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第三章 【王国史】
3-273 東の王国77
しおりを挟む四人は一つの部屋に集まって、神妙な顔付きで話し合いを行っている。
その議題は、『誰がこの国を治めるか』ということ。
当初の案では王が全権を握り、国を運営すると考えていた。
王はその絶対的な地位であることから、武力、知力、カリスマ、そういったものを備わっている人物である。
エンテリアとブランビート、この双子は全ての能力においてほとんど同じものを備えている。
今のところその差があるとすれば、ウェイラブから託されたモイスの加護を持つ剣と盾がそれぞれひとりずつに与えられたことだった。
だが、それも王になったものが両方を持つべきか、このままそれぞれが持っているべきか。
この件についても、二人の話し合いの中では結論が出ることがなかった。
マリアリスに聞いても”どちらが王になったとしても守るべき人物は変わりません”と、どちらが付いても問題がないような返答だった。
エフェドーラに聞けば、”そんなこと私ごとき一商人に決めれるはずがありません!?”と、全力で拒否をされた。
サポート役であるノービスに聞いても、”それはお互いでお決めください”と求めている答えではなかった。
最終的に回ってきた相談相手は、同じ双子のエイミとセイラの二人だった。
だが、同じような二人にどちらが王にふさわしいかなどと聞かれてもエイミとセイラに答えられるはずはなかった。
そこで話し合ったのは、能力や装備などにおいて、お互いの持っているもの差があるのかどうか確かめようということになった。
その結果、先程の通り二人に託された剣と盾以外に優位になるような差は見られなかった。
このまま平行線の話し合いが続くかと思われたとき、エイミが何気なく呟いた。
「……伴侶」
エイミが思い出したのは、ウェイラブが建国の際に二人につけた条件だった。
最終的にはその条件は破棄し、二人に村長の権限を譲ったために後は二人や誰かと相談して決めてもよいということになっていた。
その言葉にエンテリアとブランビートの目の奥に光が灯感じた。
「……一旦、休憩しましょうか?」
ブランビートがそう告げて、一時間ほど休憩をしてまた集まることになった。
エイミとセイラ、エンテリアとブランビートはそれぞれの部屋で休息をとった。
「……ねぇ、エイミ」
「ん?……なぁに、セイラ」
エイミは弱々しく話しかけてきたセイラの体調を気遣いながら返事をする。
「なぜあの時……あんなこと言ったの?」
「ん?”あの時”……いつのこと?」
「ほら、休憩に入る前に……」
「え?……あぁ、”伴侶”ってことね?何かあの固まった空気を変えられないかなってね、今までのことを思い出してみたのよ。そうしたら、ウェイラブさんの条件を思い出してね……それでつい言葉に出ちゃったのよ……それが、どうかしたの?」
「え!?うん、いや何でもないの。そうだったんだね……さ、そろそろ時間だよ!はやく行こ!?」
そして、また四人は顔を合わせ解決の糸口の見えない問題に向かって話し合いを再開する。
マリアリスが、四人の前に再び紅茶を用意していく。
全員の前にカップを置き、マリアリスは再び扉の隣で直立の姿勢をとる。
そして、ブランビートが紅茶を一口含む、それと同時にセイラも一口紅茶を含んだ。
「さて……先程の」
エンテリアはそう話を切り出そうとしたが、その言葉を隣にいたブランビートが片手を挙げて制した。
「あの、ちょっと聞いて欲しい……ことが……あって」
「――?」
エンテリアは、今までにないブランビートの雰囲気に違和感を覚える。
エイミもセイラの様子が違うことを感じ、セイラに何か隠していないかと聞こうとしたその時、ブランビートがエイミの言葉を塞いだ。
「聞いてください……私とセイラさんの間に……子供が出来ました」
「「え?……えぇ!?」」
その発言にエイミとブランビートは同時に驚いた。
そして、真っ先に二人の頭によぎった言葉は、”いつの間に!?”だった。
セイラの顔を見ると、耳まで真っ赤に染まりずっと下に俯いていた。
エイミは口をパクパクとさせ、言葉と思いが繋がっていない様子だった。
その様子を見ていたエンテリアは、驚きのエイミに変り言いたいことを代弁して口にした。
「あの……その……いつからなんだ?」
その問いかけに対して、ブランビートが応える。
二人は、あのトライアの騒動が終わった直後からお互いのことを意識し始めたようだった。
セイラはブランビートに助けられた時、自分の心の中の気持ちに気が付いてしまったようだった。
そこから少しずつお互いの気持ちを確かめながら過ごしていき、建国の許可が下りた時にブランビートからセイラに自分の想いを伝えたのだという。
そこから二人は気持ちと身体を何度か重ね合って、セイラの中に二人の結果が誕生したということだった。
その話しを聞いても、扉の傍に立つマリアリスは動揺していない。
もしかすると、既に勘付いていたのだろう。
何度かスミカの傍に移動していたが、情報収集は怠っていなかったようだ。
「うーん……それでは決まりだな」
「もう、今までの時間は何だったのよ!?」
エイミは、無駄な時間をかけてしまったことに対して文句を言うが、その顔は笑っていた。
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