持ったあの場所を”始まりの森”として名付け、国の元で管理することにした。

始めに、精霊使いの力を持っても問題のない人材を育成することから始める。
次に、精霊との契約に関しての情報を集めていく。

いつでも契約可能か、男女差はあるのか、一人で何種類の精霊と契約できるのか……

そういった、様々な実験が行われていくことになる。



最後の夜、エイミたちはみんなで集まり食事をする。
そこにはエイミの両親も集まる。
ウェイラブとレビュアは、モレドーネにいるため事後に報告することにし、スミカの墓にはまた改めて行くことにした。

宴は盛り上がりをみせ、セイラはこのままこの時がずっと続けばという思いが生まれる。
だが、トライアのような魔物から守ることも、自分たちの使命だと考えている。
離れ離れになっても、永遠の別れでは決してない。

そう思いつつも、セイラの目からは涙が零れた。


「……お母様。どこか痛いの?お腹?」

心配そうに見つめる息子の頭を撫で、笑顔を精一杯の笑顔を作って見せた。



「ううん……大丈夫よ。心配してくれて、ありがとうね」


セイラは、自分の息子を引き寄せて抱き締めた。
息子も母親のぬくもりの心地よさに顔をうずめながら、小さな手をセイラの身体に回して抱き締め返した。
エイミもセイラの姿を見て、涙ぐんでいた。



翌朝、ブランビートとセイラとマリアリスが見送りに立つ。

「……エンテリア、何かあったらすぐに連絡してくれよ」

「あぁ、ありがとう。だが、次に連絡するときは建国の連絡かもな」


そう言いつつ、二人は硬く握手を交わす。
一方エイミとセイラは、二人の契約した精霊も姿を見せ別れの挨拶を交わしていた。



「セイラ……お父様とお母様をお願いね」

「わかってるって。それよりもエイミ、あなた達も気を付けてね」


ノービスとサレンは、姉妹の別れを邪魔をしないようにとこの場には姿を見せなかった。
この時代では、これが永遠の別れでというような場面は度々みられる。
その大切な時間はこれからを生きる二人のために使った方が良いという思いから、二人はこの場には姿を見せていなかった。


ひとしきりの挨拶を終え、いよいよエンテリアとエイミは旅立ちの時を迎える。
ブランビートは、モイスの加護を受けた剣をエンテリアに手渡した。

この国の国宝として扱うべきだとエンテリアは渡していたが、ブランビートはその本来の所有者であるブランビートが持っているべきだとして手渡した。
エンテリアはさらにその申し出を拒否しようとしたが、協力関係を築き上げる上で同格の品を持つべきだとの意見に納得し、その剣を受け取ることにした。


最後に、マリアリスがエンテリアに一通の封筒を手渡す。

「……これは?」

問い掛けられたマリアリスの表情は、国の上下関係のない姉弟の姉としての表情で応える。


「エンテリア……これは、お母様からあなた宛てに預かったものよ。お母様にはあなたのことを報告していたわ、それを心配して最後に手紙とお母様の髪の毛を預かったのよ……」


その言葉を聞き、エンテリアは急いで蝋で塞がれた封筒を開けた。
そこには紙に包まれたスミカの髪の毛と一通の手紙が入っていた。

エンテリアはその手紙を取り出し、ゆっくりと開いた。


エンテリアへ

あなた達には、最後まで母親らしいことができなくて申し訳なく思います。
ですが、あなたは今これからの国の未来のために頑張っているのでしょう。
そんなあなた達を、私は心から誇りに思います。
あなた達を産んでよかった……と。

これからも私は、あなた達の傍にいます。
自分たちの思う通りの生き方をしなさい。

――マリアリス、エンテリア、ブランビート
あなた達は、私の宝物です。

あなたの母親より  スミカ





エンテリアは、流れ落ちそうな涙を堪え天を仰ぎ亡くなった母親に誓う。



”――この世界を必ず救ってみせる”と




こうして、エンテリアとエイミはディバイド山脈の向こうへと旅立った。







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