問題が発生したため【人生】を強制終了します。 → 『精霊使いで再起動しました。』

山口 犬

文字の大きさ
上 下
440 / 1,278
第三章  【王国史】

3-272 東の王国76

しおりを挟む





「――はっ!!」


「――はい!!」





スミカとマリアリスの二人は、スライプたちが見守る中組手を行っていた。
しかも、それはスミカの方から依頼があって行われていた。


受けているマリアリスは、自分の母親の強さを実感する。
以前、中途半端に終わった対戦とは比べ物にならないくらいにスミカの動きが変った。

スミカは自分の身体を確かめるように、ゆっくりとギアをあげていく。
三つ目のギアがあがったところで、マリアリスは目視よりも勘でしかスミカを交わせなくなっていた。


周りで見ているスライプたちの目ではもう、既に二人が何をしているのか分からなくなってきていた。

口が半開きになっているスライプの顔を、車いすに座って下から見上げる女性が声を掛けた。




「……ねぇ、スライプ。どちらが強いの?」





レビュアが格闘技のことは全く分からないため、何が起きているのかさっぱり理解できなかった。




「いやぁ……私にもサッパリでして……ただ、お二人とも普通じゃないってことですよ、レビュア様」





スミカが目覚めた日、同じくレビュアも昏睡状態から回復していた。

あの後、ウェイラブがスミカの部屋に飛び込んできた。
それはレビュアの様子を見行ってみると目を開けていたため”もしかして”と思い、ウェイラブは奇跡を期待してスミカの部屋の扉を開けた。



これもモイスのおかげであることは、マリアリスとエフェドーラは気付いた。
多分、離れているエイミたちには知らない現象だろうとも。


ウェイラブにしてみれば、もうこれ以上の幸せはなかった。
後は今まで苦労を掛けた子供と妻に、精一杯の愛情を注ぐことを決めた。






――パシッ





スミカは、マリアリスの背後で叩きこまれた裏拳を手で止める。




「……ふぅ。ありがとう、マリー。いい運動になったけど、少し手を抜いてくれないと……私も病み上がりなんだからね」



そう言いつつも、スミカは息も上がっておらず、その額には汗一つかいていない。
反対にマリアリスは、肩で息をして前髪が汗で濡れて額に纏わりついていた。




エフェドーラが二人分の水手に、汗を拭くための布を腕にかけて持ってきてくれた。
それを二人に手渡して、声を掛ける。






「……それで、身体の方は?」


「えぇ、大丈夫ね。この前の時は、この運動量よりも少ないところでもう息が苦しかったわ……だけど今は少し心拍数が高いくらいで、息苦しさは無いわね」



「へー……良かったです。凄い力をもってるんですね、”大竜神”っていうお方は」

「そうね。私もお会いして、お礼をお伝えしたいところだけど。今はあの子たちの方が、お会いする確率が高いでしょうからあの子たちに行ってもらおうかしらね」


「……これで、もう薬草飲まなくっても大丈夫……そうですね」




エフェドーラは少し寂しそうに、下をうつむきながら言った。



(これで自分の役目はお終い……かぁ)




これまでスミカのために、商人としてガムシャラに頑張ってきた。
商人としての交渉術、心構え、簡単な護身術……
エフェドーラが身に着けている商人としてのスキルは、その全てをスミカから教わった。


そのお礼も兼ねて高価であった薬草も、エフェドーラは少し持ち出してスミカには安価で納めていた。
初めは無料で提供するといったが、スミカはそれはできないと定価で購入するといった。
エフェドーラが七割でいいと言って、スミカには最終的に納得してもらった。
それでも半額で、エフェドーラはスミカに渡していた。




だが、それもスミカが完治してしまった今では、もうエフェドーラがスミカに対して関わることがない……そう考えていた。

そのことに勘付いたスミカは、エフェドーラにお願いをする。



「ねぇ、エフェドーラさん。これからも、この集落によってくれるんでしょ?私ね、エフェドーラさんが話してくれるいろんなところの話が聞きたいのよ……あ、もちろんお金もお支払いするわ」



その発言に、エフェドーラはあることを思い付いた。



「……それって、”情報”を買うってことですか?」



その言葉を聞き、スミカはただニッコリと笑ってみせた。


当時、情報という商品は存在しなかった。
購買者は、その範囲が自分の周りの村だけに限られた狭い範囲でしか物事を見ていなかった。
そのため、自分の村の外の情報が重要視されることは少なかった。

しかし、スミカは情報の重要性は理解しており、これから国が創られいろんな村が国が管轄する町に変わり、もしかすると反逆を企む者も出てくる可能性もある。

その際には物、人、金が必ず動くはず。
そういう時こそ、商人であるエフェドーラの出番とスミカは考えた。


そのことに気付いたマリアリスも、その意見に賛同した。




「あぁ……そういうことですか。お母様、流石です!」



「どう?引き受けてもらえる?エフェドーラ」




またスミカと関わり合えることと、スミカの重要な役目を与えられた喜びがエフェドーラの中で爆発した。



「はい!はい!はい!もちろんですとも、お任せくださいスミカ様!!!」






こうして、王国とエフェドーラは重要な関係を持つことになった。



モイスの存在を知ることでその拠点を国から与えられ、初代がモイスと初めて接触した場所。
綺麗な池が広がるあの場所をモレドーネと名付け、エフェドーラ家は王国のために情報と物資を集め提供することになった。





しおりを挟む
感想 5

あなたにおすすめの小説

旦那様、前世の記憶を取り戻したので離縁させて頂きます

結城芙由奈@コミカライズ発売中
恋愛
【前世の記憶が戻ったので、貴方はもう用済みです】 ある日突然私は前世の記憶を取り戻し、今自分が置かれている結婚生活がとても理不尽な事に気が付いた。こんな夫ならもういらない。前世の知識を活用すれば、この世界でもきっと女1人で生きていけるはず。そして私はクズ夫に離婚届を突きつけた―。

転生悪役令嬢に仕立て上げられた幸運の女神様は家門から勘当されたので、自由に生きるため、もう、ほっといてください。今更戻ってこいは遅いです

青の雀
ファンタジー
公爵令嬢ステファニー・エストロゲンは、学園の卒業パーティで第2王子のマリオットから突然、婚約破棄を告げられる それも事実ではない男爵令嬢のリリアーヌ嬢を苛めたという冤罪を掛けられ、問答無用でマリオットから殴り飛ばされ意識を失ってしまう そのショックで、ステファニーは前世社畜OL だった記憶を思い出し、日本料理を提供するファミリーレストランを開業することを思いつく 公爵令嬢として、持ち出せる宝石をなぜか物心ついたときには、すでに貯めていて、それを原資として開業するつもりでいる この国では婚約破棄された令嬢は、キズモノとして扱われることから、なんとか自立しようと修道院回避のために幼いときから貯金していたみたいだった 足取り重く公爵邸に帰ったステファニーに待ち構えていたのが、父からの勘当宣告で…… エストロゲン家では、昔から異能をもって生まれてくるということを当然としている家柄で、異能を持たないステファニーは、前から肩身の狭い思いをしていた 修道院へ行くか、勘当を甘んじて受け入れるか、二者択一を迫られたステファニーは翌早朝にこっそり、家を出た ステファニー自身は忘れているが、実は女神の化身で何代前の過去に人間との恋でいさかいがあり、無念が残っていたので、神界に帰らず、人間界の中で転生を繰り返すうちに、自分自身が女神であるということを忘れている エストロゲン家の人々は、ステファニーの恩恵を受け異能を覚醒したということを知らない ステファニーを追い出したことにより、次々に異能が消えていく…… 4/20ようやく誤字チェックが完了しました もしまだ、何かお気づきの点がありましたら、ご報告お待ち申し上げておりますm(_)m いったん終了します 思いがけずに長くなってしまいましたので、各単元ごとはショートショートなのですが(笑) 平民女性に転生して、下剋上をするという話も面白いかなぁと 気が向いたら書きますね

出来損ないと呼ばれた伯爵令嬢は出来損ないを望む

家具屋ふふみに
ファンタジー
 この世界には魔法が存在する。  そして生まれ持つ適性がある属性しか使えない。  その属性は主に6つ。  火・水・風・土・雷・そして……無。    クーリアは伯爵令嬢として生まれた。  貴族は生まれながらに魔力、そして属性の適性が多いとされている。  そんな中で、クーリアは無属性の適性しかなかった。    無属性しか扱えない者は『白』と呼ばれる。  その呼び名は貴族にとって屈辱でしかない。      だからクーリアは出来損ないと呼ばれた。    そして彼女はその通りの出来損ない……ではなかった。    これは彼女の本気を引き出したい彼女の周りの人達と、絶対に本気を出したくない彼女との攻防を描いた、そんな物語。  そしてクーリアは、自身に隠された秘密を知る……そんなお話。 設定揺らぎまくりで安定しないかもしれませんが、そういうものだと納得してくださいm(_ _)m ※←このマークがある話は大体一人称。

【完結】聖女にはなりません。平凡に生きます!

暮田呉子
ファンタジー
この世界で、ただ平凡に、自由に、人生を謳歌したい! 政略結婚から三年──。夫に見向きもされず、屋敷の中で虐げられてきたマリアーナは夫の子を身籠ったという女性に水を掛けられて前世を思い出す。そうだ、前世は慎ましくも充実した人生を送った。それなら現世も平凡で幸せな人生を送ろう、と強く決意するのだった。

溺愛最強 ~気づいたらゲームの世界に生息していましたが、悪役令嬢でもなければ断罪もされないので、とにかく楽しむことにしました~

夏笆(なつは)
恋愛
「おねえしゃま。こえ、すっごくおいしいでし!」  弟のその言葉は、晴天の霹靂。  アギルレ公爵家の長女であるレオカディアは、その瞬間、今自分が生きる世界が前世で楽しんだゲーム「エトワールの称号」であることを知った。  しかし、自分は王子エルミニオの婚約者ではあるものの、このゲームには悪役令嬢という役柄は存在せず、断罪も無いので、攻略対象とはなるべく接触せず、穏便に生きて行けば大丈夫と、生きることを楽しむことに決める。  醤油が欲しい、うにが食べたい。  レオカディアが何か「おねだり」するたびに、アギルレ領は、周りの領をも巻き込んで豊かになっていく。  既にゲームとは違う展開になっている人間関係、その学院で、ゲームのヒロインは前世の記憶通りに攻略を開始するのだが・・・・・? 小説家になろうにも掲載しています。

【完結】転生7年!ぼっち脱出して王宮ライフ満喫してたら王国の動乱に巻き込まれた少女戦記 〜愛でたいアイカは救国の姫になる

三矢さくら
ファンタジー
【完結しました】異世界からの召喚に応じて6歳児に転生したアイカは、護ってくれる結界に逆に閉じ込められた結果、山奥でサバイバル生活を始める。 こんなはずじゃなかった! 異世界の山奥で過ごすこと7年。ようやく結界が解けて、山を下りたアイカは王都ヴィアナで【天衣無縫の無頼姫】の異名をとる第3王女リティアと出会う。 珍しい物好きの王女に気に入られたアイカは、なんと侍女に取り立てられて王宮に! やっと始まった異世界生活は、美男美女ぞろいの王宮生活! 右を見ても左を見ても「愛でたい」美人に美少女! 美男子に美少年ばかり! アイカとリティア、まだまだ幼い侍女と王女が数奇な運命をたどる異世界王宮ファンタジー戦記。

オバサンが転生しましたが何も持ってないので何もできません!

みさちぃ
恋愛
50歳近くのおばさんが異世界転生した! 転生したら普通チートじゃない?何もありませんがっ!! 前世で苦しい思いをしたのでもう一人で生きて行こうかと思います。 とにかく目指すは自由気ままなスローライフ。 森で調合師して暮らすこと! ひとまず読み漁った小説に沿って悪役令嬢から国外追放を目指しますが… 無理そうです…… 更に隣で笑う幼なじみが気になります… 完結済みです。 なろう様にも掲載しています。 副題に*がついているものはアルファポリス様のみになります。 エピローグで完結です。 番外編になります。 ※完結設定してしまい新しい話が追加できませんので、以後番外編載せる場合は別に設けるかなろう様のみになります。

飯屋の娘は魔法を使いたくない?

秋野 木星
ファンタジー
3歳の時に川で溺れた時に前世の記憶人格がよみがえったセリカ。 魔法が使えることをひた隠しにしてきたが、ある日馬車に轢かれそうになった男の子を助けるために思わず魔法を使ってしまう。 それを見ていた貴族の青年が…。 異世界転生の話です。 のんびりとしたセリカの日常を追っていきます。 ※ 表紙は星影さんの作品です。 ※ 「小説家になろう」から改稿転記しています。

処理中です...